27 / 47
第09話(1)
しおりを挟む
王城前広場でバーバラがベレッタに語った話は、オリビアの話に通じる裏事情であった。
「当時冒険者だったあたしらは、あの魔法国家マハラティーニで貴族が依頼したという仕事を受けた。
不老長寿のハイエルフは、長命だからか権謀術数を好む輩など皆無に等しい。
だから何の疑いも無く引き受けちまったんだ。
王国東端にある一軒家の調査をね。
禁忌の召喚魔法陣を行使した可能性が高い。
その真偽を確かめ、もし本当なら魔法陣を使えなくなるようにしてほしいと。
解体に必要な技能の封魔術はあたしが、解魔術はメンバーの一人が習得していた。
だからあたしらのパーティーに白羽の矢が立ったんだと思ったよ。
そして行ってみれば、家の裏手に魔法陣と、その家に住んでいたであろうハイエルフの男の死体があった。
死後1日か2日だったかもしれん。
魔法陣は何かを封印する為のものらしく、召喚系でない事は分かったんだが、封印する要となる杖が抜かれて男の傍に落ちていたんだ。
その杖を仲間の一人が拾った直後、始まったんだ。
家の物陰に隠れてあたしらの様子を見ていたんだろう。
恐らくあの杖には、ハイエルフの者では魔法陣の外に持ち出せない特殊な魔力がかかっていたのかもしれない。
あいつらは杖が魔法陣の外に出てくるのを待っていたのさ。
問答無用で襲い掛かってきたよ。
杖にどんな秘密があるか知らんが、こいつらに渡すもんじゃないと思い、返り討ちにしてやろうとしたが甘かった。
腐っても長寿のハイエルフだ。
スペルユーザーはあたしらとは桁違いの魔力を持ち、いとも容易く仲間の3人を殺したよ。
残ったあたしら3人は必死になって王国の首都に戻ったが、そこで目にしたのはあたしらを犯罪者に仕立てた貼り紙だった。
外れの一軒家の男を殺したという殺人罪。
その男が保管していた杖を奪い取ったという窃盗罪。
禁忌の召喚魔法陣を使ったという国際法違反罪。
あたしにはシェイプ・チェンジ(変身)の魔法が使えたからね。
3人で変身し、マハラティーニの北にある隣国シンクラビアに逃げ出すのに成功し、そこから更に西にあるこの国に来たのさ。
国際法違反なんてレッテルも貼られた以上、表の世界で生きるのは難しい。
だからこの国出身のあたしら3人は、他国の盗賊ギルドの者だと偽って、この国の盗賊ギルドに潜り込む事にした。
仲間の3人を死に追いやった敵を討つ為に、ここで力を温存する事にしたのさ。
・・・なかなかそのチャンスが来ないまま、こんなババアになっちまったがね。」
聞けばかなり凄まじい内容だが、それでもベレッタに驚きの表情は無い。
そして哀れみの表情も無い。
大切なのは、これからの事に正面から立ち向かう事だ。
「事情はよく分かったよ。
最大限協力するから安心おし。
ところで盗賊ギルドに入ったのは、身を隠すだけでなく敵さんの情報を収集する為でもあったんだろ?
何か収穫はあったのかい。」
「先読みするように語るんじゃないよ!
ったく、まあ話しやすいからいいけどねえ。
奴らは衣服のどこかに紋章を縫い付けている。」
「紋章?」
「先に言った封印目的の魔法陣。
邪龍ラハブを封印していた魔法陣らしくてね、その邪龍を崇拝しているっていう邪教集団ラハブの紋章だよ。
下っ端の邪教徒は簡単に分かるらしいが、幹部クラスの信者となると特殊な糸で縫われていて見分けがつかないらしい。」
「・・・つまり、仕事の依頼主だったハイエルフの貴族は、邪教徒の幹部って可能性が高いね。」
バーバラは大きく首を縦に振った。
「ああ、まず間違いないよ。
そしてそいつが、あたしらの仲間3人を殺した首謀者だ!」
「あたしとバーバラの仕事は首謀者探しだね。
で、ケイトには何をさせるんだい?」
「先日、盗賊ギルド“セイル”の大半を壊滅したのってケイトなんだろ?」
「ああ、ケイトの仕事の件で半ば成り行きだったみたいだけどね。」
「その続きを頼みたい。」
「続き?」
「盗賊ギルドってのはね、一つの国に必ず4つ設置する古い決まりがあるらしいんだ。
窃盗しすぎないように、程々の基準を設けて互いを監視する目的でね。」
「・・・資源(盗み場所)確保の為、かい。」
「だから、セイルの人材を確保する為に他国から盗賊ギルドの者たちが入ってきているんだが、タイミングが気になってね。」
「タイミング?」
「杖がこの国にあるっていう情報がマハラティーニ国に漏れたって事だよ!
仲間はこの年になって今更裏切る気なんか無い。
盗賊ギルドにいながら金で動くタイプじゃないしね。
どこから漏れたのか、それを探ってほしいんだ。」
この依頼内容にベレッタはニヤリとした。
占いの結果にピタリとはまったね。
王城の魔人って二つ名のロバスがなんでケイトと一緒に行動するのか、これではっきりと見えたよ。
盗賊ギルド“セイル”のタイミングはおそらく囮。
もう一つタイミングがあるんだが、バーバラは気付いてないのかい。
・・・ま、後でゆっくり教えてやるかねえ。
「任せな。
ケイトなら必ずやってくれるよ。」
「当時冒険者だったあたしらは、あの魔法国家マハラティーニで貴族が依頼したという仕事を受けた。
不老長寿のハイエルフは、長命だからか権謀術数を好む輩など皆無に等しい。
だから何の疑いも無く引き受けちまったんだ。
王国東端にある一軒家の調査をね。
禁忌の召喚魔法陣を行使した可能性が高い。
その真偽を確かめ、もし本当なら魔法陣を使えなくなるようにしてほしいと。
解体に必要な技能の封魔術はあたしが、解魔術はメンバーの一人が習得していた。
だからあたしらのパーティーに白羽の矢が立ったんだと思ったよ。
そして行ってみれば、家の裏手に魔法陣と、その家に住んでいたであろうハイエルフの男の死体があった。
死後1日か2日だったかもしれん。
魔法陣は何かを封印する為のものらしく、召喚系でない事は分かったんだが、封印する要となる杖が抜かれて男の傍に落ちていたんだ。
その杖を仲間の一人が拾った直後、始まったんだ。
家の物陰に隠れてあたしらの様子を見ていたんだろう。
恐らくあの杖には、ハイエルフの者では魔法陣の外に持ち出せない特殊な魔力がかかっていたのかもしれない。
あいつらは杖が魔法陣の外に出てくるのを待っていたのさ。
問答無用で襲い掛かってきたよ。
杖にどんな秘密があるか知らんが、こいつらに渡すもんじゃないと思い、返り討ちにしてやろうとしたが甘かった。
腐っても長寿のハイエルフだ。
スペルユーザーはあたしらとは桁違いの魔力を持ち、いとも容易く仲間の3人を殺したよ。
残ったあたしら3人は必死になって王国の首都に戻ったが、そこで目にしたのはあたしらを犯罪者に仕立てた貼り紙だった。
外れの一軒家の男を殺したという殺人罪。
その男が保管していた杖を奪い取ったという窃盗罪。
禁忌の召喚魔法陣を使ったという国際法違反罪。
あたしにはシェイプ・チェンジ(変身)の魔法が使えたからね。
3人で変身し、マハラティーニの北にある隣国シンクラビアに逃げ出すのに成功し、そこから更に西にあるこの国に来たのさ。
国際法違反なんてレッテルも貼られた以上、表の世界で生きるのは難しい。
だからこの国出身のあたしら3人は、他国の盗賊ギルドの者だと偽って、この国の盗賊ギルドに潜り込む事にした。
仲間の3人を死に追いやった敵を討つ為に、ここで力を温存する事にしたのさ。
・・・なかなかそのチャンスが来ないまま、こんなババアになっちまったがね。」
聞けばかなり凄まじい内容だが、それでもベレッタに驚きの表情は無い。
そして哀れみの表情も無い。
大切なのは、これからの事に正面から立ち向かう事だ。
「事情はよく分かったよ。
最大限協力するから安心おし。
ところで盗賊ギルドに入ったのは、身を隠すだけでなく敵さんの情報を収集する為でもあったんだろ?
何か収穫はあったのかい。」
「先読みするように語るんじゃないよ!
ったく、まあ話しやすいからいいけどねえ。
奴らは衣服のどこかに紋章を縫い付けている。」
「紋章?」
「先に言った封印目的の魔法陣。
邪龍ラハブを封印していた魔法陣らしくてね、その邪龍を崇拝しているっていう邪教集団ラハブの紋章だよ。
下っ端の邪教徒は簡単に分かるらしいが、幹部クラスの信者となると特殊な糸で縫われていて見分けがつかないらしい。」
「・・・つまり、仕事の依頼主だったハイエルフの貴族は、邪教徒の幹部って可能性が高いね。」
バーバラは大きく首を縦に振った。
「ああ、まず間違いないよ。
そしてそいつが、あたしらの仲間3人を殺した首謀者だ!」
「あたしとバーバラの仕事は首謀者探しだね。
で、ケイトには何をさせるんだい?」
「先日、盗賊ギルド“セイル”の大半を壊滅したのってケイトなんだろ?」
「ああ、ケイトの仕事の件で半ば成り行きだったみたいだけどね。」
「その続きを頼みたい。」
「続き?」
「盗賊ギルドってのはね、一つの国に必ず4つ設置する古い決まりがあるらしいんだ。
窃盗しすぎないように、程々の基準を設けて互いを監視する目的でね。」
「・・・資源(盗み場所)確保の為、かい。」
「だから、セイルの人材を確保する為に他国から盗賊ギルドの者たちが入ってきているんだが、タイミングが気になってね。」
「タイミング?」
「杖がこの国にあるっていう情報がマハラティーニ国に漏れたって事だよ!
仲間はこの年になって今更裏切る気なんか無い。
盗賊ギルドにいながら金で動くタイプじゃないしね。
どこから漏れたのか、それを探ってほしいんだ。」
この依頼内容にベレッタはニヤリとした。
占いの結果にピタリとはまったね。
王城の魔人って二つ名のロバスがなんでケイトと一緒に行動するのか、これではっきりと見えたよ。
盗賊ギルド“セイル”のタイミングはおそらく囮。
もう一つタイミングがあるんだが、バーバラは気付いてないのかい。
・・・ま、後でゆっくり教えてやるかねえ。
「任せな。
ケイトなら必ずやってくれるよ。」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる