キングダム〜任侠に生きる男たち〜

湯崎noa

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第1章・大阪百鬼会の若い衆 編

008:大阪のドン

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008:大阪のドン
 外では若い衆と半グレのガキたちの声が響き渡っていて、これは通報されてもおかしくは無いなと思いながらスーツに着替えるのである。
 このスーツも兄貴が用意してくれたので、お気に入りで毎日のように来ては丁寧に手入れしている。
 周りからは女々しいと思われるかもしれないが、惚れた男がプレゼントだと言ってくれたのだから、それを拒む方が任侠道に反するだろう。


「オヤジさん、そろそろ出発しておいた方が良いと思います。早めに着いておけば、頭も気を良くすると思いますよ」

「そう思うか? 兄貴は、そういう事を気にして無いと思うが………まぁ遅刻するよりは良いだろうな。外のうるさいのは、若い衆に任せて俺たちだけは行こうか」

「はい。それじゃあ車回してきます」


 俺は着替えを終わると、タバコに火をつけて蒸す。その間に小野は車を事務所の前まで回してくる。
 そしてクラクションの音が聞こえたところで、灰皿にタバコを押し付けて火を消すと、ビルの外に出て車のところまで向かうのである。
 すると今さっきまで喧嘩をしていたはずが、もう既に華龍會の若い衆によって鎮圧されていた。


「まぁそりゃあ5人で相手すんのはキツいわなぁ………和馬っ!! お前もさっさと乗って、兄貴のところに行くぞ。兄貴を待たせるわけにはいかねぇからな」

「は はいっ!! お前たち、ソイツらを適当に片付けておけよ。一応ソイツらもカタギだからな」


 俺と和馬は小野の運転する車に乗り込んで、広瀬組の事務所に出発するのである。
 すると小野が何かを思い出したように、ミラー越しに俺の方を見ながら話し始める。


「そういえばオヤジさん。今朝、オヤジさんが起きる前に電話があったんです」

「誰からだ? まさか兄貴とオヤジからじゃねぇだろうな?」

「えぇオジキと広瀬の親分じゃなかったです。広瀬組の若い者からで広瀬組の事務所に百瀬会長と、菅原の親分さんが来てるみたいです」

「なっ!? 2人とも大物じゃねぇかよ。何をしに広瀬組に来ているのかは知らねぇけど、挨拶しておく必要があるわな」


 なんと広瀬組の事務所に、百鬼会の会長とオヤジのオヤジである〈菅原 文夫〉親分が来ているという。
 そんな大物がオヤジのところに来ているのだから、やっぱりオヤジは凄い。と思いながら今から行くのだから挨拶するチャンスだと思った。
 しかし組織の中でトップレベルの偉い人に会うのだから、とてもじゃないが緊張している。東京にいる時は、こんな風に緊張なんてした事なかったのに。
 そんな事を考えていたら、10分なんて直ぐに経って広瀬組の事務所に到着するのである。


「おい、お前らっ!! 今から会うのは、百鬼会の会長と若頭補佐だからな。失礼な態度なんて取って、兄貴とオヤジのメンツを潰したら、俺がただじゃあ済まさないから覚えておけよ」

『はいっ!!!』


 小野と和馬に注意をしておいてから、事務所の中に入ってオヤジの部屋をノックする。
 そして扉を開けると、ヨボヨボの杖を持っている老人がいて、明らかに会長であると分かった。そしてその隣に白髪でメガネをかけてはいるが、その奥からギロッとした目をしているのが菅原親分なのだろう。


「失礼します!! 自分は大阪百鬼会菅原組内広瀬組で、幹部をやらせていただいている《華龍會・会長:花菱 龍憲》と申します!!」

「おぉコイツが広瀬が言うとった、武闘派の花菱か」

「はいっ!! この若さで確実に、百鬼会の中でもトップレベルの腕か思てます」


 俺は座布団と名前を名乗って、深々と頭を下げて挨拶するのである。
 最初はヨボヨボの老人かと思ったが、百瀬会長の目や全身から殺気に近いオーラが見えた。明らかに若い時に会っていたら、戦う前から逃げ出していたかも。
 そんな事を心の中で思っていると、菅原親分が俺の肩を掴んで歓迎してくれた。どうやらオヤジが、俺の事を紹介していてくれたみたいだ。


「広瀬よ。百鬼会の中でもトップレベルとは、大きく出たもんだな。こんなに若くて本当に強いのか?」

「確かに聞いただけでは強さは分かれへん思いますけど、花菱は東京の半グレたちをまとめ上げて300人も従えてました。しかも今でも180人も花菱に着いて来てるんです!!」

「ほぉ? それは確かに凄いな。喧嘩の腕だけじゃなくて、きっと人望もあるずら………若いのが育つっていうのは、組織にとって良い事だ。花菱って言ったか、広瀬の下で大いに育つと良い」

「は はい!! ありがとうございます。全力で頑張らさせていただきます!! それでは自分は失礼させていただきます………」


 広瀬会長は俺の事を下から上へと視線をやって、それをもう1回やってから、本当に強いのかと広瀬に聞く。
 すると広瀬は立ち上がって兄貴に負けないくらいに、凄い逸材だと言って紹介してくれた。
 すると俺の事を認めてくれたみたいで、俺は嬉しい気持ちになりながら部屋を後にしようとした。しかし広瀬は立ち上がって呼び止める。


「おいおい!! まだ青山は来てへんのやろ? もうちょい俺と会長の話に付き合えや」

「え? お邪魔しても良いんですか?」

「広瀬、ええわな? どうせ、まだ青山の奴は来えへんのやろ?」

「それもそうでんなぁ。花菱、ちょい相手してくれや」

「そういう事でしたら、若輩者ですがお邪魔させていただきます」


 どうやらまだ俺と喋りたいみたいだ。
 オヤジたちから言われてしまったら、少し気まずいが断る事はできない。
 それならお邪魔しようと、会長と菅原親分の向かいのソファに座って会話に入るのである。


「さっき東京で半グレ集団をまとめてたって言ってたが、どれぐらいの組織を吸収したじゃんね?」

「どれくらいのチームですか? どれくらい………大体の数で言ったら、まぁ組織の大小はありますが20くらいですかね?」

「おぉそんな数の組織を潰して吸収していったのか。確かに腕っぷしがあるっていうのは、本当の話みたいだ」

「いえいえ、自分なんて暴れる事しか能が無かったんですよ。そもそも潰し回ってはいましたが、子分になりたいって勝手に増えていった形っすよ」

「それも立派な才能じゃんか。喧嘩で負けた人間の心理ってのは3つあるだ。1つ目は悔しさから怒りに変わって復讐心をメラメラと燃やす奴、2つ目は相手の事を恐れてペコペコし出す奴、最後は憧れの対象になって着いていきたいと思う奴だ」


 まさか会長が俺に興味を持ってくれた上に、俺には人望という才能があると言ってくれて、会長はフッと笑いながら「若い時の俺みたいだ」と言ってくれた。
 あまりにも嬉しくて立ち上がり、頭を下げて泣きそうになるのを我慢するのである。


「なんや、広瀬のとこにはええ若いのが集まるな。全く俺にも分けて欲しいで」

「何言うてんですか。俺がおるやないですかぁ」

「あほが、自分は若ないやろ!!」


 菅原親分は俺や兄貴のような若い奴が欲しいというとオヤジが、笑いながら手を上げて自分がいるという。
 しかし菅原親分も笑いながら若くないだろと返して、皆んなで笑うのである。
 そんな時に扉が開いて兄貴が入って来た。


「オヤジたちの声、部屋の外まで聞こえてましたで。会長と菅原親分は、花菱が気に入ってくれましか?」

「おぉ青山やんけ。舎弟を待たして何やってんねん」

「そんなん言わんといて下さいや。これでも10分前には到着してんですからぁ」

「今日から奈良の切り崩しやろ? 関西統一に向けての第一歩やねんから気合い入れていけや!!」

「重々承知してます。この花菱と2人で、オヤジだけちゃうくて会長と菅原親分にもええ知らせを運びまっせ。そうだよな、花菱?」

「はいっ!! 全力でやらせていただきます!!」


 兄貴は3人に良い知らせを運ぶと言って、頭を下げて奈良県に出発するのである。
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