あなたと思い出の曲を

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ダニエルは私の殺しの腕には期待していないようで、主に情報収集に私を使うことにしたらしい。
確かに体術も銃の扱いもそれなりには出来る方だが、実を言うとあまり得意では無い。
ハッキングや潜入の方が得意だし性に合っているので、彼の提案は有り難かった。

ダニエルに調べろと言われた議員の情報を報告するために彼の部屋のドアをノックする。

「入れ。」
「ダニエル、貴方が言っていた議員だけど、やっぱり彼方のギャングとも取引があるみたい。」
「そうか。胡散臭い野郎だと思った俺の勘は当たったらしいな。」
「どうするの?」
「お前ならどうする?」

彼は書類を見たまま、私へ問いかけた。

「そうね、相手は腐っても議員だし手を出すのは面倒だわ。お相手に教えてあげたらそっちで処分するんじゃないかしら?ギャングも貴方達と同じで面子を気にするでしょ?」
「そうだな。頼めるか?」
「もちろん、匿名の親切なタレコミ屋を装うのは得意よ。」

私がそう言うと彼はクスリと笑った。
何の気なしのその些細な仕草に胸が温かくなる。
私は自分の仕事に戻るために部屋を出た。

ここは郊外にある彼の私邸だ。
あの後、工場から連れてこられてゲストルームに軟禁されている。
とは言っても必要なものは全て与えられているし、敷地の中は自由に歩いて良いと言われている。
敷地内にはジムやプールもあるので不自由は無い。
もちろん護衛の目はあるものの、今までの生活に比べれば、充実した日々を送っていると言えるだろう。

自分の部屋に戻り、パソコンを開いて議員の姑息な手口をギャング側に匿名で流す。
後は彼らが好きに料理するだろう。
殺すにしろ生かすにしろ好きにすれば良い。
どちらにしろ議員にとっては地獄だろうけれど、私には関係ない。

与えられた仕事がひと段落したので、庭に出ることにした。
秋の過ごしやすい気候の中、夕方の空を見ながら庭に置かれたガーデンソファに座って本を読む。
驚くほど穏やかな時間が過ぎていくのを感じて不意に涙が溢れた。
悲しいわけではなかった。
むしろ幸せと呼ぶ方が相応しい。
それなのに涙はゆっくりと頬を伝う。

「ローズ。」

不意をつかれて、涙を拭うことなく後ろを振り向いてしまった。
ダニエルは私が泣いているのを見て眉間に皺を寄せる。

「なぜ泣いている。」
「ごめんなさい、何でも無いのよ。ただ、ちょっと幸せ過ぎて。」
「幸せ?」

ダニエルは表情を変える事なく、私の返事を待っている。

「そう、だって貴方の側にいて役に立てるし、不自由のない生活をさせて貰ってる。それが幸せ。でも未だに貴方の意図が分からないからその幸せが怖い。」
「難しく考えずに今を楽しめば良いだろう?」
「ふふふ、そうね。でもあまりに私に都合の良い事ばかり起こるから夢なんじゃないかと思うのよ。」

私が涙を拭ってそう言うと、彼は私に近付き顎を掴んだ。

「夢だなんて思えなくなるようにしてやる。」

そのまま彼はしゃがむと私の唇に口付けた。
一瞬、私は事の展開に付いていけず固まったが彼の首に腕を回した。

「んっふぅ。」

彼の舌がそっと口の中に入ってくる。
その柔らかい感触を確かめる様に私も舌を絡めた。

「随分と従順だな。」
「抵抗される方が好きなの?」
「いや、お前なら何でも良い。」

あぁ本当に夢じゃないのかと疑いたくなる。
それとも懐柔しようとしているだけ?
そのどちらでも良いと思った。
もしいつか夢の様に終わるとしても、今はその中にいたい。

「選ばせてやる、ここか俺の部屋かどっちが良い。」
「人に見られる趣味は無いわ。」

私は彼の首に腕を回したまま、チラチラと視線を送ってくる護衛の方を見た。
ダニエルは俺もだと笑って私を立ち上がらせた。
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