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第7話 「キレイ」の効能
しおりを挟む円香は体型が変わって服が似合うようになったと言っていた。
けれど私は、顔が変わったことで服が似合うようになった。
気に入った服を着てみた時の何とも言えない、まるでへたくそな合成写真のような違和感がなくなったのだ。
そうなって初めて、円香の言っていたことがわかった──いや、実感できた。
──おしゃれは、楽しい。
まあ、同僚たちがいちいち「うわ、誰かと思った」と言わんばかりの反応をするのには正直閉口したけれど。
そんな職場なので、急に異性からお声がかかるようになった、なんてマンガみたいなことは起こらない。
でも、タクシーで料金の端数を切り捨ててもらえたり、「べっぴんさんには一つオマケね!」と唐揚げを一つ増やしてもらえたり……そんな、作り話だとばかり思っていた出来事が実際にこの身に起こるようになったのだ。
見た目の良さというのは、これまで思っていた以上に人生に影響をもたらすものなのだと、否応なしに実感させられる思いだった。
面と向かって定義したことはないけれど、私は今まで「自信」というのは自力で作り上げるものだと思っていた。
だって「自分を信じる」と書くくらいなのだから。
能力で裏打ちされてこその自信だと思っていた。
でもそれだけが自信じゃないのだ。
さっきのような例に加え、店員さんが普段より丁寧に説明をしてくれるだとか、偶然目が合った人がどこか恥ずかしそうに目を逸らすだとか、そんな些細な、他人のふるまいによって蓄積される自信というものの存在を、私は知った。
(そういえば……)
私は円香のあの独特なパワフルさを思い出す。
私はあれを、彼女が美人であることに由来するものだと信じて疑わなかった。
でも違う。
単に美人であることじゃない。
見た目によって、他人から重んじられるようになること、軽くあしらわれなくなることを経験したからこその自信が、その背後にはあるのだ。
そして円香のあのパワーは、そんな自分に自力でたどり着いたからこそのものなのだ。
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