【完結】色をまとう ~キレイになりたい全ての女子へ贈る物語~

蒼村 咲

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第3話 スタートライン

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そんなわけで私たちはそれぞれ本気で仕事を片付け、無事に定時にオフィスを後にした。
円香にしても、あれだけの案件を抱えていながら宣言通り定時退勤を実行してしまうのだからすごい。
実は彼女がこれほどに仕事ができてしまうがために、「ビジュアルの沢居、実力の築山」という棲み分けが許されなかったのだけど──それはここだけの話にしておく。

建物を出たところで待っていると、円香はすぐにやってきた。

「じゃ、早速行きますか!」

やたら張り切っている気がする円香の案内でほうぼうの店を回る。
洗顔料に化粧水、乳液、美容液、それから導入液、保湿ジェル、クレンジングにフェイスパック……基礎化粧品だけでいくつもの種類があって、なんだかもう目が回りそうだった。
それでも、円香が店員さんとの橋渡しをしてくれたおかげで、一人でやることを思えばはるかにスムーズに買い物ができたのは間違いない。

何をいつどういうタイミングと順番で使うかを事細かにレクチャーされ、私はようやくスキンケアのスタートラインに立てた。

「……よし。これで基本はOKかな」

いくつものショッパーを提げた私を眺め、円香は満足げに言った。

「どうする? こんな時間だけど、ご飯でも行く?」

そう言って、円香は後方を振り返る。飲食店が軒を連ねるエリアだ。
言われてみれば、お腹は空いているかもしれない。
でも仕事終わりの一連の買い物で、私はエネルギーを使い果たしてしまっていた。

「ごめん、ちょっと疲れちゃって……このお礼は今度ちゃんとするから」

我ながら情けないくらいに疲労のにじむ声で答えると、円香は「全然! お礼とかも気にしなくていいから」と笑った。

「それじゃ、また明日会社で!」

そう言って、改札へと続く階段を下りていく。

(なんか、やっぱり根本的なバイタリティというものが違う気がする……)

そんなことをぼんやりと思いながら、円香を見送った時だった。

「──きゃ!?」

見知らぬ男が追い抜きざまに思いっきりバッグを引っ張ってきたのだ。

(ひったくり!?)

けれど中には財布もスマホも社員証も、言ってみれば私の全てが入っているのだ──とっさに力を込めて抵抗する。
が、力ではかないそうにない。

と、異変に気づいた通行人の男性が近くで大声を上げた。

「──おい! 何やってる!」

反応は、ひったくり犯の方が早かった。
自分の身の安全を優先したらしく、私のバックから手を放し一目散に駆けだしたのだ。
当然、私はその反動で歩道に投げ出される。

(痛っ……)

思い切り腰を強打したものの、一応貴重品諸々は無事だ。

(ああ、さっきの人にお礼言わないと!)

男性を探して立ち上がろうとした私の目の前に、手が差し伸べられた。

「大丈夫ですか?──築山さん」

(──え? この声……)

そこにいたのはなんと、柏本さんだった。
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