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「いい~い日ぃ~旅~立ちい~」①~焙義・ロンヤ・モモタロー・ヒロキ編~

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「メッセンキャル王家のあとぎ?」

「ああ。さすがのおめえも興味あるだろ?」

「あるわきゃねーだろ。関係ねえし」

「そう言うなって。おめえの身体ん中には、半分はアッロマーヌの血が流れてんだろ?」

「だから何だってんだよ。だいたい俺は“ゼーユ”だし」

「バカッ! めったなこと口にするもんじゃねえよっ」

 遊牧民ゆうぼくみんの青年は、周りを気にしながら、仲間のヒロキをたしなめる。

「こんな大平原のド真ん中で、他に聞いてる奴なんかいやしねーよ。」

「そりゃそうだが……

 メッセンキャル王家の家臣かしんを甘くみちゃいけねえ。奴らはどこにひそんでるか分かりゃしねんだ」

「んなこたぁ、どーでもいいからよ。後継ぎってのが誰なんか早く話せよ。

 話したくてウズウズしてんだろ? 聞くぐれえならしてやっからよ」

 ヒロキは、出来たての魔山羊まやぎチーズを手に取り、青年に差し出した。

「ヘヘッ、サンキュな。そーそー、その後継ぎだ。

 俺もこないだ初めて、知り合いにコッソリ教えてもらったんだけどな……

 アッロマーヌ国次期王の座を得るのは、なんと娘のラベダワがいよいよ有力ゆうりょくになったってうわさだぜ」

「それって、王子をさしおいてって事か?」

「事実上、あの国に王子は存在しねえよ。

 本題はこっからだ。そのラベダワ王女が、近い内にドリンガデス国を訪問するらしいんだ。

 な? 不思議な話だろ?」

「確かに、そいつぁ謎だな……ドリンガデスとアッロマーヌは犬猿けんえんの仲じゃなかったっけか?」

 何事にも深い関心を示さないヒロキだが、この内容には少し興味がわいた。

「両国の王様は、わけえ頃からひどくいがみ合ってたようだしな」

跡目あとめゆずる娘のために、そろそろお友達ごっこやっときましょーってはらかよ」

「そういやぁ、もうすぐアッロマーヌで王女のバースデーパーティーがあるらしいぜ。

 俺たちが見たこともねえよーな大金かけて、ド派手にやるんだろうな」

「へぇ~。王女ってのも大変だな」

「おっと、いけねえ。もう行かねーと。酒屋さかやのあんちゃんとバーターの約束してんの忘れてたよ」

 青年は、魔山羊チーズを口の中につめ込み、急いで魔馬まばの背にまたがった。

「いい酒が手に入ったら分けてやるからな」

「俺はパンとミルクと肉があれば十分じゅうぶんだよ」

「ま、そう言うなって! じゃあな、ヒロキ!」

「ああ、またな」

 ヒロキは適当に青年を見送った後、魔馬の首に掛けている袋から丸っこいパンを取り出した。

「やっぱコレだろ」

 いつもより早めの朝食タイム。

 まだやわらかい食べごろのパンに、ヒロキはかじりつこうとしたのだが――

(犬猿の仲と言えば……この前こんな感じの時に“奴”の声が聞こえてきたんだよな……)

 メッセンキャル王家の家臣より何より面倒めんどうな存在、煎路せんじがまたその辺にひそんでいるのではないか……

 ヒロキは注意深く大平原を見渡した。

 特に石には目を光らせた。

 もしかしたら石ではなく、石に見せかけて煎路のアイテム鉄鍋てつなべかもしれないからだ。

(……どうやら、今回はいねえみてーだな)

 ヒロキは心から安堵あんどし、朝日を眺めながら、再度パンにかじりつこうとした。

 すると、地平線の向こう側から太陽をバッグにし、二頭の魔馬がこちらに走って来るのが見えた。

「んん??」

 逆光ぎゃっこうでハッキリとは確認できないが、一頭の魔馬には二人が乗っており、

 もう一頭の魔馬に乗っている一人は大きく手を振っているように見える。

 それだけではない。

「ヒーローキーッッ!!」

 手を振っている何者かが、雄叫おたけびを上げるごとく自分の名を大声で呼んでいるではないか。

「おいおいっっ。まさかだろ……!?」

 耳になじみのある、その通りのいい声ーー

「モモ!! モモじゃねえかっっ!!」

 間違いない。モモタローだ。

 ヒロキは満面まんめんの笑顔になり、大事な朝食そっちのけで魔馬たちめがけてけ出した。

 あっという間にヒロキのもとにやって来た魔馬の背中から、魔馬が止まるのを待たずしてモモタローが勢いよく飛び下りてきた。

「ヒロキッ! 元気だったかい!?」

 モモタローは勢いそのままに、力強く思いきりヒロキに抱きついた。

「いてててっ! しめ殺されたんじゃ元気もクソもねーよ!!」

「ハハハッ。その言い回しも見てくれも、ちっとも変わってないなぁっっ」

「そーゆーお前は、なんでこんなみょうなモンぶら下げてんだよっっ」

 モモタローの喉元のどもとれるズエヒョー教のペンダントをつかみ、

 ヒロキはもう片方のうでをモモタローの首の後ろに回してガッシリと押さえこんだ。

「いたたた! 僕は煎路とは違うんだっ。手荒い歓迎はやめてくれよなっ」

「お互い様だろ!?」

 二人はじゃれ合い、ケラケラと笑う。

「ヒロキ。モモとの再会の喜びついでだ。お前も俺たちに付いて来るか?」

 後から来た魔馬の上からは、焙義ばいぎの声がした。焙義の後ろにはロンヤも居る。

「焙義ニィ、ロンヤ、また会えたな! それにしてもなんだって三人とも、俺の居場所が分かったんだ?」

愚問ぐもんだな、ヒロキ。遊牧民たちにきいていけばお前の居所いどころはすぐに分かるさ」

「ヒロキさんは何て言うか……その、たいていこうゆうとこにいるからね」

「こうゆうとこって何だよ。それに付いて来いって……どこに行くってんだ? 焙義ニィ」

「詳しく話せばちっとばかり長くなるぞ」

「そんなら家ん中に入ってくれよ。足投げ出してじっくり聞くからさ。

 こないだは煎路のせいで、せっかくみんなと会えたってのにまともに話が聞けなかったしな」

 ヒロキの家、テントの中で、さっそく四人はなつかしい昔話に花を咲かせ、近況きんきょうを報告し合った。

 煎路不在でこうして語らうのは、なんと楽しくなごみに満ちているのだろう。

「そういやモモ。モンジさんはどうしてるんだ? お前と一緒に魔界に来てないのかよ?」

「父さんは残ってるよ。荒くれ者の魔界人が人間界に来襲らいしゅうした時のためにね」

「へぇ~。そんなヒマな連中がいるもんなんだな」

「ヒロキは一度も人間界あっちたずねて来なかったよな。

 父さんはヒロキに会いたがってたんだぞ。僕たちだって……」

「わりーわりー。他の世界ってのに心が動かなくてよっ。

 俺って奴は心が動かねえと全く身体が反応しねえからさっ」

「お前は俺たちと違って、魔界で生きていく道を選んだくらいだからな」

 気まずそうに頭をかくヒロキに、焙義はほほ笑んで言った。

「そんなカッコいいもんじゃねーよ。魔界を選んだっつうよりは、よそへ行っても同じだろうって一人でしらけてただけで」

 ヒロキはれくさそうに、ますます頭をかく。

「ヒロキの選択が正しかったのかもしれないな……」

 ボソリとつぶやいたモモタローに、モモタロー以外の三人の視線が集中する。

「僕は……

 僕たちブレンドは魔界で暮らしても未来なんかないと思ってた。 
 
 人間界での生活は最高で、二度と魔界ここに戻るつもりはなかったし、ヒロキたち友人をのぞけば魔界には何の未練もないはずだった。

 なのに……こうしてみんなで話してると、魔界ここにも結構いい思い出があったんだなって……」

「モモ……」
「モモタローさん……」

「でも父さんは、僕以上に魔界を敬遠けいえんしてるけどな」

「モンジさんもいざ帰ってくっと、お前みたく魔界こっちの良さにも気づくんじゃねえの?」

「父さんの場合、そんなレベルじゃないんだよ。完全に魔界を遠ざけてる感があってさ」

「まあ……モンジさんにも色々あるんじゃねえの? 俺たちよかずっと長く生きてきてんだからさっ」

「そうだけど……」

「あ、それよりさ。クロソメマスが近づいてっけど、みんな予定はあんのかよ?

 ねえなら久々にパーッとさわごうぜ!」

 ちょっぴりしんみりとしたムードになりかけたところで、ヒロキは明るい話題を提供した。

「ク、、クロソ?? メス??」

 初めて聞いた言葉に、魔界に無知むちなロンヤだけは頭をひねらせた。

「クロソメマスだよ、ロンヤ。

 大魔神だいまじんが産まれた日だとされ、魔界ではその日を迎える前から長期の祝日に入るんだ」

 焙義はクスリと笑い、ロンヤに説明した。

「へぇ~、クロ……ソメマス……クロソメマス……あ、言えた……」

「今の僕はキゴーズしんオンリーだから、クロソメマスを祝いはしないよ」

 モモタローが、さらりと言う。

「何なんだよ、キゴーズ神て。その妙なモンと関係あんのか?」

 ヒロキは再び、モモタローのペンダントに目をやった。

「妙な物じゃないさ。キゴーズ神はズエヒョー教の偉大いだいなる……」

「ああ~、もういいぜっっ。俺には理解できねえ世界っぽい気がする」

「何だよ、聞いておきながら」

 モモタローは、小さく口をとがらせた。

 そんなヒロキとモモタロー二人のやりとりを前にして、

(ヒロキさんは……やっぱり、煎路さんに似てる……)

 ロンヤは破顔はがんした。

「クロソメマスか……持ってきたかね豆実まめみに渡したが、今回のバイトでいくらかはかせげたしな。

 ロンヤに魔界の行事を経験させるにはちょうどいいかもしれねえな」

「焙義ニィ。煎路を追ってドリンガデスに行くんだろ? あの国ならあちこちの広場で盛大にクロソメマスマーケットをやるはずだぜ?」

「お前も来る気になったか? ヒロキ」

 焙義がそう返すと、今度はヒロキに、ヒロキ以外の三人の視線が集中した。

「……煎路の奴はどーでもいいけどよ。そっちは行きてえ気もするなぁ~」

「決まりだな」

 焙義はにんまりして、ロンヤ、モモタローと顔を見合わせた。

「無事に煎路と合流ごうりゅうできれば、やっと全員集合だな。 

 モモ。なんたら教はとりあえずおいといてよ、マーケットくらいなら付き合えるだろ?」

「もちろんだよ、ヒロキ。実を言うと、クロソメマスマーケットは久しぶりで、ちょっと楽しみだったりもするんだ」

「モモさんも、みんな、その……クロソマス、マーケット……行った事あるの?」

「クロソメマスな。ああ、当然さ。大半たいはんの魔界人にとってクロソメマスは特別な日だからな。

 僕たちもこの時期になるとクロソメマスを迎える用意をして、仲間とよくマーケットに出かけたものさ。

 まあ、僕たちが行ってたのは、たいてい田舎の規模の小さなものだったけどな」

「豆実とおばさんも今頃は、部屋の飾りつけや買い出しもろもろに追われてるだろうぜ」

 忙しくしている二人の様子を、焙義は思い浮かべていた。

「焙義さん……あの、プルダちゃんのこと、忘れてない??」

 アップルダの名前が入っていない。

 ロンヤはもじもじしながら、焙義にきいてみた。

「忘れちゃいないが、プルダはそおゆうのは得意じゃねえからな」

「そっ。アイツはいつも、おばさんにせっつかれてしょーことなしに手伝ってたんだけどよ。

 今回は豆実もいるこったし、完全に手ぇ引いちまってるんじゃねえのかぁ~?」

「アハハッ。アップルダは男の子みたいだからな」

「せっかく可愛い顔してんのによ。しゃべり方といい性格といい、なんか女子っぽくねんだよなぁ~」

「ヒ、ヒロキさんっ。そおゆうのって、セクハラじゃないのかな……それに、プルダちゃんは、なんて言うか、その……」

 ロンヤが珍しくムキになり、ますますモジモジしている。

「なんだよ、ロンヤ。お前ひょっとして、プルダに気があんのかぁ?」

「え……えっと……」

 ヒロキは冗談を投げかけたつもりだったが、ロンヤは分かりやすく動揺どうようし、赤面せきめんした。

「おっ? まさか、図星ずぼしかよっ」

「……ち、ちが……」

「なぁ~に赤くなってんだよっ」

 アップルダに寄せ芽生えつつある密かな恋心をいとも簡単に見ぬかれ、しかも三人の知るところとなり、ロンヤは恥ずかしい気持ちでいぱいになっていた。

(穴がなくても、掘ってでも入りたい……)

 かかえこんだ両膝りょうひざの間に頭をうずめ、ロンヤはちぢこまった。

「ヒロキ、からかうんじゃねえ。

 ロンヤはただ、プルダも女の子らしいとこがあると言いたかっただけだ。

 アイツは何かとロンヤの世話をやいてるしな」

 丸まった身体から今にも湯気ゆげの出そうなロンヤの心情しんじょうさっしてか、焙義はそれとなく助け舟を出した。

「へぇ~、あのプルダが世話をねえ。そんなら見込みあるんじゃねえの? ロンヤ、告白してみろよ」

「だから本人が『違う』つってんだろ」

「ソイツは『ちが』までしか言ってねえじゃん」

「最後の『う』を発する前に、お前が勝手にちゃかしたんだろーが。

 コイツは一言ひとことに時間がかかるんだ。辛抱しんぼう強く待ちながら最後まで聞いてやれ」

「俺はまだロンヤこいつに慣れてねえし、まどろっこしくて待ってなんかいられねーよ。

 それからロンヤ、セクハラってのは煎路のためだけにある言葉だ。以後いご気を付けろっっ」

「二人とも、ちょっといいかい?」

 ロンヤをめぐり軽く言い合う焙義とヒロキの間に突然モモタローが割って入り、発言の許可を求め改まって片手を上げた。

「モモ、どうしたんだ。かしこまって」

 モモタローは自らのペンダントをにぎりしめ、目をきらめかせてロンヤを直視ちょくしした。

「ロンヤ。もし君がアップルダに好意を持っているとしたら、心して聞いてほしい」

「……へ……?」

 ロンヤは赤面したまま、ゆっくりと顔を上げる。

「人を好きになるピュアなおもいは美しく形づくられ、絵画かいがのごとく鮮やかにいろどられていくんだ。

 それは決して目には見えないが、どんなにかくしても隠しきれやしない。

 いずれは白日はくじつもとにさらされてしまうんだ」

「……なんか、悪事あくじあばかれるみてえな言い方だな」

 ヒロキのっこみも、モモタローの耳には入らない。

 どうやら、モモタローの中の“図絵ずえひょうだましい”がここへきて呼び起こされたようだ。

 モモタローはその延々えんえんとロンヤにキゴーズ神の教えをいて聞かせ、

 ロンヤのほてった顔面がんめんも身体も、次第に熱を失っていった。

「モモ……いいかげんにしろ」

 焙義はうんざりして目を閉じ、眉間みけんに手を当てる。

「お前のワケ分からねーなっげえ説教のせいで、ロンヤの顔からピュアな彩りもなくなっちまってんだよっっ」

 ヒロキが語気ごきを強めると、モモタローのなめらかなしたがようやく止まった。

「あはっ……ごめんごめんっ。信者のかたを相手にしてるつもりで、つい……」

 モモタローは両手の手の平をこすり合わせ、ばつが悪そうにあやまった。

「それよりな、さっき聞いた話なんだけどよ。

 アッロマーヌ国の王女が近々ちかぢか、ドリンガデス国をおとずれるそうだぜ?」

 またしても、ヒロキが別の話題に切りかえた。

「本当かい? 両国はいつから友好関係になったんだ? 昔はえきった関係だったのにさ」

 モモタローは、目を丸くする。

「安心しろよ。今でもとことん冷えきってるさ」

「だけどなんで王女なんだよ。ドリンガデスの王子と政略せいりゃく結婚でもさせるつもりなのかい?」

「あんだけ不仲をキープしてきたってのに、いきなり和睦わぼくだの同盟だの政略結婚なんて有り得ねえだろ。

 それに王女はおそらく、アッロマーヌの次期国主こくしゅになるって身だからな。

 他国たこくとつがせるなんざ、王様が絶対にさせたりしねえよ」

「じゃあ、ただたんに、出向いて行くアッロマーヌも受け入れるがわのドリンガデスも、少しずつ歩み寄ろうと努力してるって事なのかな。

 僕たちの居ない間に、魔界も変わってきてる感じだなっ。平和的解決は素晴らしいよ」

「両国の関係が徐々じょじょにぬくもってく可能性は無きにしもあらず……とは言え、そんな簡単じゃねえと思うけどな~。

 どっちも海千うみせん山千やません大国たいこくで、筋金すじがね入りの腹黒はらぐろい王様同士だもんな~」

「腹黒……!? そんな王様の息子に、煎路さん……挑戦したんだね……ホント、大丈夫かな……」

 ヒロキとモモタローの会話を聞き、ロンヤは煎路の身の上が無性むしょうに心配になった。

 と同時に、今さらながら、ひとつの疑問がわいた。

「焙義さん。自分たちも、煎路さんも、身分を証明する物なんて……ないよね? どうやって他の国に……?」

「俺たちが魔界に来てすぐに、ビルじーさんが切符と一緒に四人分の国境こっきょう通行つうこうしょう手配てはいしてくれたんだよ。

 お前のは俺が持ってるし、煎路と豆実にも渡してある。

 それにな、ロンヤ。魔界の国境は意外とガードがゆるいんだぜ」

「へえ……」

 ロンヤはある意味、感心した。

 どうやら魔界は、その点は人間界よりもひらかれているようだ。

「煎路を心配してもするだけムダだが、やりたい放題やってるのを早いとこ止めねえとな」

 焙義の言葉に、他の三人はそろってうなずいた。

「しかし焙義クン。煎路はあんな凄い魔馬をどこでどうやって手に入れたんだろうか?」

「煎路さん、お金なんか……持ってなかったよね……?」

「さあな……とにかく、アイツは後先あとさき考えずにそん時の欲望よくぼうだけで行動するからな。

 またどこへ移動するか分かりゃしねえ。先を急がねーとな」

「でもよ、三人ともバイトはどうすんだ?」

「焙義クンにぬかりはないって。ちゃんと次の契約はしてあるさ。

 もちろん、ドリンガデスへの旅案内さ!」

「正直なところ、案内できる程ドリンガデスの知識はないんだが……何とかなるだろう」

「なるほどな……まあとりあえず、出発は明日でもいいんだろ? 急いでたって疲れはしっかりとっとかねえとな。

 これから俺が、肉たっぷりのせいが出る鍋作ってやっからよ。みんな、ひと眠りして待っててくれや!」

 自慢じまんの鍋料理の腕をふるうため立ち上がり、ヒロキは材料の調達をしに出かけて行った。

「また、ヒロキさんのお鍋、食べられるね」

「ヒロキには世話になりっぱなしだな」

「僕もヒロキの鍋は久しぶりだっっ」

 三人は、ヒロキのテントの中で寝転がり、鍋ができるまで疲れた身体を休める事にした。

 身体を寝かせると、ロンヤとモモタローは早い段階だんかいで深い眠りについた。

 しかし、焙義だけはなかなか眠れずにいた。

 ドリンガデス国は、焙義と煎路の母であるベクセナの祖国そこくだ。

 だが、兄弟はドリンガデス国に特別な思い入れなど欠片かけらもない。

 なぜなら、母は祖国について語る事すらけていたからだ。

 それなりの、よほどの事情があったのだろう。

 魔界を遠ざけようとするモモタローの養父ようふ、モンジ同様に、ドリンガデス国で生きてきた自分の過去さえも母はかたくなに否定ひていし続けていた気がする……

 そして、母の過去を思いながら焙義の脳裏のうりをよぎるのは、ヒロキから聞いたガフェルズ王のシェードの名、ゼスタフェ=ゴールレンドだ。

(俺は最近、どうかしてるな……

 魔界へ来てからずっと、母さんや、ゼスタフェという顔も知らない奴の事ばかりにこだわっている……)

 焙義の上まぶたと下まぶたがくっついては離れ、くっついては離れを繰り返す。

(豆実もすっかり置いてけぼりにしちまったな。

 煎路を見つけ出したら、さっさと人間界に戻って以前の生活に……そういや、クッペはどこに……)

 あれこれ考える内に上下のまぶたが完全にくっつき、いつしか焙義も弟分たちと共に、深い眠りについていた。
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