上 下
100 / 201
第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

098:お手合わせ願う

しおりを挟む
 エッタさんが持ってきた、俺のエルードは何故か粉々になって見る影も無くなってしまっていた。一体、俺が眠っている間に何が起きたというのだろうか。


「実はオリヴァーが壊した瓦礫の下敷きになっていたみたいで、私が発見した時には………」

「そういう事だったのかぁ………」

「あちゃあ、これじゃあ模擬戦は難しいかぁ」


 エッタさんの説明で、何となく俺のエルードが粉々になってしまった理由が分かった。
 これでは模擬戦はできないだろうと、アラグが言うのであるが剣がないくらいで舐められたく無いという気持ちが出てきて、1つ提案をする事にしたのである。


「俺は剣が無くても問題ないけど? そっちは剣を使って、こっちは素手って事じゃダメなのか?」

「ダメなのかって言ってもなぁ。それじゃあ、どう考えても俺の方が有利になるぞ? それでも勝てる自信があると?」

「もちろん勝てる自信が無かったら、アンタに こんな提案はしてねぇよ………どうだ? その条件じゃあ不満か?」

「いや、そっちが良いなら問題ないよ。それじゃあ、俺が先輩として力の差ってのを見せてやるか」


 俺が出した条件をアラグがまんまと飲んだ。正直なところ剣術の方は昔から苦手でステゴロの方が俺にあっている。
 いや。これはもしかしたら俺の言い訳かもしれないが、剣で間合を図るよりも拳で相手に殴り込む方が、俺の性格から見れば合っているだろうなと思う。


「それで立ち会い人は、そっちがフローレンさん。こっちがエッタさんという事で問題はない?」

「あぁそれで問題はないが、本当に素手と剣で良いのか? 今なら、まだ取り下げてやっても良いぞ?」

「俺が後悔していると思ってるのか? 全くの別だ……エルードの鬱憤を張らさせてもらうわぁ」


 模擬戦を行う上で、互いに立ち会い人を立てる。
 そんな模擬戦目前で、アラグが俺に対して剣じゃなくて本当に良いのかと念を押してくる。アラグは俺がムキになって挑んできているのだと思っているらしい。本当に舐められたもんだ、冒険者としては駆け出しで、年齢もガキだがそんじょそこらの冒険者には負けないつもりだ。
 それを聞いたアラグは、それなら問題はないかと俺との距離をとって剣に手をやるのである。


「それでは、立ち会い人代表のフローレンがスタートの合図を出させていただきます………スタートっ!!」


 いつものフローレンならば声が小さいところだが、スタートの合図の時は大きな声でハッキリと言ってくれた。
 フローレンの合図で模擬戦が始まると、開始早々にアラグが剣を抜いて俺との距離を潰してきた。確かに一流の冒険者というのは本当らしく突風が吹いたかのように目の前に現れた。


「確かに一流の冒険者だろうけど………一直線って俺を舐めてるんじゃねぇかよ」

・炎魔法Level1《ファイヤーボール》
・風魔法Level2《ストーム》
――火達磨――


 実力は一級品だろうが、相手を警戒している人間なら真っ向から来るのではなく、緩急をつけたりジグザグに走って向かってくるはずなのである。しかしアラグは俺に向かって一直線に向かっていている。
 そんな舐められた開幕に、俺は自分の体ごと周りを燃やす火達磨を使ってアラグの動きを止めた。いきなりの発火に急停止した事で地面が足型に削れている。


「おっとっとっ。実力を測ろうとしたけど、逆に俺の方が試されちゃったなぁ………さすがは期待のルーキーだ。今のが見れるって事は、お前の実力は俺たち側って事だな」

「随分と余裕そうで安心したよ。今のが全力っていうなら、欠伸が出るところだったよ………でも、まぁ今度は俺からいかせてもらうけどな」


 やはり俺を試す為に、わざと真っ向から突っ込んできたみたいだ。その目論見が本気でウザいところだ。
 まぁ俺もやられた分は返さないと気持ち悪いからな。少しの間が相手から俺はアラグに飛び込んでいく。高速移動魔法を使っている事もあって、さっきのアラグくらいは速度が出ている。
 アラグは自分と同じように向かってくる俺に対して、間合いに入ってきたら斬り捨ててやると言わんばかりに、剣を構えてグッと全身に力を入れている。


「そんな真っ向から戦うわけないじゃん………」

「なに!?」


 真っ向から相手に突進するなんて、闘牛とアラグの2匹以外ありえないだろうよ。そんな事を考えている俺は、爆弾人間ボマーのスキルを使って右手を爆発させる。それによって俺の突進している軌道が左に流れる。
 俺のスキルを知らなかったアラグは、軌道が変わったのと俺の手が魔法以外で爆発した事に驚いている。それでもさすがは一流の冒険者と言わんばかりに、俺の軌道に合わせて剣を構え直す。


「もらったぞ!!」

「だから、そう簡単なわけないって………」


 またもさすがは一流の冒険者と言うべきだ。俺の軌道を変えた事に直ぐに反応して、さらには攻撃の準備を整えたのである。
 しかし調子に乗らせるわけにはいかない。そんな簡単に俺を剣で斬り伏せられると思っているのは思い上がりだ。


「踏ん張れるかなぁ」

・砂魔法Level4《砂の大地フィールド・サンド

「足が沈んでる!?」


 ここら辺の全てが砂な為に、操作してアラグの足元の砂を沈ませるのである。その事によってアラグは踏ん張れない事で視野を俺から足元に変える。
 アラグの視界外で爆発音が聞こえて、ハッとして直ぐに顔を上げると俺の姿を見失っている。キョロキョロッと首を振って俺の居場所を探している。
 そんな必死に探されると、男であってもドキッとしちゃうじゃないか……まぁそんな事は無いんだけどさ。


「う 上かっ!? な なんだよ、その姿はっ!!」

「牛ちゃんだぞぉ!!」

・オリジナルスキル『牛変化バイソン

「馬鹿力じゃねぇか!!」


 俺の姿を発見したアラグだったが、俺がバイソンを使った事に驚きのあまり叫んでしまっている。それはそうだろう。俺だって初めて見た時は驚いたからだ。
 それでもアラグは俺の拳を剣で受け止めた。上からの攻撃という事やバイソンのスキルの影響でパワーが上がっており、地面がドンッと凹むくらいの衝撃が加わった。
 さすがに押しつぶされると判断したアラグは、俺を何とか押し戻してゼーゼーッと肩で息をする。重量挙げなんて比にならないくらいの圧力があっただろう。


「爆発したかと思えば、砂魔法を使って、さらには牛にまで変形するなんてありえないだろ!!」

「いやいや、大先輩に失礼しちゃいましたよ。これを全て封じられるとは思ってなかったんでね」

「そんな褒め方をされても嬉しくねぇよ。よくも俺を試すような事をしてくれたな」


 オリジナルスキルだと思われるものが何個も出てきて、アラグは何が何だか分かっていないみたいだ。この世界ではオリジナルスキルを何個も持っている人は少ない。
 そして何よりも俺がアラグを試すような事をした事が許せないらしく、本当にプライドが高い奴だ。そんなの初めに俺を試してきたのは、誰なのかと言ってやりたい感じである。


「さてと互いに互いを試したところで、こっからはガチ中のガチでやり合おうや」

「年下のテメェが言ってんじゃねぇよ!!」


 このままではアラグがキャンキャンッと喚いているので、さっさと本番をスタートさせようとアラグをあしらう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。 前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。 でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。 新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。 ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。 りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。 ……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。 ※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...