あなたと思い出の曲を

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しばらくすると部屋の外が慌ただしくなり、別の部下達が顔を覗かせて指示を出した。
てっきりこの場で死ぬと思っていたが、どうやら私はどこかへ運ばれるらしい。
まぁいくら息のかかったホテルとはいえ、その中で殺人を犯すのは処理が面倒だと思ったのかもしれない。
私は銃を突きつけられながら外に出て、ホテルの裏口に止まった車に乗せられた。

ボスの弟の計画は爆弾を仕込んだ車に迎えに来させ、正面でダニエルが乗ったのを確認した所で起爆するというものだった。
派手でリスクもあるが確実だし、爆弾で全てが吹っ飛ぶので証拠も残りにくい。
でも、私なら裏口が見渡せる場所にスナイパーを配置しただろう。
こんなふうに裏口から出られたら計画が丸潰れだ。
そういう爪の甘さというか頭の足りなさが今回の騒動を起こした原因のような気がする。
そんなことを考えながら外を眺めた。

車は街からどんどん離れていき、寂れた工場の前で止まった。
乱暴に車から降ろされて、どう見ても廃墟にしか見えない工場の中に連れて行かれる。
辺りには何も無いので、ここで泣こうが叫ぼうが誰にも届かないだろう。
工場の奥にある物置のような狭い部屋に放り込まれるとドアを施錠されてしまった。

半分割れた明り取りの小さな窓から微かに光が差し込んでいるが部屋の中は真っ暗に近い。
疲れていた私は何も無い床に座り、壁にもたれた。

ここに着いても直ぐには殺さなかった、という事はまだ私に用があるのだろう。

私はぼんやりとダニエルの顔を思い出していた。
少年の頃とは違う精悍な顔付きとがっしりとした体躯、あの腕に抱かれてみたかった。
まぁ、ある意味抱かれたけれど、締め殺されかけたのであれは数には入らない。
そして、これから自分がどうなるのかとちらりと考えて、悲劇的な結末しか思い浮かばなかったのでやめた。

他に特にすることも無いので目を閉じて少しだけ眠り、目が覚めると外はすっかり明るくなっていた。
何時かは分からないけれど、とにかく夜は明けたみたいだ。

喉が渇いたなと呑気に考えていたら鍵を開ける音がして、よりにもよってダニエルが部屋の中に入ってきた。

「お前達は外で待ってろ。」

着いてこようとした部下達に外で待つように告げ、ドアを閉める。

「お前は本当にローズなのか?」

彼は私の前に立ち、見下ろしながらそう言った。

「信じてもらうしかないけど、私はあのローズよ。」
「なぜ、俺に知らせにきた。誰の依頼だ。」
「依頼ねぇ、まぁそう思われても仕方ないかもしれないけれど、今回は純粋に私の単独行動よ。」
「どうして、そんな何の得にもならないことをしたんだ。」

『なぜ』が多い、でも当たり前だろうと思った。
過去ほんの少し関わりのあっただけの人間がいきなり現れたら疑問と疑惑だらけになる。

「生きていくためにたくさんの人を利用し、欺いて時には死に追い込んできた。最近それに疲れてしまったの。かと言って今更まともな生き方なんて出来ない。死ぬのも良いかもしれないと思った所に貴方の記録を見て、せめて最後に良いことをしようと思ったのよ。」
「イカれてるな。」
「ふふふ、そうかも。でも最後に貴方の顔を見て、命を救えて本当に良かった。もう思い残すことは無いわ。」

私は彼の目を見つめて言った。

「ダニエル、貴方は私のろくでもない人生の中で唯一私から何も奪わなかった人なの。私の我儘に付き合ってくれて、一緒に踊ってくれた。あれが初恋だった。その貴方に撃ち殺されるなら本望よ。」
「誰が殺すと言った?」

彼が小馬鹿にしたように笑う。
意図が分からなくて困惑していると彼は言葉を続けた。

「死ぬなら丁度いい、その命俺のために使え。惚れた俺のために才能を使えるんだ、嬉しいだろ?」
「・・・それで良いの?私は別に構わないけれど、貴方が困るんじゃない?」
「俺を見くびるなよ。今回のカールの一件は方がついた。お前の持ってきたデータが役に立って俺は無傷で済んだし、厄介払いもできた。お前には感謝してるよ。」

優しさのカケラも感じられない上部だけの労いの言葉に思わず吹き出してしまう。
面白い、どうせ死のうとした命だ、彼が望んでくれるなら、彼のために働くのもいいかもしれない。

「分かったわ、貴方のために働くことにする。」

私がそう言いながら立ち上がると彼が腕を取り、引き寄せた。

「もう二度と黙って俺の前から消えるなよ。」

射る様な視線を向けられて、私は微笑みながらゆっくりと頷いた。
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