【完結】つぎの色をさがして

Another Story ─ ジャスミンは香る

第14話 その後

どれだけ後悔しても遅い──あたしはとんでもないことをやらかした。
黒田さんの結婚式を、一生に一度の晴れ舞台を、あたしはめちゃくちゃにしてしまった。

それをあの時のあたしは、大切な人を守るための戦いだなんて正当化して。
あれからずいぶんたった今でも、あの場の空気を思い出すと足がすくむ思いがする。

できることなら謝りたかった。でも、どんなに謝ったって意味がない。
あたしがどんなに謝っても、黒田さんが「もういい」と言ってくれたとしても、あたしがやったことは、決してなかったことにはならないから。

それに黒田さんは「大人」だから、心の中でどう思っていたとしても、きっと言葉の上ではあたしを許してしまうと思う。
そうなったら、たとえそれが嘘だとわかっていたとしても、あたしの罪悪感は和らいでしまう。
そんなの──許されない。

まあそれ以前に、あたしは黒田さんと会うことを許されなかったんだけど。谷元さんからも、城井さんからも。

その代わり──っていうわけじゃないけど、あたしは「専門家のカウンセリング」に連れていかれた。
おとなしく従ったのは、単純に拒否するのが面倒だったからだ。
だからカウンセラー？精神科医？よくわからないけど、とにかくその「先生」を相手に、あたしは開口一番こう言った。

「正気に戻ってからお会いしたって、意味ないですよね」

「先生」がどれくらい事情を知っていたのかはわからないけど、彼は──なんていうのかな、探りを入れるようなことは何一つ聞いてこなかった。
ただ一時間か二時間か、二人でひたすらお喋りをした感じ。おかしな話だけどね。

でもさすが専門家っていうだけあって、「先生」はものすごく聞き上手だった。
あたしはいろんなことを喋った。黒田さんの結婚式のことには、さすがに触れなかったけど。


そしてその「通院」が「とりあえずいったんおしまい」になった日の帰り道。

正面から歩いてきた人影に、あたしは思わず息が止まりそうになった。
まさか、こんなふうになんの心の準備もなく会ってしまうなんて──…。

「──黒田さん」

突然立ち止まったあたしにぶつかりそうになったのか、スーツ姿のおじさんが舌打ちをしながらそばを通り抜けていく。

「……谷元さん」

二メートルくらい離れたところで立ち止まった黒田さんは、あたしをそう呼んだ。

「……いえ。昔みたいに津山って呼んでくだされば……」

そう言ってしまってから、あたしはもしかしたら、黒田さんにはずっと「津山さん」って呼ばれていたいのかもしれないな、なんてことを思った。
それから、黒田さんが行ってしまわないうちに言い足す。

「少しだけ……お時間、いただけないですか？」

断られたら諦めるつもりだった。きっとそれは黒田さんの意思表示だろうから。

あたしの突然の誘いに、黒田さんが何を思ったかはわからない。
それでも、黒田さんは特に迷った様子もなくうなずいてくれた。