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あの事故から10年。あの日腕の中で泣いていた2人も大きく成長していた。
上の子はこの春から高校生に、下の子は小学5年生になる。
新しい家に仏壇なんて置けるはずも無く、亡くなった私の妻の写真に下の子が手を合わせる。あの日から帰って来なかったのは親友の夫婦だけでなく、同行していた私の妻もその1人だった。
「行ってきますお母さん」
「偉いな星海。輝祈もちゃんと行ってきますしてよ」
「分かってる! メイクもう少しだから」
遠くから年頃の理由で荒々しく返事をする輝祈は小走りで部屋に来ると、手を合わせながらすっと腰を落として、流れるように行ってきますを言う。それを見た星海は両足をばたばたさせながらダメだと騒ぎ、制服のスカートを手で掴む。
「ちょっ、やめて新しい制服に。ねぇこんなうるさいの入学式に連れて来ないでよ」
「まだ学校が休みだからお留守番させるのも心配だし、ばぁばも予定あるって言ってて」
「星海ねぇわがまま」
「はぁ……ほんと無理、お前も美容師ならちゃんとした格好で来て。もう行くから」
「あ、送ってかなくても……」
「友だちのお母さんに乗せてもらうからいい」
時計を見て弾かれたように飛び出して行った輝祈を追い掛けようとした足を止め、わんわん泣きじゃくる星海の頭を撫でる。
両手を広げて抱き着いて来る小さな体を抱き上げて、入学式の始まる時間までにやるべき事を整理する。
「まずは書類と、物品販売もあるからそのお金どこ置いたっけ。えっと服だ、スーツは昨日出して──シャツのアイロン掛けないと! あとは、あぁぁ大丈夫だから星海泣かないで、ほら笑お」
片腕に収まるほど小さな頃と変わらずに泣き虫な星海と部屋の真ん中で座り込み、戯言のつもりで空を見て呟く。
「なんかさ、上手く生きれなくてさ天音。って弱音言っても冷たくあしらわれるか」
いつの間にか泣き止んでいた星海に腕を払い除けられて更に悲しくなってきたのを我慢して、さっと必要な書類一式をまとめてカバンに入れながら、不要な荷物をカバンから出す。
ハンガーに掛けたままアイロンを終えて素早く着替え、肩まである髪もアレンジして軽くメイクをする。
「パパ見違えるね」
「そんな言葉どこで覚えてきたの。でもどうかな、かっこいいかな」
「かっこよくはないかな、綺麗」
「あれ、そっか。輝祈に怒られるかな」
「行ったら勝ち」
「あはははっ、なら行っちゃおっか」
丁度ヘアアレンジを終えて立ち上がった星海が走る前に捕まえ、涙の跡を拭いて顔の前で拳を作ってOKのサインを出す。それを見て直ぐに洗面所に駆けていった星海は、鏡で髪を見て飛び跳ねて帰って来る。
「見てママ! パパが髪をお花にしてくれた、パパとお揃いのお花だー!」
「はい席に着いて、朝ご飯食べて丁度良いくらいかな」
朝からほぼ毎日恒例の喧嘩がありながらもいざ落ち着いてみれば順調で、パンとスープを食べてから家を出る。
よく晴れた新生活日和な空の下に出ると、何でか幸せな事が起こりそうな気がして、うきうきしながら2人でマンションの階段を下りる。
上の子はこの春から高校生に、下の子は小学5年生になる。
新しい家に仏壇なんて置けるはずも無く、亡くなった私の妻の写真に下の子が手を合わせる。あの日から帰って来なかったのは親友の夫婦だけでなく、同行していた私の妻もその1人だった。
「行ってきますお母さん」
「偉いな星海。輝祈もちゃんと行ってきますしてよ」
「分かってる! メイクもう少しだから」
遠くから年頃の理由で荒々しく返事をする輝祈は小走りで部屋に来ると、手を合わせながらすっと腰を落として、流れるように行ってきますを言う。それを見た星海は両足をばたばたさせながらダメだと騒ぎ、制服のスカートを手で掴む。
「ちょっ、やめて新しい制服に。ねぇこんなうるさいの入学式に連れて来ないでよ」
「まだ学校が休みだからお留守番させるのも心配だし、ばぁばも予定あるって言ってて」
「星海ねぇわがまま」
「はぁ……ほんと無理、お前も美容師ならちゃんとした格好で来て。もう行くから」
「あ、送ってかなくても……」
「友だちのお母さんに乗せてもらうからいい」
時計を見て弾かれたように飛び出して行った輝祈を追い掛けようとした足を止め、わんわん泣きじゃくる星海の頭を撫でる。
両手を広げて抱き着いて来る小さな体を抱き上げて、入学式の始まる時間までにやるべき事を整理する。
「まずは書類と、物品販売もあるからそのお金どこ置いたっけ。えっと服だ、スーツは昨日出して──シャツのアイロン掛けないと! あとは、あぁぁ大丈夫だから星海泣かないで、ほら笑お」
片腕に収まるほど小さな頃と変わらずに泣き虫な星海と部屋の真ん中で座り込み、戯言のつもりで空を見て呟く。
「なんかさ、上手く生きれなくてさ天音。って弱音言っても冷たくあしらわれるか」
いつの間にか泣き止んでいた星海に腕を払い除けられて更に悲しくなってきたのを我慢して、さっと必要な書類一式をまとめてカバンに入れながら、不要な荷物をカバンから出す。
ハンガーに掛けたままアイロンを終えて素早く着替え、肩まである髪もアレンジして軽くメイクをする。
「パパ見違えるね」
「そんな言葉どこで覚えてきたの。でもどうかな、かっこいいかな」
「かっこよくはないかな、綺麗」
「あれ、そっか。輝祈に怒られるかな」
「行ったら勝ち」
「あはははっ、なら行っちゃおっか」
丁度ヘアアレンジを終えて立ち上がった星海が走る前に捕まえ、涙の跡を拭いて顔の前で拳を作ってOKのサインを出す。それを見て直ぐに洗面所に駆けていった星海は、鏡で髪を見て飛び跳ねて帰って来る。
「見てママ! パパが髪をお花にしてくれた、パパとお揃いのお花だー!」
「はい席に着いて、朝ご飯食べて丁度良いくらいかな」
朝からほぼ毎日恒例の喧嘩がありながらもいざ落ち着いてみれば順調で、パンとスープを食べてから家を出る。
よく晴れた新生活日和な空の下に出ると、何でか幸せな事が起こりそうな気がして、うきうきしながら2人でマンションの階段を下りる。
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