昔助けた少年に全てを奪われ溺愛される心優しき魔法使いの物語

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少年は花の夢を見る(ルカス視点)

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俺の両親は事故で死んだと聞かされて育った。
孤児院の院長はいけ好かないおっさんだったが、子供の世話をしてくれる先生達は比較的良い人達だった。
もちろん嫌な事もあったが比較的幸せな生活を10歳まではしていた気がする。

ただし、俺の髪と目の色が徐々に赤く染まりだしてからは全てが変わった。
皆、俺を気味悪がって避けるようになり、最終的に院長のおっさんに連れて行かれた先は奴隷商の元だった。
泣き叫ぶ俺をよそに大人達は話をまとめてしまい、おっさんは金を受け取ると俺をちらりとも見ずに行ってしまった。

それからしばらくは地獄の様な日々だった。
商品だからと傷付けるようなことはされなかったし食事も与えられたが、毎日のように他の奴隷達の叫ぶ声や啜り泣きを聞かされ、たまに運ばれていく病死や自殺した死体を見た。

心が徐々に死んでいくような気がした。

だから国王に買われ、魔法の実験台にされかけた俺を助けてくれたオフィーリアは地獄に現れた天使に見えた。
城の地下牢にぶち込まれた俺の手を取り、「大丈夫、私が貴方を守るから。」と優しく微笑むあの人を見て心底救われたのだ。

彼女と過ごす日々は毎日が穏やかでいて新鮮な刺激に満ちていた。
一般的な常識やら日常的な行儀作法は退屈だったが、魔法の授業はとても楽しかった。

オフィーリアは国王の愛人ではあったが相当な実力者で膨大な知識量から、よく他の宮廷魔法使いから頼りにされていた。
それをあの愚か者の国王が、いつも何か理由をこねくり回しては邪魔していたのを覚えている。
子供じみた不快としか思えないその妨害をオフィーリアはいつも困った顔をしながらも受け入れ、間に入って上手く取り成していた。
それが酷く腹立たしかった。
彼女から絶対の愛情を向けられる国王を憎み、恨んだ。

俺がいくら彼女に「オフィーリア、愛しています。」と愛の言葉を囁いても、彼女はいつも「えぇ、私も貴方を息子のように、弟のように愛しているわ。」と微笑むだけ。

彼女の特別に、唯一になりたいと渇望した。

そんな俺の気持ちを察した国王に命を狙われるようになり、オフィーリアは俺を逃した。
あんな狂った奴の側に居れば、いつかオフィーリアにも危害が及ぶと言って一緒に逃げようと説得したのに、彼女は頑として首を縦には振らなかった。

「私はここに残って自分の責任を果たすわ。」

出会った時と変わらない凛とした態度に、俺は泣く泣く彼女を連れて逃げる事を諦めるしかなかった。

「オフィーリア、いつか必ず貴女を迎えに行きます。それまでどうかご無事で。」
「私の事は忘れて逃げることだけ考えなさい。ルカス、愛しているわ。」
「俺もです。」

彼女から貰った逃走資金と学んだ変装魔法で、数年ほど各地を放浪した。
ある時、探索していた洞窟で落盤に巻き込まれ、崩れた場所に隠し部屋のような空間を見つけて入った。
長年閉め切られていたせいか、部屋の中はジメジメとしてかび臭かった。
明かりの無い部屋の中を魔法で照らす。

「何も無いか、ん?あれは?」

部屋の奥には岩がせり出しており、その上に本の様なものが見えた。
こんな部屋の中にあったのに、その本はまるで新品同様でそれが逆に不気味さを醸し出している。
何かに惹かれるように本を手を取ると中には魔人をどう呼び出すかが書かれていた。
落盤で出口は塞がれているので出られなければどっち道死ぬのだと思い、その本に書かれていた方法を試した。

そこで現れたのがクラーラだった。
彼女は俺を見ると「これはこれは魔人と人との混血児とは何と珍しい。」と呟き、俺の頬を撫でた。
どういう事だと問う俺に彼女は俺が誰の子供で、どう生まれたかを話してくれた。

「何故分かるんだ?」
「何故と言われてもなぁ。私は見えるままを話しているだけだよ。いやしかし奇跡とも言うべき存在と巡り合えるなんて私は実に運が良い。」
「奇跡か、俺はこの世界では厄介者扱いで居場所なんて無いのに皮肉なもんだな。」
「ほう、それなら私と一緒に来ると良い。人には越えられない境界も魔人の血が入ったお前なら越えられるだろう。そして私の貴重なコレクションに加わるのはどうだ?不自由はさせないぞ?」

髪をかき上げて妖艶に微笑むクラーラはとても魅力的だったが、俺にはオフィーリアがいる。
魔人の世界に行くのは構わないがお前のものにはならないと言うと彼女は目を瞬き驚いた顔をした。

「おや、私も中々容姿に自信がある方だが既に決めた相手でもいるのか?」
「いる。今はまだ無理だがいつか必ず迎えに行く。」
「面白そうだな。人の恋愛譚はいつも予想が出来ない。分かった、その人間を私も見てみたいから協力しよう。」

そして彼女に連れて行かれた魔人の世界は実に快適だった。
赤い髪や瞳は当たり前で人から怯えた目で見られることは無いし、それを理由に蔑まれることも無い。
ようやく本来の自分を取り戻し、自由に息ができる様な気がした。
クラーラから魔人の魔力のコントロールについて学び、自由に扱えるようになるとオフィーリアを迎えに行く準備に取り掛かった。

「ふむ、そもそも生きた人間が境界を越えられないと言われるのは、心が保たずに壊れてしまうからで、お前が言うように死体なら問題は無いな。なんせ心が無いのだから壊れようがない。」
「そうか。では最初の問題は解決だな。」
「しかし、死体を持ち込んでどうする?剥製でも作って飾るのか?」
「いいや、ホムンクルスにする。」

俺がそう言うとクラーラはきょとんとした後に腹を抱えて笑い出した。

「ルカス、お前は実に面白い男だな!人の死体でホムンクルスを作るなんて、想像するだけでワクワクする!いいぞ、私も蘇った彼女を見たい!」
「見せるわけないだろ。誰にも見せずに俺と一緒に暮らすんだ。」
「はぁ?ルカス、お前はその愚かな国王の事をボロクソに言うがお前も大概おかしいぞ。」

呆れたように呟くクラーラを無視して俺はホムンクルスについて調べ始めた。
そもそも本来のホムンクルスとは作り方が異なるし、何よりただ蘇らせるだけでは駄目なのだ。
彼女の崇高な精神を宿したままでなければ意味がない。 
俺は人の世界で行き倒れた者や人知れずに死んだ者を集めて、ホムンクルスを作る実験を繰り返した。
そしてようやく生前の記憶を宿したまま人をホムンクルスとして蘇らせることに成功した。

「これでオフィーリアを迎えに行ける。」
「ん?ルカス、それ捨ててしまうのか?」

俺が再度命を奪った男の死体を焼却しようとしたのをクラーラが止めた。
邪魔だと言ったのにどうしても工程を見たいと言って彼女は毎回、実験を見学していたのだ。

「あぁ、実験が終わればこいつは用済みだからな。・・・おいまさか。」
「良いだろう?私も自分専用のおもちゃが欲しいんだよ。」
「いや、それでもコレで良いのか?こいつはケチな犯罪者で喧嘩に巻き込まれて刺されて死んだどうしようも無いクズだぞ?」
「構わない。頑丈そうだし顔も悪くない。負けん気の強さも弄ぶにはちょうど良い。」

魔人の好みはいまいち分からないが俺には不要なものなので男の死体は彼女にやることにした。
そのまま死んでいた方が男とっては良かったかも知れないが、俺の知った事じゃない。

俺は人の世界に戻り、彼女の事を調べた。
彼女はやはり国王の愛人として暮らしている様だった。
流石に彼女の命を奪うのは気が引けたのでのんびり彼女の寿命を待つのもいいかもと考えていた。
何せ、魔人は人より何倍も長生きだ。
しかし、時が経つにつれて周囲の動向がおかしくなりはじめた。
あの愚かな国王がまたおかしな考えに取り憑かれてろくでもない事に手を出し始めたのだ。

またかと、はらわたが煮えくり返った。
あいつはいつもそうだ、オフィーリアを傷付ける。

「オフィーリア、もう誰にもあんたを傷付けさせない。俺が大事にするからな。」

俺は事をうまく運ぶべく、計画を立て始めた。
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