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闇に潜む弾丸
闇に潜む弾丸-02
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荒野で人間が肩を寄せあって生きる街、プラエド。
街の中央、富裕層の住む区画は分厚い壁に囲まれているがそれ以外の外周には丸太を組合せ有刺鉄線を巻いた簡易バリケードが並べられているのみである。ミュータント対策としては甚だ頼りない。金持ちは安全な所へ、貧乏人は危険な所へ、そんな露骨な色分けがなされていた。
街の最端に住む最下層の貧民たちは廃材を利用したテントを組み、荒れた土地に種を蒔くか、中央から出るごみの山を漁って暮らしていた。
ミュータントが襲撃してきた場合、真っ先に犠牲となるのは当然、彼らである。中央議会の連中は彼らが食われている間にのんびりと対策を立てればいい。
ミュータントもそう頻繁に襲ってくるものではない。防備施設がないとはいえ、ここは人間の巣のなかだ。
貧しい家にも銃だけはある。人間にも多大な犠牲が出るが、取り囲んで集中砲火を浴びせ討伐した事例はいくらでもある。そしてミュータントを討伐すればハンターオフィスから賞金が出るので化け物の襲来を恐れつつも期待しているといった面も確かにあった。
だが、この夜だけはそう気楽なことも言っていられなかった。
貧民街のある少年はこの日、夜警に立っていた。助け合いの名のもとに押し付けられたボランティア、美しきタダ働きである。
静寂のなかにあった。左手に掲げた松明のはぜる音と、虫の声だけがやけにハッキリと聞こえた。たまにテントの中から酔っぱらいが奇声をあげる。
なんて下らない人生だ。少年は街の中央へと眼を向けた。
ここから灯りが見えるわけではないが、中央の連中はきっとまだ起きているだろう。自分と同じように夜通しで。自分とは違い遊ぶために。
懐に手を入れ、拳銃の冷たい感触を確かめる。
貧民街から抜け出すための一番手っ取り早い方法はハンターになることである。学も技術もいらない、入門に必要なのは度胸だけだ。少年もまた、そうした野望を抱いていた。しかし手持ちの武器が拳銃一丁だけではあまりにも心もとない。
(ゴミの山を漁って小銭を稼ぐような真似をいつまでもやっていられるか。明日は、明日こそは荒野に出よう。ハンターの死体でも見つければ側に武器が転がっているだろうし、認識票をハンターオフィスに届ければ謝礼がもらえる……)
その場に立ち止まり、拳銃を取り出してじっと眺めた。
(死体が見つからなければ、いっそ作ってやってもいい……)
未来を切り開く相棒、愛すべき共犯者。炎に照らし出された拳銃は神秘的ですらあった。
口元を歪めてひとり笑う少年の頭上を影が覆う。
悪臭に慣れたはずの鼻ですら曲がってしまいそうな強烈な獣の臭い。生温かいどころではない、明確な熱さを持った吐息。
恐る恐る顔を上げると、いつの間に現れたのか赤い瞳の巨大な馬が見下ろしていた。
その前足は人間の手の形をしていた。後ろ足は人間の足だ。ミュータント馬の巨体を支える分、人間のものとは比べ物にならぬほど太く大きいものであった。
叫び声が、声にならない。銃を構えるよりも先に巨大な手が少年の頭を鷲掴みにし、握り潰した。びしゃびしゃと血をまき散らしながら夢を抱く少年であったものが倒れる。
転げ落ちた松明を踏み消し、馬は少年の腸を食い始めた。
遠目に見れば馬が草を食む牧歌的な光景にも感じるかもしれないが、実際に闇のなかで行われるそれは悪魔の晩餐とでも呼ぶべきおぞましいものであった。
あらかた食い終えると、馬は来たときと同じようにのんびりと歩いて去っていった。
少年の死に様は悲劇的ではあるが、珍しいことではない。彼が望んだハンターとして生きる者がいつかはたどり着く結末だ。
街の中央、富裕層の住む区画は分厚い壁に囲まれているがそれ以外の外周には丸太を組合せ有刺鉄線を巻いた簡易バリケードが並べられているのみである。ミュータント対策としては甚だ頼りない。金持ちは安全な所へ、貧乏人は危険な所へ、そんな露骨な色分けがなされていた。
街の最端に住む最下層の貧民たちは廃材を利用したテントを組み、荒れた土地に種を蒔くか、中央から出るごみの山を漁って暮らしていた。
ミュータントが襲撃してきた場合、真っ先に犠牲となるのは当然、彼らである。中央議会の連中は彼らが食われている間にのんびりと対策を立てればいい。
ミュータントもそう頻繁に襲ってくるものではない。防備施設がないとはいえ、ここは人間の巣のなかだ。
貧しい家にも銃だけはある。人間にも多大な犠牲が出るが、取り囲んで集中砲火を浴びせ討伐した事例はいくらでもある。そしてミュータントを討伐すればハンターオフィスから賞金が出るので化け物の襲来を恐れつつも期待しているといった面も確かにあった。
だが、この夜だけはそう気楽なことも言っていられなかった。
貧民街のある少年はこの日、夜警に立っていた。助け合いの名のもとに押し付けられたボランティア、美しきタダ働きである。
静寂のなかにあった。左手に掲げた松明のはぜる音と、虫の声だけがやけにハッキリと聞こえた。たまにテントの中から酔っぱらいが奇声をあげる。
なんて下らない人生だ。少年は街の中央へと眼を向けた。
ここから灯りが見えるわけではないが、中央の連中はきっとまだ起きているだろう。自分と同じように夜通しで。自分とは違い遊ぶために。
懐に手を入れ、拳銃の冷たい感触を確かめる。
貧民街から抜け出すための一番手っ取り早い方法はハンターになることである。学も技術もいらない、入門に必要なのは度胸だけだ。少年もまた、そうした野望を抱いていた。しかし手持ちの武器が拳銃一丁だけではあまりにも心もとない。
(ゴミの山を漁って小銭を稼ぐような真似をいつまでもやっていられるか。明日は、明日こそは荒野に出よう。ハンターの死体でも見つければ側に武器が転がっているだろうし、認識票をハンターオフィスに届ければ謝礼がもらえる……)
その場に立ち止まり、拳銃を取り出してじっと眺めた。
(死体が見つからなければ、いっそ作ってやってもいい……)
未来を切り開く相棒、愛すべき共犯者。炎に照らし出された拳銃は神秘的ですらあった。
口元を歪めてひとり笑う少年の頭上を影が覆う。
悪臭に慣れたはずの鼻ですら曲がってしまいそうな強烈な獣の臭い。生温かいどころではない、明確な熱さを持った吐息。
恐る恐る顔を上げると、いつの間に現れたのか赤い瞳の巨大な馬が見下ろしていた。
その前足は人間の手の形をしていた。後ろ足は人間の足だ。ミュータント馬の巨体を支える分、人間のものとは比べ物にならぬほど太く大きいものであった。
叫び声が、声にならない。銃を構えるよりも先に巨大な手が少年の頭を鷲掴みにし、握り潰した。びしゃびしゃと血をまき散らしながら夢を抱く少年であったものが倒れる。
転げ落ちた松明を踏み消し、馬は少年の腸を食い始めた。
遠目に見れば馬が草を食む牧歌的な光景にも感じるかもしれないが、実際に闇のなかで行われるそれは悪魔の晩餐とでも呼ぶべきおぞましいものであった。
あらかた食い終えると、馬は来たときと同じようにのんびりと歩いて去っていった。
少年の死に様は悲劇的ではあるが、珍しいことではない。彼が望んだハンターとして生きる者がいつかはたどり着く結末だ。
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