キングダム〜任侠に生きる男たち〜

湯崎noa

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第1章・大阪百鬼会の若い衆 編

031:フィクサー

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031:フィクサー
 俺たちと共に徳島に渡った本宮会の井口副会長は、事の収束を図る為に、まずは問題となっている3代目林会と栗原組の重要人物を招集した。
 正直なところ本宮会としては抗争もやむなしという意見も多かったが、今回の事件で筋を違えたのは本宮会だったので、周りの目を気にして大きく抗争に乗り出すわけにはいかないという結論になった。


「おいっ!! なんで手打ちをした後に、狙いくさったんや!! そのせいで本家が制裁喰ろうてんだぞ!!」

「副会長、落ち着いてつかいよ。わしだって予想外やったんや!!」

「何が予想外やっただ!! ふざけんじゃあらへんわい。このまま事が大きゅうなったら、われの腕を切り落として百鬼会に刺し出したるけんな!!」


 井口副会長は怒り腐っていて、栗原組長の胸ぐらを掴んで殺す勢いで、ドスの利いた声を出している。
 本当に自分の意思じゃなく子分たちが勝手にやった事で、栗原組長としても寝耳に水である。


「ちっとよろしいですか? 元はと言うたら、事の発端は我々が起こした事や」

「何言うてんだ!! われらは、もう手打ちにしとるやろがい!! こらぁ栗原組の起こした事や!!」

「それでも今回の事は明らかに、誰かが裏におる可能性が高いと考えられます。どれだけあほな人間だとしても手打ちを公表した後に襲うなんて事はせんでしょ。それに関係のない栗原組が手ぇ出したんやけん、その可能性は高いと思うとります」


 石井組長は色々と悩み考えた末に、今回の騒動には絵を描いた人間がいるのではないかという結論に至る。
 やはり頭がキレる男で、さすがは後に四国をまとめ上げる男になる人間だ。
 まぁ今はまだ悩める組長の1人で、フィクサーがいる可能性を井口副会長に話すと、胸ぐらを掴んでいるのをパッと話して可能性を頭の中で考える。


「まぁ確かに言われてみたら、裏に絵ぇ描いた奴がおってもおかしゅうはあらへんか………ほったら新谷組長を撃ったあほな若い衆を連れてこい!! ソイツらに事の顛末を教えて貰おうやんけ」

「分かりました。直ぐここに来るように言いますんで、話はそれからにして貰えますか?」

「それが筋やろな。これで裏に誰かがおるって分かったら、何とか百鬼会の方にもとり成せれる………全くもって面倒事を持ってきたさかい」


 井口副会長も石井組長の意見に納得して、話は張本人である新谷組長をハジいた若い衆を呼ぶ事にした。
 数分後にハジいたという金髪の2人組が、井口副会長のところに連れて来られて地面に正座させられる。


「話は分かっとるわいな? われらが誰ぞに唆されたってわしらは思うとるんやけんど?」

「それはですね………わしらもハジいた相手が、新谷組長やったなんて少し前に知ったんです………」

「は? そらどういう事や? じゃあ何で知らん人間をハジいたんや!!」

「あのじゃあですね!! 新谷組長をハジく少し前なんで、3週間くらい前ですかね………わしとコイツが街を歩っきょーる時に〈鈴木=アルベール=翔》っていう奴が現れたんです」


 金髪の若い衆は自分たちに接触してきたのいう人間についての話を始める。
 この2人に接触してきたという男の名前は〈鈴木=アルベール=翔〉というらしく、名前からしてもハーフなんだろうと思ったらしい。
 しかし名前よりも何よりも気になったというのが、190cmを超える大柄だった事らしいが、身長以上の大きさを感じるくらいに体からオーラが出てたらしい。


「アルベール? それでそんな怪しい奴が、われらになんて言うてきてん?」

「オヤジの舎弟だって言うてきたんですじょ。それで話を聞いてみたら、オヤジが困っとるけん助けたって欲しいって言われたんです」

「おいおい嘘やろ………そんな事を言われて栗原に確認せなんだのか?」

「はい。そのアルベールって奴がいうには、オヤジが気にしとるから密かにやって欲しいって事やったんです」


 何とも言えない報連相ができないだけじゃなく、全くもって馬鹿としか言えない騙され方をしていた。
 こうなってしまっては本宮会としても知らぬ存ぜぬでは、通さなくなってしまったので井口副会長は言葉を失って目眩までしてくるのである。


「おいっ栗原っ!! われのとこの教育は、どうなっとるわい!! こんなん自業自得や言われるに決まっとるやんけ!!」

「も 申し訳ありゃせなんだ!! まさかこんな方法で騙されるなんて思うとらんやった………で でも百鬼会の刺客っていう線はないですか?」

「は? よう考えてみぃ。百鬼会にとって利益になる思うんけ? 会長の舎弟を殺して利益なんてあらへんやろ。別に出世にがめついわけとちゃうんやど」


 若い衆は百鬼会が絵を描いているのではないかと、苦し紛れに言ってはみてみるが明らかにあり得ない。
 という事は必然的に決まるが、今回の騒動は栗原組の若い衆が馬鹿を晒し、本宮会は若い奴らの教育が行き届いていない事になる。
 まぁ一言でいえば自業自得というわけだ。
 ここまで馬鹿を晒したとなると本宮会としては、これ以上の恥を晒すわけにはいかない。
 ならば全力で謝罪をして抗争に、終止符を打たなければいけないと井口副会長は考えている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 小松島市内の旅館にて、これからの事についての話し合いを行なっていたのであるが、その最中に兄貴のスマホがプルルルルッと鳴り響いた。
 あまりにも張り詰めていた空間だったので、スマホが鳴った時にパッと全員が兄貴の方を見た。


「おいおい、大事な話をしてる時なんだから電話くらい切っておけよ」

「すんまへん……ん? 見た事あれへん電話番号やな」

「ちょっと出てみろ。変なセールスだったら直ぐに切れば良いが、急ぎの電話なら困るだろ」


 山﨑のオジキは大事な話中なのだから電話を切っておけよと冗談半分で話す。
 兄貴はペコッと頭を下げて謝罪する。
 そして電話番号を確認してみると、兄貴は知らない番号だと言って困っている。するとオジキが、急ぎの用だったら困るから出てみろと電話を許可してくれた。
 兄貴は「ありがとうございます」と感謝してから、立ち上がって部屋の隅にいく。


「まいど? どちら様ですか? ちょいせわしないんで急ぎの用じゃなかったら切りまっせ?」

『あっどうもうちゃ徳島県警の丸内って言います。こちらの番号は、青山さんの番号で合うとりますか?』

「え? まぁ合うてますけど、どうかしたんですか? 俺たちは、まだなんもしてまへんよ?」

『それは知っとるでよ。本宮会の方から話し合いがしたいという風に申し出がありまして、明日の11時に徳島県警に来ていただけるか?』


 電話の相手は徳島県警の警察で、どうやら和解をしたい本宮会は、大事になる前に警察を利用して手打ちにしようとしているのだと分かった。
 確かに普通に本宮会の人間が来るよりも、警察が中に入る事によって断りづらくなった。
 先に手を打たれてしまったと思った兄貴は、自分だけで決められる事じゃ無いなと理解して、警察官に「少し待ってください」と言ってからオジキのところに行く。


「山﨑の兄貴。徳島県警から百鬼会と本宮会の話し合いの場を作ったから来て欲しいって事なんですけど」

「それは本当か? まぁ今直ぐに手打ちってわけじゃないみたいだし、断って警察に目をつけられるのも面倒だからな………仕方ない、その提案を受けよう」

「了解しました。参加する旨をお伝えします」


 総指揮官のオジキは断って警察の心証を損ねても仕方ないので、和解の席に参加する事を決めた。
 今直ぐに手打ちになって、何も無かったかのような風にはならないだろうと考えての事だ。
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