鉄錆の女王機兵

荻原数馬

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機械仕掛けの絆

機械仕掛けの絆-07

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 翌日、工場を訪れるとすでに新型の義肢が用意してあった。
 ディアスとカーディルはその手際のよさに驚いていたがマルコからすれば、
(どうせすぐ来ると思っていたよ。ディアスくんがカーディルくんの事で躊躇などするわけがないからな)
 と、いうことであり手品を見せられたような顔をされてはかえって面映ゆい。
「手に取って見てもよろしいでしょうか?」
 ディアスが一応の断りをいれる。マルコはひどく面倒くさそうに答えた。
「いいとも。そのまま装着してもらっても構わない。で、気に入ったらこいつにサインしてくれたまえよ。それで契約完了だ」
 指で摘まんだ紙をひらひらと振ってみせる。ずらりと整列したゼロの群れ。できればそこからは目を逸らしたかった。
 義手をひとつ持ち上げてみた。美しい銀色の五本指。カタログで見たときから気になっていたが、本物を見るとさらに気に入った。
 途中でマルコが、
「こうして机の上に並べているとバラバラ死体のようだねぇ」
 と、悪趣味な冗談を飛ばして笑っていたが、これは無視した。
「早速だが付けてみようか。きっと、よく似合うよ」
「本当に綺麗ね。付けたらそのまま消えたりしないかしら」
 ソファーに座ったカーディルは不安げに言った。
「こいつは夢じゃない、確かな現実だ。壊れも消えたりもしないよ。この手足はきっと君に付けてもらうために作り出されたのさ」
 マルコが何かを言いたそうにしているのを、ディアスは目で制した。
(事実がどうかなんてどうでもいい。ロマンティック優先だ。この出会いは運命であって、気まぐれで作ったはいいがコストが嵩みすぎて不良在庫に成り下がった義肢などではない!)
 視線だけで気持ちが伝わった訳でもあるまいが、とにかくその眼力に押されマルコは開きかけた口を渋々閉じた。
 まだ遠慮がちなカーディルを促すようにディアスは義肢の交換に取りかかった。
 丸子製作所の義肢と接続ユニットは規格が統一されているので、調整の必要なく新しいものが付けられる。古い義肢を外し新型の義足をまず一本取り付けたとき、カーディルは意外そうな顔をしていた。
「あれ、あんまり痛くない」
 今までは神経接続の際に強い電流に耐えねばならなかったが、今回は軽く痺れる程度であった。接続の度に苦痛を味わってきたことは無論、ディアスも知っている。
 ふたり揃ってマルコに視線を向けると、彼は心得たりとばかりに説明をしてくれた。
「接続がスムーズにいっているということだね。雑音が少ないとでも言えばいいかな。そういうところも色々と改良されているのさ」
 生活するなかで苦痛を感じる部分が無くなるのは実にありがたい。
 これはいいものだ。ディアスは微笑みながら黙々と取り付け作業を行った。
 四肢の取り付けが終るとカーディルは恐る恐る指を動かしてみた。一本、二本三本と。拳を握り、また開く。
 5年前は自分の手足があった。そのときと比べてどうかと考えたが、もう思い出すことも出来なかった。
 ハッキリしていることはただひとつ。自分は今、全てを取り戻したということだ。カーディルは義手を広げて顔を覆い、身を震わせた。涙が止めどなく溢れてくる。
「わ、私、今まで……こうして泣くこともできなかった……ッ」
 ディアスはカーディルの隣に座り、その肩を強く抱き寄せた。
「ありがとう……」
 一言だけ呟き、しばらく俯いて泣いた。
 やがてカーディルの右手が何かを求めるように動く。この状況で必要なものは何か。ディアスは懐からハンカチを取り出して、その右手に乗せた。
 正解だったようだ。カーディルは涙を拭いハンカチを広げて盛大に、ぶびぃと音をたてて鼻をかんだ。こういうところが実にカーディルだと、ディアスは怒るよりも微笑ましく見守っていた。
 その後、契約書にサインをして義肢は正式にカーディルのものとなった。
 古い義肢を専用のケースに入れ立ち上がる。カーディルも目は少し赤いままだが、その立ち振舞いに動揺は残っていない。誇りと自信を胸に、真っすぐに立つ。
「本日はありがとうございました。ミュータント狩りの方針などについて、また後日伺わせていただきます」
 ディアスとカーディルは雛人形のように揃って、深々と頭を下げた。義肢ケースのベルトがディアスの肩に食い込んでいるのを見て、マルコは呆れたように言った。
「君は本当に、色んな重荷を背負っているねぇ……」
 右肩に義肢ケース。左腕はカーディルにがっちりと確保されている。
「楽しいことなら苦にならぬものです」
 ディアスは迷いなく言い放ち、部屋を後にした。
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