上 下
74 / 78
【12】

「決戦編に向けて――」②

しおりを挟む
 MANSUKEマンスケBEべーの舞台となっていた山々のふもと

 立ち並ぶたくさんの店はこの時期、MANSUKE―BEの観戦者やテレビ撮影班さつえいはんなど、大勢おおぜいの客でにぎわっている。


 比較ひかく的、客数が少ない喫茶店。

 がらがらにいているテラス席に座り、ネラリはバターたっぷりの10段ホットケーキをむさぼっていた。 
 
 ネラリのマスクは真ん中が開閉かいへいする仕組みになっており、飲食のさいにはマスクを外さずとも口だけが出せるようになっている。

 汚れた時の洗い替えマスクも常備じょうびしている周到しゅうとうさだ。


「ビックラおったまげましたぜぇ。

 テレビ視聴しちょうしてっと、偶然にもセンジってのががけから競技者を助けてるのがうつりやしてね。

 そんであわててけつけてみりゃ、アルヴェンソのだんなとセンジってのがサシで勝負しょうぶおっぱじめる始末しまつでさぁ~」

「うっせえな。静かに食えよっ」

 煎路せんじはタンクトップ姿でベンチにし、冷たいタオルをひたいに当てすっかり伸びてしまっている。

「病院行かなくて大丈夫かい? こんな格好かっこうで寒いだろう?

 屋内なかに入りなってば」

 ベクセナは店から借りた救急箱をイスに置き、モコモコの小さな手で煎路のほおや腕の切り傷を消毒するなど、せっせと介抱かいほうしていた。

 クッペの手では、ところどころ切られてしまった煎路の上衣をつくろう事はできないが、

 母として、これまでしてやれなかった事を可能なかぎりしてやりたかったのだ。

 
「寒い方が気持ちいいんだよ。だいたい、こんな傷くれえで病院なんて大げさだろ。

 クッソォ~! 傷口がヒリヒリするぜぇ~ こんな切りきざまれるなんて最悪だぁ~ 全身もだりぃ~

 あのオラオラ野郎めぇ……!」

「この程度ですんだのは奇跡きせきだよ。

 正義感強いのはいいけどさ。煎路、アンタ無謀むぼうすぎるんだよ。結局はスタッフのみんなも巻きこんじまったろう?

 反省してんのかい? 一時いちじはどおなることかときもやしたんだからねっ」

「あっしに感謝してもらいて~ですぜ? 

 あのままだったらアルヴェンソのだんなを本気にさせちまうとこでしたよ」

「……アイツ、やっぱまだまだ本気じゃなかったんかよ」

「当ったりめえですわ。だんなが本気出しゃあ、こんくらいでは到底とうていすまされませんでしたぜ?

 ですが……センジっての。オタクも予想以上のパワーをお持ちのようで。正直ぶったまげましたぜ」

「ネラリっつったな。おめえ、いつから見てたんだよ」

「オタクがだんなにケンカ売った時からずっと見てましたぜ?

 わけあって、すぐには止めずしばらくオタクの戦いっぷりを観察させてもらいやしたがね。

 あるおかたがオタクに興味きょうみを持たれてるんでさ」

「あるお方だぁ? ネラリ、いったいどおゆうワケがあるんだよ。

 マリちゃんとグルになって俺をだましたのも関係あんのかよ」

 喫茶店ここへ来る道中どうちゅう、煎路はネラリから、ローズマリーはビスクドールではないという衝撃しょうげきの事実をかされていた。

「マリちゃん? ああ、お姫三ひめさん……じゃねえ、おじょうさんのことですかい? いやいや、そいつぁ全くの無関係でさっ。

 お嬢さんはオタクの変質へんしつしゃっぷりに恐れをなして、そんで騙して逃げ出しただけでさっ」

「はあっ? ふざけんじゃないよっ! 煎路は変質者なんかじゃないからねっ!!」

 最愛の息子を変質者呼ばわりされ、ベクセナは憤慨ふんがいした。

 ネラリの顔まで飛んでいき、ガーゼをつまんでいたピンセットをサングラスに突きつける。

「あわわわわっ。危ねぇっての!!

 オタクはセンジってののなんなんでえ!?」

「私は母……! ハ、ハハッ。愉快ゆかいな仲間だよっ」

 母とは名乗なのれず、ベクセナは一転いってん、笑ってごまかしつつピンセットをしぶしぶ下ろした。

「まあ……マリちゃんが魔女ののろいにかかってなかったんなら、それはそれで良かったけどよ」

 額にタオルを押し当てたまま、煎路はむっくりと身を起こした。

「センジっての。オタク、人形にされちまってたそうですが、

 そおなった時の記憶はあるんですかい?」

 ネラリもまた、道中、ついこないだまで煎路が人形だったという衝撃的な事実を聞かされていた。

「記憶? ああ……うろおぼえだけどよ。

 カジノでボロ勝ちした後やたらがたいのいいオッサン二人が声かけてきやがってよ。

 二人が魔女退治たいじに行くってんで俺も一緒にブアイスディンテン山までついてったんだ。

 俺はただ、マリちゃんを助けたくてな……」

(そこまでお姫三のことを……騙してすまねえ……)

「山を登れば登るほど嫌な空気になってきて、でっけえほら穴を発見してよ。

 はっせんもオッサンらの魔馬まばもおびえちまって……ああ、はっせんてのは俺の魔馬だ。

 ほら穴……そう、ほら穴から突然すんげえ光が出てきて吸いこまれたんだよ。

 そっから先は……人形になった俺は拾われて人形屋に連れてかれてよ。

 あんま可愛いもんだから店のいちしでショーウィンドウにかざられてたってワケだ」

 うろ覚えのわりには、煎路はこまかく自分の身に起こった一部始終を説明した。

「声をかけてきたオッサン二人ってのは……?」

「さあな。あの後二人がどおなったのかは不明だけどよ。名前は確か……

『コーンフレーク』『ジャガイモのっころがし』って呼び合ってたっけなぁ~」

(バ、バカな……! 絶対そんな名前じゃねえはずだ……!

 ん……? でも、待てよ?)

 煎路が口にしたあり得ない名前から、ネラリはふと、知人である二人の名を連想れんそうした。

「ひょ、ひょっとしてその二人、ブレイクとジャガーって名じゃなかったですかい?」

「だからそお言ってんじゃねえかよっ」

「言ってねえですぜ! オタクが言ったんは食いもんの名称めいしょう人名じんめいじゃねえ!」

「どっちだっていいだろ?

 それよりネラリ。あのオッサン二人、有名なのかよ?」

「へ? ま、まあ……」

「今度はそっちが答える番だぜ? 

 あのアルデベソってオラオラ野郎は何者なんだよ」

「そっちかーい!!」

 話の流れ的にてっきりブレイクとジャガーの事をきかれるのかと思いきや、煎路が知りたがったのはアルヴェンソの事だった。

「煎路……アルデベソじゃなくてアルヴェンソだよ」

 ベクセナはあきれ顔で、パタパタと煎路の隣りへ移動する。

「似たようなもんじゃねえか。

 ギリタンベロといい虎次郎とらじろうといい、魔界はしたみそうな名前が多くていけねえや。

 で? アルのあんちゃんが自己紹介じこしょーしてやがった戦闘部隊ミドルってのは何だ?

 リボヒターやマンスケスタッフらが言ってた『ウィード』ってやつなのか?」

「煎路。さっきも言ったけど、アッロマーヌの戦闘部隊は文字通り、戦闘のプロ集団なんだよ」

「その通り。部隊は上からトップ、ミドル、ベースに分かれてやしてね。

 特にアルヴェンソのだんなひきいるミドル部隊はイカれた連中の集まりで誰もうかつに近寄れやしねえ。

 次のベース部隊がこれまたくるった連中の集まりで。

 ただこのベース部隊、階級こそ一番下なんですが軍隊の土台どだいとなる重要なやくどころでさぁ。

 それだけに年配者が多く、ブレイクのだんなとジャガーのだんなが所属しょぞくしてるのがそこなんですわ」

「あのオッサンらも戦闘士だったのかよ!?

 どおりで、普通のオッサンじゃねえと思ったぜ。

 にしてもよ。下の二部隊がそんなんじゃあ一番上のトップ部隊が思いやられるよなぁ~」

「それが意外にも、トップだけはわり正当まとも典型てんけい的な軍人さんの集まりでして。

 ミドルはちょう攻撃こうげき型、ベースも攻撃型なんですがトップは基本防御ぼうぎょ型なんですわ。

 下の二部隊と違って純粋なアッロマーヌ人しか入れねえし、直属ちょくぞくの上司も違うんでさぁ。

 ぶっちゃけ、トップは普段はお飾りみてえなもんでして。

『ウィード』と呼ばれるのも下の二部隊だけですぜ。

 トップの上司は軍の司令官しれいかんでパジュイ王の近習きんじゅう、イワン将軍。

 そんでもってミドル、ベースの上司はラベダワ王女の武術指南しなん役でもあるベッケージュ陣督じんとく

 こちらのお二人がなんともまあ、バッチバチの関係でさぁ~

 つうか、イワン将軍が何かにつけベッケージュ陣督をやっかんでるだけなんですけどねぇ」

「アッロマーヌはアッロマーヌでややっこしいんだな。

 『超攻撃型』か。じゃねえとあんなおっかねえ凶器きょうき出せやしねえよなっっ。殺人部隊じゃねえかよっっ」

 煎路はもっぱら、アルヴェンソの事で頭がいっぱいだ。

「だけどあのアルヴェンソって子、どうしてMANSUKE―BEに出場したんだろうねぇ」

「ストレス発散はっさんじゃねえですか?

 ミドルとベースは今、ある訳柄わけがらがあって派手はでには動けねーようですからねぇ」

「派手に動いてんじゃねえかよ。よその国で一般人相手に暴れるなんてよ」

「それから気になってたんだけどね。

 ウィルソンて三男坊、ガフェルズ王家とう団の討士とうしなのかい? 電話を受けて急いで出かけてったろう?

 あの兄弟、ドリンガデス人なのかアッロマーヌ人なのかいったいどっちなんだい?」

「アルヴェンソのだんなと次男のジブノッカはドリンガデス人ですがね。

 ちっとばかり複雑な家庭らしいですわ。

 あっしも詳細しょうさいは分かりませんが……

 ただ、ウィルソンとジブノッカはベクッペさんのおっしゃる通り無討団ですぜ。

 このジブノッカってのがまたまたヤバい奴でさぁ~

 センジっての、いいですかい? 万が一どっかで会ったとしても関わらないのが身のためですぜ?」

 サングラスの下から目を光らせ、ネラリは煎路にくぎした。

「あ……! そりゃそおと、センジっての。

おもての顔は秋の涼風すずかぜだが、裏の顔は風ひとつ吹かない真夏に汗だくでベタベタベッタリべトリンコ』ってぇ、どなたの事で?

 それにオタク、鉄鍋てつなべとやらをかぶっていたそおで。何が目的なんでさぁ?」

「……ネラリ、てめえ。

 戦闘部隊やアルのあんちゃんやオッサンらのことやけにくわしいけどよ。

 なんだって俺のことまでそんな詳しいんだ!!

 てめえ、もしかしてギリタンベロの……いや、アニキのまわもんじゃねーのか!?

 煎路は勢いよく立てり、ネラリの肩につかみかかった。

白状はくじょうしねえとそのみょうなマスクとサングラス、はぎ取っちまうぞ!!」
 
「ぬわぬわ、ぬわ~にするんでさっっ!!

 マスクだけは勘弁かんべんしてくだせえっっ!! 鼻水クシャミが止まらなくなっちまう!!

 ギリタンベロだのアニキだのっっ、回し者ってなんなんでいっっ!!」

「アニキはアニキ! 俺のアニキだよっ!

 だんまりエロアニキの実態じったい調査をやみ商人に依頼いらいしたこと、なんでお前が知ってやがるんだ!?」

「待ちな、煎路っ! 自分の兄ちゃんだろう!? なんて言いぐさだい!?

 調査って……アンタまさか、兄ちゃんのことうたがってんのかい!?」

 これにはベクセナも聞きてならず、思わず煎路の頭へ飛び乗り髪の毛をグイグイと引っぱった。

「疑ってるのはアニキの方だぜっ。

 普段ふだんから俺を『なやみのたねだ』っつって、全然信用しんようしてねえんだからなっ。

 いてえなっ、ベクッペ! 離れろよっ!!」

 煎路はネラリから手を離すと、今度はベクセナの体をつかみ取ってベンチに置き、その横にストンと腰を落とした。

「昔っからそおなんだ。なんかあってもいっつもすずしげな顔でいやがってよ。

 俺にはろくに相談もしてくれねえし……そのくせ俺をトラブル製造機せいぞうきあつかいでネチネチ監視かんししやがってよ。

 とにかく、俺とは正反対すぎてはらん中どうなってんのか理解したくてもできやしねーんだよ」

「……煎路……」

「センジっての、お、お兄さんがいるんでやすかっ。それはそれは、正反対で良かった良かった!!」

 煎路が落ち着いている間にと、ネラリは食べ途中のホットケーキにがっついた。


「あのさぁ、煎路。

 ばい……お兄さんは、アンタを信用してないワケじゃないんだよ。
  
 アンタがさっきみたいな無茶やらかすもんだから、心配でたまらないんじゃないのかな。

 アンタに相談しないのだって、不安にさせたくないだけなんだよ、きっと。

 ほら、アンタ自身が語ってたじゃないか。アルヴェンソとおんなじで、責任とか一人で背負しょいこんじまう長男気質きしつだってさ」

「お、おんなじじゃねえよっっ!!

 アニキは愛想あいそわりいがアルデベソみてえに人をおどしたりおそったりなんかしねえっっ!!

 いくらなんでもあんなクソ野郎と俺のアニキをおんなじにするんじゃねえよ、べクッペ!!」

 焙義ばいぎとアルヴェンソを同類どうるいにした自分の台詞セリフも、焙義に対する不満をらした今の自分もすっかり忘れ去り、

 煎路は声を荒げてベクセナに目をむいた。

 だが、そんな煎路を見てベクセナはホッとした。

(……ホント、アンタって子は勝手かってなんだから。

 でも安心したよ。焙義のためにこんなムキになるなんて、アンタやっぱり焙義が大好きなんだよね。

 兄弟仲良くしてくれてるんだね……)

 母であるベクセナにとっては、煎路に会えた事以上の喜びだった。

 
「センジっての。そりゃ仕方のねえことですぜ。

 てんで自覚じかくがねえようですが、オタク、けっこう周りに猛威もういをふるってますからねぇ。

 オタクとからんじまうと最後、良くも悪くもみんな心にオタクの爪痕つめあと強烈きょうれつに残るんでさぁ。

 オタクのお兄さんのハラハラ具合ぐあい、おさっししますぜ」

 ホットケーキを全段ぜんだん無事にたいらげ、歯と歯の隙間すきま楊枝ようじでいじりつつネラリは言った。

「決めやした。あっしはこれまでの経緯けいいつつかくさずお話いたしやす。

 あっしにセンジってのを調べるようめいじたお方のこともお話いたしやす。

 オタクら、なんとなく信頼できる方々のようですしね」

「な、なんだよ。信頼って……唐突とうとつだな。なんか魂胆こんたんでもあんのかよ」

「特に根拠こんきょはねえですが、人を信じるのに理由なんざいりやせん。

 そのかわり、センジってのもあっしを信じてくださるなら、これまでのこと洗いざらい話してくだせえ」

 サングラスの奥の、ネラリの真剣しんけんなまなざしをかし見た煎路は、

 ネラリを信頼しても問題はないだろうと本能ほんのうで感じとっていた。

 少なくとも、悪人ではないのだと。

「信じるのに根拠も理由もいらねえか……

 時間もな。

 いいぜ? おめえを信じてやるよ」

「ヘヘッ。ありがてえこって」

 ネラリは腰を上げ、楊枝をくわえたまま片手を伸ばし、煎路に手のこうを向けた。

 煎路も片手を上げてネラリに手の甲を向ける。

 二人は今日が初対面でありながら、互いの手の甲を合わせてきずなを確かめ合った。


「話し合った後はトレーニング開始しねえとな。

 アルのあんちゃんと戦って実感したぜ。自分てめえがどんだけよええかってよ……

 でっけえ武器を出したところで、あんちゃんみてえに軽く魔力でコントロールできるようにならねえと、この魔界では絶対に勝てねえ……!」

「煎路……」

「ベクッペ。お前は多分“その道”に精通せいつうしてるんだろ?」

「え……!?」

だまってたってバレバレなんだよ。おめえの身のこなし、ただもんじゃねーからな。

 戦闘士だの無討団だの、ネラリみたくよく知ってるしよ。

 いやしの魔族の姿になってるのも、よっぽどの事情があるんだろ?

 魔女の仕業しわざじゃあねえよな?」

「……」

 思いがけない煎路の問いかけにベクセナはひとことも答えられず、小さくうなずくよりほかなかった。

「ベクッペ! そこで頼みがある! 俺に……俺に教えてくれ!」

「お……教える……?

 煎路、アンタ……」

 負けず嫌いな煎路の事だ。

 アルヴェンソの完璧かんぺきな強さと、おのれの完全な敗北はいぼく我慢がまんならないほどくやしかったはず。

 おそらく、魔界のごうの者らと戦うすべ教授きょうじゅしてくれと、ベクセナに懇願こんがんするのだろう。

 と、思いきや……

「教えてくれ、ベクッペ! あ、ネラリでもいいや。

 一番安く手っ取り早く、アッロマーヌへ行く方法をよっっ」

「ア、アッロマーヌへ!?」

 煎路が放ったのは、意表いひょうを突く、まるで想定外の言葉だった。

「アッロマーヌって……アンタ、アルヴェンソに再戦さいせん申し込むつもりなのかい!?」

「こてんぱんにやられたばっかりですぜ?

 次こそ命の保証ほしょうはねえっっ」

「そおじゃねえよ。すぐに行くワケじゃねえし仕返しするワケでもねえ。

 今のまんまの俺なら、なんべんいどんだところでこっぴどく負けちまうんだろーしな。

 じゃなくて、俺はアルのあんちゃんにまなびてえんだ。

 プロの戦い方をな!!」

「はあ~~っっ??」「アルヴェンソのだんなにっっ!?」

「煎路っっ。アンタ『クソ野郎』とか怒ってたくせに!!」

弟子でし入り志願しがんするつもりですかい!?

 んなムチャクチャなっ!

 よしんばなれたとしても、こ、殺されちまいますぜっっ。

 だんなは弟子にだってなさ容赦ようしゃなんかねえっ! 

 付いてけねえもんはへっちゃらで見殺しですぜ!!」

「だからだよ。

 だから俺はあんちゃんにならいてえんだ。

 本物ほんもんの戦闘を習うのに情け容赦なんかあるだけジャマだ……!!」

「せ、煎……」

 息子、煎路のいつにないシリアスな目色めいろ

 全身からは、我が子ながらゾッとする程の異様いよう闘志とうしがにじみ出ている。

 ベクセナは声をうしなっていた。


「ま、そおゆうことだからよ。

 リボヒター見舞みまったら、アッロマーヌへつ前にアニキ達やシモーネに会いにいったんブアイスディーへ戻るぜ」

 
 ――どこまでも、煎路の発想はっそう突拍子とっぴょうしもなくとことんズレている。

 だが、こうと決めたら猪突ちょとつ猛進もうしんあるのみの煎路を制止せいしするなど、

こおってるの魔塔まとう』を制覇せいはするよりも難しい。

 そして、ベクセナは、息子の体内にめぐる血のさわぎを思う時、その胸中きょうちゅうおだやかではいられなかった。

 煎路にも、もう一人の息子、焙義にも、確実に引きがれているのだ。

 魔族と人間の間に生まれた混血ブレンド限界げんかい根底こんていからくつがえす、

 脈々みゃくみゃくたる争闘そうとうの血が――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

彼女のお母さんのブラジャー丸見えにムラムラ

吉良 純
恋愛
実話です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

ブレンド・モント

渡鳥四季
ファンタジー
「HotでRichな日が昇る」の決戦編です。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

処理中です...