あなたと思い出の曲を

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ダニエルと体の関係になってからも特に何も変わらなかった。

彼の家で生活をして仕事をする。
敷地からは出るなと言われているが、元々趣味らしきものも無いので暇な時間はジムで汗を流したり、彼に渡されたカードで買った本を読んだり、映画を見て過ごした。
そして仕事で留守にしがちのダニエルが帰ってくると部屋に呼ばれて体を重ねる。

しばらくそんな穏やかで夢のような時が流れていたある日、何やら大慌てで護衛の男が私の部屋に入ってきた。
必要ないので鍵はかけていないが、いつもは必ずノックして入ってくるのでよほど焦っているのだろう。
彼は「お前に用があるとMr.フォリーノが来てる。」とややうわずった声で言った。

そう、とだけ言って私は護衛の彼と一緒に廊下を歩いた。
案内された先にはMr.フォリーノがソファに座って葉巻を燻らせていた。
いかにもマフィアのボスという貫禄のある姿だ。

「あぁ、お前がローズか?」

低く酒焼けした声が静かな部屋に響く。

「はい。」
「そうか。報告で聞いたより別嬪だな。どうりでダニエルの奴が抱え込んで離さないわけだ。まぁそんな所に突っ立ってないで座れ。」

そう言って自分のとなりを指差すので、仕方なく彼の隣に座った。
Mr.フォリーノは私をじっと見て葉巻を燻らせている。

「私の存在が邪魔になりましたか?」
「なぜそう思う?」
「貴方がわざわざダニエルのいない時に来て、私を呼んだ。状況から判断して、私に消えろと言う話かと思うのが普通でしょう。」

彼はニヤニヤと笑いながら葉巻の煙を吐き出した。

「ダニエルはいつも何手先も答えを先読みしようとする。頭の回転が無駄に早いからそうなるんだろうが、まぁそれがあいつを助けてきた。ただし、先読みしすぎてとんでもない被害妄想にはしることもある。今回のお前の件がそうだ。」
「私の?」
「そうだとも。弟の件は俺も複雑だったさ、何せ血をわけた兄弟だ。今までも馬鹿をやらかす度に庇ってきてやったが今回はまぁやり過ぎたわけだ。あれはもう仕方ない事だったと区切りをつけた。」

懺悔の様に弟の事を語るのだなと思った。
確かに実の弟に、不始末の落とし前をつけさせるのは兄としては複雑だっただろう。

「ところがだ、ダニエルは俺の所に弟のしでかした事の証拠は持ってきたが、誰に集めさせたのか聞いても頑として言わなかった。面白いだろう?」
「面白いですか?」
「あぁ傑作だな。あいつが俺に何かを隠すなんて今まで一度も無かった。そして苦労してその秘密を暴いてみたらお前が出てきたわけだ。」

私はその場で頭を抱えたくなった。
だからダニエルは私に敷地から出るなと言ったのだ。
ボスから私の身を隠すために。

「意外だったか?」
「えぇ、自分にそれだけの価値があるとは思えないので。」

私がそう言うとMr.フォリーノは豪快に笑った。

「謙虚なのは良いことだ。だがな、お前は中々の逸材だぞ。普通ここまで仕事のできる奴は何処かしらに痕跡があるもんだが、孤児院を脱走した後、お前の公的な痕跡は一切無かった。もちろんこっちの業界の方も調べさせたが、何も出なかった。まるで幽霊だ。」
「ただ派手に動くのが嫌いなだけで、調べ方を変えればそこかしこに私の痕跡なんて直ぐに見つかりますよ。」
「ますます面白い事を言う女だな、謙遜も過ぎれば嫌味だぞ。」

彼は灰皿に葉巻を押し付けて消した。

「お前がどこでどうして今ここに居るのか気にはなるが、まぁそれはこの際どうでもいい。お前を排除するメリットより、ダニエルを怒らせるデメリットの方が桁違いだからな。」
「そうでしょうか?」
「あぁ、あいつが俺に隠すほどお前を気に入ってるのは事実だ。それを取り上げてみろ、寝てるライオンを起こすようなもんだ。ただ、隠されたままなのも癪に触るからな、今日はお前と直接話したくて来た。ただそれだけだから安心しろ。」
「消えろとは言わないんですか?」
「あぁ、もし必要になったらダニエルが直接どうにかするだろうよ。あいつはそういう奴だ。」

Mr.フォリーノは立ち上がると「見送りは不要だ」と言って部屋を出ていった。
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