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夕焼けに照らされたアパートの屋上で彼とワルツを踊るのが好きだった。
いつも彼はこんなのガラじゃないと嫌がりつつも、私の我儘に付き合ってくれた。
私が見よう見まねの下手くそなステップで、うっかり彼の足を踏んでしまっても文句を言いながら許してくれた。
里親の元から施設に戻されるまでの半年の間の夢のようなひととき。
優しい優しい初恋の思い出。
「んんっ。」
ピリリリッとアラームが鳴ったので、のっそりとベッドから這い出た。
夢の余韻に浸りながら、バスルームに向かい顔を洗う。
さっぱりしたところで、部屋に備え付けの冷蔵庫から水を取り出して飲みながら外を眺めた。
ホテルの窓から眺める街は記憶とは全く様変わりしている。
私がいた頃から10年以上は経っているので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
私はノートパソコンを開き、今夜の予定を再度入念にチェックした。
【ダニエル・カーター】
彼はマフィアのフォリーノファミリーの幹部でボスの右腕と称される人物だ。
私の思い出の中の5つ年上の悪ガキの少年は今や高みに上り詰めたらしい。
中々敏腕らしく、ボスの信用も厚い人物ではあるがその分恨まれることも多い。
まぁマフィアの幹部なんて多かれ少なかれ恨まれる職業だが、今回は相手がボスの弟だというのだから複雑だ。
私の元にダニエルのデータが回ってきたのは本当に偶然だった。
ヨーロッパである人物の身辺調査を請け負った時に、たまたまその人物のパソコンからダニエルの暗殺依頼のデータが出て来たのだ。
写真を見て過去の淡い恋心が蘇った。
彼は私のことなんて忘れているだろうが、そんなことどうでも良かった。
いつ死ぬとも分からない裏社会の片隅で息を潜めて生きているちっぽけな私の命を賭けるに値する、そう思ったのだ。
何より、ダニエルにまた会いたいという衝動に駆られた。
思い出とはかけ離れた人物になっていたとしても、彼にもう一度会うことが出来たらそこで死んでも良い。
そう思って私は自分の生まれた国に10年ぶりに舞い戻り、今日彼が利用するホテルの一室にいる。
仕事を終わらせてホテルの部屋に入った彼に高級娼婦があてがわれる、その女の情報は小細工をして私にしておいた。
そこで彼に危険を伝えなければこのホテルを出た瞬間、彼は死ぬ。
我ながら何ともリスキーな計画だなと思った。
でも、彼に会って危険を伝えるにはこれしかない。
殺し屋を始末してもボスの弟はきっとまた新しい奴を雇うだけだし、ボスの弟を私が殺せばそれはそれで面倒なことになる。
「我ながら、最悪の選択ね。」
私はポツリと呟いて、ソファに身を沈めた。
いつも彼はこんなのガラじゃないと嫌がりつつも、私の我儘に付き合ってくれた。
私が見よう見まねの下手くそなステップで、うっかり彼の足を踏んでしまっても文句を言いながら許してくれた。
里親の元から施設に戻されるまでの半年の間の夢のようなひととき。
優しい優しい初恋の思い出。
「んんっ。」
ピリリリッとアラームが鳴ったので、のっそりとベッドから這い出た。
夢の余韻に浸りながら、バスルームに向かい顔を洗う。
さっぱりしたところで、部屋に備え付けの冷蔵庫から水を取り出して飲みながら外を眺めた。
ホテルの窓から眺める街は記憶とは全く様変わりしている。
私がいた頃から10年以上は経っているので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
私はノートパソコンを開き、今夜の予定を再度入念にチェックした。
【ダニエル・カーター】
彼はマフィアのフォリーノファミリーの幹部でボスの右腕と称される人物だ。
私の思い出の中の5つ年上の悪ガキの少年は今や高みに上り詰めたらしい。
中々敏腕らしく、ボスの信用も厚い人物ではあるがその分恨まれることも多い。
まぁマフィアの幹部なんて多かれ少なかれ恨まれる職業だが、今回は相手がボスの弟だというのだから複雑だ。
私の元にダニエルのデータが回ってきたのは本当に偶然だった。
ヨーロッパである人物の身辺調査を請け負った時に、たまたまその人物のパソコンからダニエルの暗殺依頼のデータが出て来たのだ。
写真を見て過去の淡い恋心が蘇った。
彼は私のことなんて忘れているだろうが、そんなことどうでも良かった。
いつ死ぬとも分からない裏社会の片隅で息を潜めて生きているちっぽけな私の命を賭けるに値する、そう思ったのだ。
何より、ダニエルにまた会いたいという衝動に駆られた。
思い出とはかけ離れた人物になっていたとしても、彼にもう一度会うことが出来たらそこで死んでも良い。
そう思って私は自分の生まれた国に10年ぶりに舞い戻り、今日彼が利用するホテルの一室にいる。
仕事を終わらせてホテルの部屋に入った彼に高級娼婦があてがわれる、その女の情報は小細工をして私にしておいた。
そこで彼に危険を伝えなければこのホテルを出た瞬間、彼は死ぬ。
我ながら何ともリスキーな計画だなと思った。
でも、彼に会って危険を伝えるにはこれしかない。
殺し屋を始末してもボスの弟はきっとまた新しい奴を雇うだけだし、ボスの弟を私が殺せばそれはそれで面倒なことになる。
「我ながら、最悪の選択ね。」
私はポツリと呟いて、ソファに身を沈めた。
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