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第26話

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 夜明け前。
 イヴの言葉通り、深い霧が立ち込めてきた。
 城下町北門を出た先は広い平原。
 距離はあるが、マーキュリー領地まで小さな町や村が一つも無い事だけが幸いと言える。
 ただでさえ暗くて視界が悪く、更にその中を悪魔が進軍。
 すすんでここに来る者はクレイジーか自殺志願者としか言いようがない。
 そのどちらにも該当しない者は、全てが一騎当千の実力者揃いという事になる。
 それに該当する強者が一人、既に北門をくぐっていた。

 北門の城下町側では、移動販売車が軒を連ねるように停まっていた。
 キルジョイズの酒場では、モーニングセットのテイクアウト販売車。
 ソルドバージュ寺院では、各種ポーションの直売と神聖魔法の治療。
 冒険者ギルドでは、武具店と共同展開。
 一般武具販売と武具の手入れ・補強処理に加え、素材の買取も行う。
 酒場のマスターであるギルが他店の様子を見て『ん?』となる。
「ギルドマスターのシャディは来てないのか?」
 この声に準備していた受付業務の女性はため息まじり。
「とっくに北門の小扉くぐっていきましたよ。」
「なにぃ?
 まさか、たった一人で・・・か?」
「はい。」
 普通なら、なんて無謀なと心配するのだろうが、これについては心配の欠片も無く
「抜け駆けしやがったなぁ!
 ・・・よし、俺も店の準備が終わり次第行くか!」
 と威勢のいい声で吠えるのみ。
 そしてギルは即座にその場を去っていった。
 そして女性はまたため息。
 ヤダヤダもう。
 どいつもこいつもバーサーカー(狂戦士)なんだから。
 心配している人は、一人としていないようだった。

 常人には見えないであろう深い霧の中。
「ようやく来たようね。」
 地べたに座っていたシャディが立ち上がり、両拳を合わせる。
 キィンと子気味良い金属音が鳴った。
 シルバー・ナックル。
 悪魔系・不死族系に通常の倍ダメージを与え、不死族をディスペル(除霊)させる効力も兼ね備えた、師サリナから頂いた武器。
 そしてゆっくりと構え、正面に左拳のストレート。
 ギャッと声がしたかと思うと、足元にインプ(小悪魔)の死体が転がった。
「インプは羽根が良い素材だったかしら。
 なら羽根さえ無事ならあとはいいわよね。」
 言いながら両手を徐に差し出した次の瞬間、インプを鷲掴み。
 シャディのニヤリとした笑みに、インプが怯えた。
「気配と魔素で位置がバレバレよ・・・雑魚が。」
 そして両腕を広げ、腕の力だけでインプの身体を真っ二つに切り裂く。
 インプの断末魔が響く中、間髪入れずグレーターデーモンがシャディを急襲。
 巨体な青白き悪魔の肉体は龍の鱗のごとく硬く、並みの剣では刃が通らないと言うが・・・。
 シャディが狙ったのは鋭いかぎ爪。
 鋭いジャブを放ち、ナックルで爪の全てを一瞬で破壊。
 即座に間合いを詰めて胸部を殴り右腕を取り、3mもの巨体を投げて地に伏せさせた。
 それだけでグレーターデーモンは即死。
 その瞬間悪魔たちの進行が止まり、インプたちは後ずさる。
 原因不明の上級悪魔の即死に、最奥にいるアークデーモンすら息を呑んだ。
 今、いったい何が起こったのだ!?
 爪が破壊され、殴られたあと馬鹿力で地にねじ伏せられたのは分かる。
 それだけの間に一体何が・・・!
 シャディは、悪魔たちがたじろぎ怯えるのを見ると、妖しく笑いながらインプを次々に殴り殺していった。
 拳の一撃がインプの頭蓋骨を簡単に砕き、足元には無数の死体が転がっていく。
 悪魔の返り血を浴びながらシャディは高笑い。
「準備運動としてはまあまあかしらね。」
 とまだ物足りなさそうな声を出していた。 
 そして城下町側の屋台みたいな販売車にいるギルド職員に念話。
『リヤカー持ってきて。』
 職員は一瞬頭の中が真っ白になった。
 昨日お酒飲みすぎたかしら?
 とりあえず聞き直す。
『あのーマスター、今なんて?』
『リヤカー持ってきてって言ったの。』
『嘘でしょ!?』
『インプの死体が山積みで足元動きにくいのよ。
 一旦回収してくれないかしら。』
『マスターと一緒にしないで下さい。
 生きて帰れませんよ、あたしたち・・・あ!』
『何、どうしたの?』
『・・・そちらに行ってくれる方にお願いしました!』
『あ、そう・・・分かったわ。』
 数分後、ガラガラと音を立ててリヤカーがシャディに近付いてくる。
「ああなんだ、酒場のマスターに頼んだのね。」
 声を聞き、ギルがムッとして吠える。
「久々のバトルだぞ!?
 格好よく登場したかったのに、リヤカー引き摺って出てくるって何だよ!
 俺は学園の用務員じゃねえんだぞ!!」
「あら、用務員も立派な仕事よ。
 あたし殺したインプ片付けるから、マスターは遠慮なくバトルしてて。」
「相変わらず自己中な・・・んん?
 おいおい、悪魔って数これだけか?
 1000も数いないんじゃねえか?」
 ギルは言いながらドスドスと悪魔の群れに入り込んでいく。
「邪魔だ、邪魔!」
 両手用の戦斧を片手で振り回し、周囲の悪魔の首を次々にはねていった。
 ゆっくり歩いているが歩みは止まらない。
 その足取りは、真っすぐアークデーモンに向かって歩いている。
 グレーターデーモンが行く手を塞いでも、次の瞬間には戦斧で簡単に一刀両断されていた。
 ギルは元六英雄の一人。
 重戦斧のギルという二つ名は、その名の通り超ド級な重量を誇る戦斧“デストロイ”を軽々と扱うところにある。
 その破壊力はヴェスターのレクスタン剣術に匹敵し、邪龍の身体ですらチーズのように切り刻む。
 片手で扱っているうちは、まだまだ準備運動レベル。
 少しも本気になっていない。
 そしてアークデーモンに対し吠えた。
「全然弱すぎるぞ!
 悪魔の質が落ちたんじゃねえのか!?
 質より量なら、もっと盛大に召喚しろ、ボケ!!」
 そこにシャディがボソリと呟く。
「数なら最低でも10万は召喚してほしいわねー。
 これっぽっちじゃ歯のカスにもならないわ。」
 ようやくリヤカーがいっぱいになったのか、シャディがガラガラとリヤカーを引き摺っていく。
「マスター、あたしちょっとこれギルドの販売車に置いてくるから。」
 悪魔に対し、どこまでも舐め切った行動。
 完全に背を向けて歩いていた。
 両手はリヤカー。
 誰が見ても無防備極まりない。
 そこにグレーターデーモンが一気にシャディに近付き急襲。
 しかし、バキィと音がして、グレーターデーモンの右腕が折れた。
 無防備な背後を殴った腕が無残にも折れ、恐怖の声をあげる。
「あたしの旦那は肉体強化の魔法が得意なの。
 今日一日効果が持続する魔法かけてもらってきたから、背後から攻撃しても無駄よ。」
 言い終えると面倒くさそうに後ろ回し蹴り、更にリヤカーを手放して一度だけ胸部を殴った。
 すると、やはりまたその直後に絶命。
 アークデーモンが睨む。
 奴の攻撃には即死効果でもあるというのか!?
 悪魔族は基本即死効果に抵抗がある。
 それをものともしないとはいったい・・・!

 まだこの場にはシャディとギルの二人が現れたのみ。
 悪魔が人間どもの実力に驚くにはまだ早すぎた。
 シャディが城下町に入る時、シャディとギルの二人がかりでも勝てない者が入れ違いでやってくる。
「おはようございます、師よ。」
「おはよう、シャディ。
 準備運動を終えたくらいかしら。」

 ソルドバージュ寺院の大司教サリナが、道着を着た姿で現れた。

 シャディがインプの死体山積みの重たいリヤカー引き摺って城下町内部に戻ると、ケイトとキャサリンの姿が見えた。
「おはよう、シャディ。
 取り敢えずは想定の範囲内かしら?」
 ウェストブルッグ家では、昨夜祖母のベレッタが魔鳥を3羽飛ばし、冒険者ギルド、キルジョイズの酒場、ソルドバージュ寺院に伝書を送っていた。
 シャディはわざとらしく肩で息をするように答える。
「貴女のとこのお祖母ちゃん、本当に占術師?
 預言者の間違いじゃないの?」
「やっぱり最初に姿を見せた軍団は囮なのね。」
「囮と言うか、こちらの実力を知る為の犠牲者軍団ってやつね。
 アークデーモンの姿は見えたけど、あれは幻術。
 目だけを飛ばしてきて遥か後方で見学してるわ。
 のんびり重役出勤するつもりなんでしょうけど、当てが外れるでしょう。
 ギルは幻のアークデーモンと知った上で一直線に進んでいる。
 対処不可な破壊の戦斧デストロイを相手にどうするのか見物・・・と言いたいところだけど。」
「寺院の大司教様が出張っていったからそれも適わないって事か。」
「そういうこと。
 今出ていったところで、雑魚処理してくるだけよ。
 準備運動したいなら別だけど、本格的に稼ぎたいなら大司教様のゴミ処理が終わってからの方が断然いいわ。」
「あー、そうだね。
 また睨まれるのは勘弁だわ。」
 それだけ話すと、シャディは冒険者ギルドと武具店の販売車にリヤカーを横付け。
 冒険者ギルドの受付嬢たちがゲッとなり、武具店の親父がおおと軽く声を上げた。
「・・・これ全部解体するんですか?」
 受付嬢の声にシャディは当たり前でしょと言って受け流し武具店の親父に
「インプの羽根は傷付つけていないから、たっぷり買い取って頂戴ね。」
「一気に大量買いすると、素材の値崩れ起こしちまうぞ、いいのか?」
 するとシャディは一枚の紙きれを親父に差し出す。
 それを見て親父は目が点に。
 おいおい、嘘だろ!?
 何か言いたげな親父がシャディを軽く睨む。
「・・・王城で何があった?」
「大した事じゃないんだけど、ちょっと必要になったみたいなのよ。」
 答えながら、シャディは静かに威圧する。
 金等級の現役冒険者を兼ねるギルドマスターの覇気。
 深入りするなって事かよ、ったく。
 だがただで黙るつもりはねえぞ。
「・・・分かった。
 なら黙秘料としてグレーターデーモンの死体2つで手を打ってやる。」
「それは高すぎるわ。
 レッサーデーモンの死体2つならいいわよ。」
 シャディも負けてない。
「・・・チッ、ならグレーターデーモンとレッサーデーモンの死体1つずつでどうだ!?」
「分かったわ、それでいいわよ。」
「よし、商談成立だ。
 解体はウチで全部やってやるが、それとは別に通常の手数料は貰うぞ。」
「はいはい、それでいいわよ。
 しっかりしてるわねえ。」
 冒険者ギルドの受付嬢たちは、自分らが解体せずに済んでホッと胸をなでおろす。

 そしてサリナ大司教は、悪魔の中をただゆっくりと歩いていた。
 戦闘狂に目を奪われがちだが、その正体は聖女。
 わずかでもサリナに触れただけで悪魔たちは蒸発する様に消失し、サリナに向けられた攻撃魔法は全て反射していた。
 聖女だから回復役?
 どこの馬鹿がそんなこと決めた?
 悪魔の目玉をえぐり取り、内臓を引き摺りだし、全ての関節を砕き、頭蓋骨を粉砕する。
 それが聖女というものよ。
 私に触れて蒸発されるのは雑魚。
 私に触れても蒸発されない上級悪魔にしか用は無いわ。
 幻と言われたアークデーモンに到達したギルは、迷う事なく一刀両断する。
「やっぱ、幻は所詮幻だな、手ごたえが無さすぎるぜ。」
 そして後方を見た時、サリナの姿が目に入った。
 なんだ、あっちも準備運動か?
 雑魚には用が無いタイプだと思ったんだが。
「珍しいな、サリナも準備運動か?」
「・・・ええ、そう、ね。」
 なんだ?
 歯切れ悪いな・・・まあいいか。
「俺はちょっと戻って早めの朝メシ食ってくるぜ。
 この場は少しの間任せるぞ。」
 すると一瞬だけだが、サリナの表情が緩んだ。
 歓喜を隠せなかったのか。
「ええ分かったわ。
 “ゆっくりと”お食事してきなさいな。」
 ギルは軽く右手を上げると、ゆっくり歩いて去っていった。
 この悪魔の軍勢の真っ只中に、サリナただ一人。
「・・・別に私が一人で全てを滅してもいいわよね。
 聖女なんだから。」
 サリナにとって聖女の概念とは、悪魔を滅し、信者を救う者と思っているらしい。
 間違ってはいないと思う。
 思うのだが・・・。
 巨体のグレーターデーモンの間合い深く入り込み、関節を極めてから投げ倒し、頭を踏みつけ両の目玉をえぐり取る。
 そして硬い身体を素手で引き裂き、心臓を引きずり出して妖しく笑う様は、もはや聖女ではなく魔王クラスの貫禄さえ感じられた。
「準備運動にもならないわね。
 あなたたち、仲間を呼べる(召喚出来る)のでしょう?
 呼んでくれないかしら?
 ・・・呼ばなかったら、あなたたち全員、こうなるわよ。」
 グチャ、とグレーターデーモンの心臓を握り潰して見せた。

 遥か後方では
「だから言ったでしょう。
 あなたたち悪魔では勝ち目など無いと。」
 アークデーモンはその声に抗うように
「黙れ。
 我には貴様がいる。
 最大の見せ場にし、我は奴らを全員切り刻んでくれるわ!」
「・・・あなた、悪魔なのに甘いですね。」
「・・・なにぃ?」
「彼らは強かです。
 私の存在など歯牙にもかけていませんよ。」

 アークデーモンの体内には、まだマーキュリー伯爵の魂が生きているようだった。

 最初に投じた悪魔の一軍が全滅すると、アークデーモンは言葉を失っていた。
 囮に使った弱小軍とはいえ、たった3人で全滅だと!?
 それも実力の片鱗すら見せずに・・・!
 ・・・いや、そのぐらい強い奴ほど、倒された時の屈辱感は想像を絶するはず。
 予定を一つ繰り上げるか。
「悪魔の軍勢だから悪魔だけだと思っているなら、それは大きな間違いだぞ、聖女よ。」
 ズン、ズン、と重い音が地に響いていく。

 この地響きが、城下町で待機していたケイトたちにとっては、最初の合図になっていた。
「ゴーレム(動く巨像)のようね。
 魔法は無効化以前の問題に効果がほとんど無い、魔法使いにとっては厄介な相手。
 寺院前で悪魔倒されているから、少しは学習してきたのかしら。」
 相手としてはシャディが適しているけど、今はちょうど休憩中、というか朝食中。
 ギルなんか、まーぁだ食べてるし。
 ドワーフであるギルの軽い朝食とは、人間の3~4倍はありそうな量。
 あれでよく胃もたれしないもんだわ。
 仕方ない、私が出るかとケイトが思っていると、ポン、と後ろから肩をたたかれる。
「あれ父さん、もう来たの?」
「ええ、ライガ殿の準備も済みましたし、朝食も済ませましたしね。」
 ヴェスターと、その背後に巨僧ライガの姿が見えた。
 ライガの首には青白い数珠。
 右手に持つ巨大な錫杖は、明らかに何らかの強化を施している。
「武具に頼りすぎる戦い方は好きではないのだが、相手が相手なものでな。」
 ライガはそう言いながら軽く両手で振り回す。
 そして
「巨体な敵は、我に任せてもらおうぞ。」
 それだけ言うと、北門をヴェスターと共にくぐっていった。

 城下町の外側は、まだ霧が深く立ち込めていた。
「この視界の悪い中で戦闘とは、皆、熟練度が高いですな。」
 ライガの声に、ヴェスターはそうですねと軽く受け流すに留める。
 この霧はもしや・・・。
「ヴェスター殿、どうなされた?」
「ウェザーコントロール(気象操作)の魔法による霧ですね。
 どうやら悪魔側にも高等な魔法使いがいるようです。」
「なんと・・・!」
「まあ、そっちはケイトたちに任せれば大丈夫です。
 肉弾戦は私たちが受け持ちましょう。」
「・・・そうであるな。」
 少し霧が晴れた箇所に出たかと思うと、そこには3m級のゴーレムが2体立ちはだかっていた。
 しかも鉄でできている。
「アイアンゴーレムか!」
 魔鋼処理され、決して錆びることのない身体は硬く、あらゆる剣を弾き返す。
 その上呪紋処理もされていて魔法はほとんど効果が無い。
 これを倒すには鉄の身体を貫通させるか叩き潰すほどのパワーが必要だ。
 そんなこと、ライガは当然承知済み。
「では参る!」
 錫杖を両手で握り、迷うことなく首元を突く。
 しかし錫杖の先端に付けた剣先は難なく弾かれた。
 ゴーレムである以上、首は急所ではないはずだが、それでもガードは堅い。
 もちろんライガの狙いはそこじゃない。
 アイアンゴーレムが錫杖を握った。
 ライガから錫杖を奪い取ろうと力を入れるが、ライガは動かない。
 いや、小刻みに震えている。
 いや、小刻みに振るわせている?
 次の瞬間、アイアンゴーレムの関節部分全てが砕け、ボディがバラバラになって地に落ちた。
「フム、見た目が立派なアイアンゴーレムでも、拙僧のこの技には耐えられぬか。」
 そして行動不能なボディの表面を剥がし、内部のコアを抜き取る。
 ゴーレムの素材として最も高級な部位。
 戦いが終わると、またも周囲が霧に包まれていった。
 周囲を見渡すが気配が無い。
「ヴェスター殿とはぐれてしまったか・・・?」
 まあよい。
 ゴーレムごときに後れをとるヴェスター殿ではなかろうて。
 それに、簡単に合流させてくれなさそうだしのう。
 ライガの目前には、骸骨の騎士がゆっくりと歩いてやってきた。

 城下町側では、ケイトが探査魔法を使って探し方。
「うーん、いないなー。」
 うなりながら探していると、後ろからツッコミが。
「気合いが足りないんじゃないの?」
「気合いで魔法がどうにかなるわけないでしょ・・・なんだ、エルか。」
 その後ろから遅れてイヴもやってくる。
「おはようケイト。
 どうかしたの?」
「悪魔側にウェザーコントロールの魔法使っている魔法使いがいるはずなんだけど、探査魔法使っても魔力感知出来ないのよ。
 霧もその魔法による効果だと思うから、霧に対魔力感知を施していると思うんだけど、思っていた以上に厄介だわ。」
 するとエルがフン、と軽く鼻息を荒げる。
「小細工しなくても外にいる敵全部倒せば済む話でしょ。
 行くわよ、イヴ。」
「はいはい。」
「私たち二人で戦況をかき乱してくるわ。」
 あー、とりあえずその手に乗るのいいかも。
 そう思っていると、ついでにもう一人が手を上げる。
「じゃあ、あたしも一緒に遊んでくるねー。」
「え、キャサリンも行くの?」
 その様子を見たエルは静かに頷いて踵を返す。
「かき乱すには最適な人材だからいいんじゃないの。
 ・・・イヴ、分かってるでしょうね。」
「・・・真面目に勝負するの?」
「当たり前でしょ。
 貴女の実力を高める為の罰ゲームをわざわざ用意してるんだから。」
 私が負けるのを前提にした勝負?・・・って変でしょ、それ!
「私が負けるのは確定なの、エル?」
「当たり前でしょ。
 間違って勝てたら、今夜キルジョイズの酒場でステーキランチ御馳走してもいいわ。」
 イヴはこの声に目の色を変え
「エル、二言は無いからね。」
「はいはい行くわよ。」

 ケイトとキャサリンは、この二人いいコンビだわと素直に感じ取っていた。
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