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第1話 放課後の片想い
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「はあ……」
梢は誰もいない教室で机に突っ伏した。
開け放った窓から部活の掛け声がにぎやかに響いてくる。
その声につられるようにして窓際に歩み寄ると、西日が目を柔らかく射てきた。
グランドではたくさんの生徒たちが部活動に勤しんでいる。
左奥には野球部、左手前にはソフトボール部、右手側にはテニス部、正面手前には陸上部。そして真ん中は──…
(──あ、いた)
グランドの中心に陣取っているサッカー部の中に、「彼」──相原くんはすぐに見つかった。
探したつもりはないのに、勝手に目が引き寄せられてしまうのだ。
そして見つかったその途端、心臓が狂ったように暴れ始める。
なんだろう、痛くはないはずだけれど、やっぱり痛い。
(恋、ってこんなに苦しいものだっけ?)
梢は窓の外に取り付けられた手すりに体重を預ける。
少しだけ、ドキドキが治まってきた。ふう、と息をついたらまた楽になった気がする。
梢はもう一度、運動場に目を凝らした。
部員たちはみんな、ゴールキーパーと顧問の先生、コーチやマネージャー以外、みんな同じユニフォームを着ている。
多少の体格差はあれど、同じ格好をした男子ばかりが数十人。
それなのに一瞬で見分けられてしまうのは、やっぱり恋の力なのだろうか。
梢は相原くんの姿を目で追った。
今はボールから離れたところにいて、どこかを指さしながら何か叫んでいるようだ。
でもここからでは、何を言っているのかまではわからない。
誰にも気づかれず邪魔されず、とがめられることもなくただ見ていられる。ここは素晴らしい場所だった。
けれど、どうしてもちょっと遠い。
(私と相原くんも、これくらい遠いよね……)
同じクラスだというのに、梢と相原くんには驚くほど接点がなかった。
もちろん、用事があれば普通に話すし、用事なんてなくても話そうと思えば話せるのだけれど。
でも、それだけなのだ。席が近くにもならなければ、班が同じになったりもしない。
なのにもう、こんなにも好きになってしまっている。遠くから眺めるだけで胸が痛むくらいに。
梢はまたため息をついた。
相原くんが好きなことは、本人にはもちろん、誰にも知られていないと思う。
友達にも話していない。信用していないとか、そういうわけじゃないけれど、わざわざ自分から「ダレソレに恋をした!」なんて宣言するのはなんだか気恥ずかしい。
でも、そうやって胸の内に秘めたままにしておくのも限界だった。梢はすっと目を伏せる。
ただただ、苦しい。今みたいに遠くから姿を目にしただけで、あるいは彼のことを考えただけで、梢の心臓は悲鳴を上げそうになるのだ。
(今までは誰か好きになっても、こんなことなかったのに……)
グランドでは集合がかかったらしく、選手たちが一点に集まっていた。
梢の目は相変わらず、一瞬で相原くんの姿をとらえてしまう。
心臓は、速くはないけれど、服の上からでもわかるんじゃないかというくらいに大きく鼓動していた。
「きついなあ……」
思わず小声でつぶやく。
こんな風に誰かに恋をしたことなんてなかった。
こんな風に苦しい恋なんて知らなかった。
だけど、おかげで一つわかったことがある。「告白」──はこの苦しみからの解放なのだ、と。
今までなら、誰かを好きになっても告白なんて絶対にできない──しないと思っていた。
告白したって両想いになれるとも限らない。
それなら、遠くから眺めて幸せな気分に浸ったり、おしゃべりして心を浮き立たせたり、そんなことで十分だった。
梢にとって、恋というのはそういうものだった。
(でも今は──…)
相原くんへの恋が今までの恋とどう違うのかはわからない。でも、この恋はただ苦しかった。
この苦しみに終止符を打つための一番確実な方法──それが、「告白」なのだ。
そうすればきっと、苦しいだけの状況から脱することはできる──たとえそれが、「失恋」という終わりへの始まりだったとしても。
とはいうものの、自分が楽になるために告白するって、なんだか自分本位な気がする。恋愛に利己も利他もないのかもしれないけれど。
でも、告白はできるだけ相原くんに迷惑にならない形にしたい。
(ただ、迷惑にならない告白、って……?)
告白なんてしたこともされたこともない梢にとって、それはとてつもない難問なのだった。
梢は誰もいない教室で机に突っ伏した。
開け放った窓から部活の掛け声がにぎやかに響いてくる。
その声につられるようにして窓際に歩み寄ると、西日が目を柔らかく射てきた。
グランドではたくさんの生徒たちが部活動に勤しんでいる。
左奥には野球部、左手前にはソフトボール部、右手側にはテニス部、正面手前には陸上部。そして真ん中は──…
(──あ、いた)
グランドの中心に陣取っているサッカー部の中に、「彼」──相原くんはすぐに見つかった。
探したつもりはないのに、勝手に目が引き寄せられてしまうのだ。
そして見つかったその途端、心臓が狂ったように暴れ始める。
なんだろう、痛くはないはずだけれど、やっぱり痛い。
(恋、ってこんなに苦しいものだっけ?)
梢は窓の外に取り付けられた手すりに体重を預ける。
少しだけ、ドキドキが治まってきた。ふう、と息をついたらまた楽になった気がする。
梢はもう一度、運動場に目を凝らした。
部員たちはみんな、ゴールキーパーと顧問の先生、コーチやマネージャー以外、みんな同じユニフォームを着ている。
多少の体格差はあれど、同じ格好をした男子ばかりが数十人。
それなのに一瞬で見分けられてしまうのは、やっぱり恋の力なのだろうか。
梢は相原くんの姿を目で追った。
今はボールから離れたところにいて、どこかを指さしながら何か叫んでいるようだ。
でもここからでは、何を言っているのかまではわからない。
誰にも気づかれず邪魔されず、とがめられることもなくただ見ていられる。ここは素晴らしい場所だった。
けれど、どうしてもちょっと遠い。
(私と相原くんも、これくらい遠いよね……)
同じクラスだというのに、梢と相原くんには驚くほど接点がなかった。
もちろん、用事があれば普通に話すし、用事なんてなくても話そうと思えば話せるのだけれど。
でも、それだけなのだ。席が近くにもならなければ、班が同じになったりもしない。
なのにもう、こんなにも好きになってしまっている。遠くから眺めるだけで胸が痛むくらいに。
梢はまたため息をついた。
相原くんが好きなことは、本人にはもちろん、誰にも知られていないと思う。
友達にも話していない。信用していないとか、そういうわけじゃないけれど、わざわざ自分から「ダレソレに恋をした!」なんて宣言するのはなんだか気恥ずかしい。
でも、そうやって胸の内に秘めたままにしておくのも限界だった。梢はすっと目を伏せる。
ただただ、苦しい。今みたいに遠くから姿を目にしただけで、あるいは彼のことを考えただけで、梢の心臓は悲鳴を上げそうになるのだ。
(今までは誰か好きになっても、こんなことなかったのに……)
グランドでは集合がかかったらしく、選手たちが一点に集まっていた。
梢の目は相変わらず、一瞬で相原くんの姿をとらえてしまう。
心臓は、速くはないけれど、服の上からでもわかるんじゃないかというくらいに大きく鼓動していた。
「きついなあ……」
思わず小声でつぶやく。
こんな風に誰かに恋をしたことなんてなかった。
こんな風に苦しい恋なんて知らなかった。
だけど、おかげで一つわかったことがある。「告白」──はこの苦しみからの解放なのだ、と。
今までなら、誰かを好きになっても告白なんて絶対にできない──しないと思っていた。
告白したって両想いになれるとも限らない。
それなら、遠くから眺めて幸せな気分に浸ったり、おしゃべりして心を浮き立たせたり、そんなことで十分だった。
梢にとって、恋というのはそういうものだった。
(でも今は──…)
相原くんへの恋が今までの恋とどう違うのかはわからない。でも、この恋はただ苦しかった。
この苦しみに終止符を打つための一番確実な方法──それが、「告白」なのだ。
そうすればきっと、苦しいだけの状況から脱することはできる──たとえそれが、「失恋」という終わりへの始まりだったとしても。
とはいうものの、自分が楽になるために告白するって、なんだか自分本位な気がする。恋愛に利己も利他もないのかもしれないけれど。
でも、告白はできるだけ相原くんに迷惑にならない形にしたい。
(ただ、迷惑にならない告白、って……?)
告白なんてしたこともされたこともない梢にとって、それはとてつもない難問なのだった。
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