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最後まで

第1話 執着

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「……」

 私は無言でスマホの画面をなぞる。
 届いた通知を消しているのだ──間違ってタップして開いてしまわないために。
 今はまだ、向こうに「既読」と表示させたくない。

 つまり、通知はすべて同じ一人の人物からのメッセージなのだった。
 中には着信もある。

 二度と会うつもりもなかったけれど、今のところ、そういうわけにもいかないらしい。
 私はため息をついた。

(さて、どうしようかなあ……)

 私はスマホをベッドに放り投げて床の上に転がった。
 これはいい加減にけりをつけなければならないと思う。

 もういろんなことに堪えられなくなって、放棄したも同然のある計画。
 そのツケを払うべき時が来てしまったのだ。
 私に残された時間は多くないけれど。

 私はぼんやりと天井を見つめた。

PPPPP PPPPP PPPPP...

「……!」

 油断しているところに突如鳴り響く電子音ほど心臓に悪いものもそうそうないと思う。

 私はビクッとしたその勢いで起き上がり、スマホの画面をのぞき込んだ。

(またか……)

 私はスマホには触らず、また元通り床に寝転ぶ。
 そう、暗色の画面に白く浮かび上がっていたのは、《平田悠一》の文字──俗に言う「元カレ」の名前だった。


 悠一とは三年半ほど付き合って、諸々のもめ事を経て別れた。

 細かく言えば、悠一が突きつけてきた「幼馴染に告白したいから別れてくれ。でもフラれたらよりを戻してくれ」という要求を私が呑んだ、という経緯がある。

 その時私の中に芽生えたのこそが、「ある計画」──端的に言うなら仕返しの計画だ。 とはいえ、その実行まで私の堪忍袋がもたなかったのだけれど。

 結局私はさっさと別れを宣言することになり、計画も頓挫した。
 私としてはもうそれでいいと思っていたし、過去のこととして忘れるつもりだったのだけれど。

「……はあ」

 私はあの日のことを思い出してげんなりする。

 突然私の目の前に現れ、「話がある」という悠一について入ったカフェで手を上げられそうになったのだ。
 そこを松本浩尚さんという別の男性──現在の恋人なのだけれど──に助けられた。

 話の流れ的に、悠一は私に復縁を迫るつもりだったようだ。
 まあ、おそらくプライドのせいで、直接そう口にすることはなかったけれど。

 それを却下された挙句私を別の男に連れ去られた、という一連の出来事のせいで、悠一の中で何かに火がついてしまったらしい。

 そのしばらく後から、こんな感じのメッセージ・着信攻撃が始まった。

 通知で表示される部分で確認しただけでも、その内容は、自分が手を上げたことへの謝罪から、私が連絡を返さないことへの糾弾、とにかく答えてくれという懇願までさまざまだった。

 悠一自身、どうするのが正解なのかわからないのだろう。
 まあ、正解なんてないのだけれど。
 あるとすれば、私との関係を過去のものとしてすっぱり切り捨てて次に向かうことだと思う。

 そんなわけで、私は何らかの対処を迫られているのだった。
 この連絡攻撃にもいつかは飽きるかもしれないけれど、頑固で一度言い出したらきかない悠一のことだ。
 いつになるかわかったもんじゃない。

 こちらから手を打つ方が賢明で、建設的だと思う。

 けれど、何をどうすればいいのかについては、まだ見当がつかない。

(……相談、してみる?)

 私は松本さんの顔を思い浮かべた。
 これ以上、悠一とのごたごたに巻き込みたくない気持ちは確かにある。
 けれど、他に頼れる人も思いつかない。

 彼なら事情もよく知っているし、男性の視点を取り入れたほうが効果的な策を練れるような気もする──というのは都合が良すぎるだろうか。

 ともあれ私は、彼に連絡すべくスマホを拾い上げた。
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