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砂狼の回顧録
砂狼の回顧録-17
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工場の敷地内に簡易病棟があり、手術室と病室が用意されていた。ハンターのあらゆる要望に応える施設という触れ込みに偽りは無いようだ。
狩りの際は常に泰然と構えているディアスも、カーディルの手術が迫るとひどく落ち着かない様子で意味もなく立ち上がったり座ったりと繰り返していた。
そんな彼の様子をマルコは面白そうに眺めていたものだが、次第に哀れに感じたか、励ますように言ったものだ。
「接続ユニットの取り付けなんて盲腸の手術よりも簡単さ。失敗のしようがない」
「そういうものですか……」
「目をつぶってもできる」
「さすがに目は開けてください」
冗談はさておき、マルコの腕は本人が天才と豪語するだけに確かなものであった。こうした手術に慣れているのか、左腕の切断、右腕の切り詰め、両足の切り揃えに四肢への接続ユニットの取り付けと次々にこなして一時間ほどしか掛からなかった。
さらに三時間ほどで麻酔が切れて、カーディルは目を覚まし面会が許された。
不安と期待を胸に病室へ入るとカーディルは毛布を肩にかけ、ぼんやりとベッドに腰かけていた。そう、座っているのだ。手があり、足がある。
ディアスの姿に気づくと、カーディルは恥じ入るように目を逸らし、毛布を引き寄せた。
何事だろうかと近付き、そして毛布の隙間から覗くものに愕然とした。指先が人間のそれとは似ても似つかぬ、鈍色の三本爪だ。
脚は先のとがった三角形から鉄の棒が伸びて、ところどころにコードが這っている。人体の機能をできる限りデフォルメして、剥き出しにしたような代物である。
手も脚も、義肢というよりは工業用ロボットアームと呼ぶのが相応しい。それが美女の肩、膝から伸びている姿は哀れであり、滑稽でもあり、残酷であった。
「ねえ、ディアス……」
カーディルが、掠れた声で呟いた。
「私のこと、好き?」
「愛しているよ」
先程の動揺など微塵も見せぬハッキリとした答え。当然だ、これだけは決して揺るがない。
「あなたは優しいから、すぐにそういうことを言うけれど……ッ」
ディアスに詰め寄ろうと立ち上がるが動きに慣れていないためか、途中でがくりと膝が折れる。その体をディアスが抱き止めた。
しばし、無言で抱き合う二人。
「私、あなたに支えられてばかりね……」
「君がいなければ、俺は立ってはいられなかった」
カーディルの体を持ち上げて、ゆっくりとベッドに下ろす。正直なところ、とても重い。だがそんなことはおくびにも出さぬディアスであった。
「ありがとう、少し落ち着いたわ」
「そいつはよかった」
ディアスもベッドに腰かけると、カーディルはごく自然な流れで頭をディアスの肩に乗せ、その身を預けた。
「博士が言うにはね、しばらくこれを動かす練習をしなけりゃいけないって。リハビリみたいなものね。この手足が自分のものだって頭に教え込まなきゃならないのよ。これが、自分の手足だって……」
三本爪がカチカチと打ち鳴らされる。その音はどこか寂しげに聞こえた。
「それが終れば次は……」
「戦車、か」
少しの間、考え込む二人。そして口を揃えて吐き出すようにいった。
「戦車かぁ……」
狩りの際は常に泰然と構えているディアスも、カーディルの手術が迫るとひどく落ち着かない様子で意味もなく立ち上がったり座ったりと繰り返していた。
そんな彼の様子をマルコは面白そうに眺めていたものだが、次第に哀れに感じたか、励ますように言ったものだ。
「接続ユニットの取り付けなんて盲腸の手術よりも簡単さ。失敗のしようがない」
「そういうものですか……」
「目をつぶってもできる」
「さすがに目は開けてください」
冗談はさておき、マルコの腕は本人が天才と豪語するだけに確かなものであった。こうした手術に慣れているのか、左腕の切断、右腕の切り詰め、両足の切り揃えに四肢への接続ユニットの取り付けと次々にこなして一時間ほどしか掛からなかった。
さらに三時間ほどで麻酔が切れて、カーディルは目を覚まし面会が許された。
不安と期待を胸に病室へ入るとカーディルは毛布を肩にかけ、ぼんやりとベッドに腰かけていた。そう、座っているのだ。手があり、足がある。
ディアスの姿に気づくと、カーディルは恥じ入るように目を逸らし、毛布を引き寄せた。
何事だろうかと近付き、そして毛布の隙間から覗くものに愕然とした。指先が人間のそれとは似ても似つかぬ、鈍色の三本爪だ。
脚は先のとがった三角形から鉄の棒が伸びて、ところどころにコードが這っている。人体の機能をできる限りデフォルメして、剥き出しにしたような代物である。
手も脚も、義肢というよりは工業用ロボットアームと呼ぶのが相応しい。それが美女の肩、膝から伸びている姿は哀れであり、滑稽でもあり、残酷であった。
「ねえ、ディアス……」
カーディルが、掠れた声で呟いた。
「私のこと、好き?」
「愛しているよ」
先程の動揺など微塵も見せぬハッキリとした答え。当然だ、これだけは決して揺るがない。
「あなたは優しいから、すぐにそういうことを言うけれど……ッ」
ディアスに詰め寄ろうと立ち上がるが動きに慣れていないためか、途中でがくりと膝が折れる。その体をディアスが抱き止めた。
しばし、無言で抱き合う二人。
「私、あなたに支えられてばかりね……」
「君がいなければ、俺は立ってはいられなかった」
カーディルの体を持ち上げて、ゆっくりとベッドに下ろす。正直なところ、とても重い。だがそんなことはおくびにも出さぬディアスであった。
「ありがとう、少し落ち着いたわ」
「そいつはよかった」
ディアスもベッドに腰かけると、カーディルはごく自然な流れで頭をディアスの肩に乗せ、その身を預けた。
「博士が言うにはね、しばらくこれを動かす練習をしなけりゃいけないって。リハビリみたいなものね。この手足が自分のものだって頭に教え込まなきゃならないのよ。これが、自分の手足だって……」
三本爪がカチカチと打ち鳴らされる。その音はどこか寂しげに聞こえた。
「それが終れば次は……」
「戦車、か」
少しの間、考え込む二人。そして口を揃えて吐き出すようにいった。
「戦車かぁ……」
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