あなたと思い出の曲を

文字の大きさ
上 下
3 / 8

3

しおりを挟む
しばらくすると部屋の外が慌ただしくなり、別の部下達が顔を覗かせて指示を出した。
てっきりこの場で死ぬと思っていたが、どうやら私はどこかへ運ばれるらしい。
まぁいくら息のかかったホテルとはいえ、その中で殺人を犯すのは処理が面倒だと思ったのかもしれない。
私は銃を突きつけられながら外に出て、ホテルの裏口に止まった車に乗せられた。

ボスの弟の計画は爆弾を仕込んだ車に迎えに来させ、正面でダニエルが乗ったのを確認した所で起爆するというものだった。
派手でリスクもあるが確実だし、爆弾で全てが吹っ飛ぶので証拠も残りにくい。
でも、私なら裏口が見渡せる場所にスナイパーを配置しただろう。
こんなふうに裏口から出られたら計画が丸潰れだ。
そういう爪の甘さというか頭の足りなさが今回の騒動を起こした原因のような気がする。
そんなことを考えながら外を眺めた。

車は街からどんどん離れていき、寂れた工場の前で止まった。
乱暴に車から降ろされて、どう見ても廃墟にしか見えない工場の中に連れて行かれる。
辺りには何も無いので、ここで泣こうが叫ぼうが誰にも届かないだろう。
工場の奥にある物置のような狭い部屋に放り込まれるとドアを施錠されてしまった。

半分割れた明り取りの小さな窓から微かに光が差し込んでいるが部屋の中は真っ暗に近い。
疲れていた私は何も無い床に座り、壁にもたれた。

ここに着いても直ぐには殺さなかった、という事はまだ私に用があるのだろう。

私はぼんやりとダニエルの顔を思い出していた。
少年の頃とは違う精悍な顔付きとがっしりとした体躯、あの腕に抱かれてみたかった。
まぁ、ある意味抱かれたけれど、締め殺されかけたのであれは数には入らない。
そして、これから自分がどうなるのかとちらりと考えて、悲劇的な結末しか思い浮かばなかったのでやめた。

他に特にすることも無いので目を閉じて少しだけ眠り、目が覚めると外はすっかり明るくなっていた。
何時かは分からないけれど、とにかく夜は明けたみたいだ。

喉が渇いたなと呑気に考えていたら鍵を開ける音がして、よりにもよってダニエルが部屋の中に入ってきた。

「お前達は外で待ってろ。」

着いてこようとした部下達に外で待つように告げ、ドアを閉める。

「お前は本当にローズなのか?」

彼は私の前に立ち、見下ろしながらそう言った。

「信じてもらうしかないけど、私はあのローズよ。」
「なぜ、俺に知らせにきた。誰の依頼だ。」
「依頼ねぇ、まぁそう思われても仕方ないかもしれないけれど、今回は純粋に私の単独行動よ。」
「どうして、そんな何の得にもならないことをしたんだ。」

『なぜ』が多い、でも当たり前だろうと思った。
過去ほんの少し関わりのあっただけの人間がいきなり現れたら疑問と疑惑だらけになる。

「生きていくためにたくさんの人を利用し、欺いて時には死に追い込んできた。最近それに疲れてしまったの。かと言って今更まともな生き方なんて出来ない。死ぬのも良いかもしれないと思った所に貴方の記録を見て、せめて最後に良いことをしようと思ったのよ。」
「イカれてるな。」
「ふふふ、そうかも。でも最後に貴方の顔を見て、命を救えて本当に良かった。もう思い残すことは無いわ。」

私は彼の目を見つめて言った。

「ダニエル、貴方は私のろくでもない人生の中で唯一私から何も奪わなかった人なの。私の我儘に付き合ってくれて、一緒に踊ってくれた。あれが初恋だった。その貴方に撃ち殺されるなら本望よ。」
「誰が殺すと言った?」

彼が小馬鹿にしたように笑う。
意図が分からなくて困惑していると彼は言葉を続けた。

「死ぬなら丁度いい、その命俺のために使え。惚れた俺のために才能を使えるんだ、嬉しいだろ?」
「・・・それで良いの?私は別に構わないけれど、貴方が困るんじゃない?」
「俺を見くびるなよ。今回のカールの一件は方がついた。お前の持ってきたデータが役に立って俺は無傷で済んだし、厄介払いもできた。お前には感謝してるよ。」

優しさのカケラも感じられない上部だけの労いの言葉に思わず吹き出してしまう。
面白い、どうせ死のうとした命だ、彼が望んでくれるなら、彼のために働くのもいいかもしれない。

「分かったわ、貴方のために働くことにする。」

私がそう言いながら立ち上がると彼が腕を取り、引き寄せた。

「もう二度と黙って俺の前から消えるなよ。」

射る様な視線を向けられて、私は微笑みながらゆっくりと頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...