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まだ、今じゃない
第2話 選択と別れ
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この件に関する女友達の反応はわかりやすかった。
ほぼ全員が「ありえない!」と口──スマホに届いたメッセージである以上「指」と言うべきか──をそろえたのだ。
私が取るべき行動についても、別れるの自体を拒否するか、あるいは今別れてよりは戻さないか、そのどちらかだという。
もし第三者だったとしたら、私だってそう言うと思う。
けれど、当事者としてはそう簡単に片付かない。
だって、確かにこの扱いはどうかとも思うけれど、やっぱり悠一には幸せになってほしいと思う気持ちが、私の中にはあるのだ。
それが愛情なのか、それとも単なる情なのかは別として。
いつかに読んだ本いわく、人が幸せになるためには、男は自分が一番に愛する人と、女は自分を一番に愛してくれる人と、一緒にならないといけないんだそうだ。
裏を返せば、男の場合は相手が自分を一番に愛していなくても、女の場合は自分が相手を一番に愛していなくても、ということなのだけれど。
(だとしたら、今は最高で二番目だもんな……)
私はちらりとスマホに視線を向けた。
悠一からの連絡は、ない。
人間の頭の中とか、そこで渦巻く思考というのは、寝ている間に整理されたりするものなのだろうか。
というのも、一晩寝て起きてみたらある程度結論が出ていたからだ。
(ま、別れるしかないよね)
この結論は驚くほどすんなりと私の中に入ってきて、早くも不動の地位を確立したように思える。
それを裏付ける理屈だって、いくらでも浮かびそうなくらいに。
たとえば今、私が悠一と別れるのを拒否したとしたら、悠一は香織への告白を諦めるだろう──言ったことは守る、一応はそういうやつだから。
でも悠一は、今後も香織への想いをくすぶらせ続けることになる。
人間、手に入ったかもしれないものに対しては、いつまでも執着したりするから。
その結果、悠一は私を恨むとまではいかなくても、少なくとも私の「別れない」という返事を恨めしく思うはずだ。
そんな感情のひずみは今後ずっと、二人の関係に暗い影を落とし続けるに違いない。
私は「香織」のことを何も知らない。本当に、何も。
今まで悠一は私に、幼なじみの話なんて一度もしなかったのだ。
だから悠一の告白がどう転ぶかなんてわからない。
もし悠一がフラれて私のもとに戻ってくるとしたら?
私たちはそれまでと何も変わらず、また付き合い続けるのだろうか。
私も悠一も、そんなことができるほど器用だろうか。
あるいは、晴れて二人──悠一と香織──が付き合うことになったら?
私はまぎれもない「捨てられた身」になるわけで。
なんだか、どういう結末だとしても、ハッピーエンドとは程遠いものになりそうだと思う。
やっぱり、女友達の言うように「すっぱり別れてこれっきり」が一番なんだろうか。
「……って!」
ここまで考えたところで、私だけがひとりこんなふうに根を詰めているのがばかばかしくなってきた。
そう、思い悩むべきは突然こんな別れ話を切り出した悠一であって、私ではないと思う。
ふと窓の外へと目を向ける。いい天気だった。
(日も射してるし、ちょっと出かけてみようかな)
私は軽く化粧を施し、バッグに財布とスマホだけ入れて部屋を出る。
その間もスマホには無関係な通知が届くばかりで、依然として悠一からの言葉が届くことはなかった。
ほぼ全員が「ありえない!」と口──スマホに届いたメッセージである以上「指」と言うべきか──をそろえたのだ。
私が取るべき行動についても、別れるの自体を拒否するか、あるいは今別れてよりは戻さないか、そのどちらかだという。
もし第三者だったとしたら、私だってそう言うと思う。
けれど、当事者としてはそう簡単に片付かない。
だって、確かにこの扱いはどうかとも思うけれど、やっぱり悠一には幸せになってほしいと思う気持ちが、私の中にはあるのだ。
それが愛情なのか、それとも単なる情なのかは別として。
いつかに読んだ本いわく、人が幸せになるためには、男は自分が一番に愛する人と、女は自分を一番に愛してくれる人と、一緒にならないといけないんだそうだ。
裏を返せば、男の場合は相手が自分を一番に愛していなくても、女の場合は自分が相手を一番に愛していなくても、ということなのだけれど。
(だとしたら、今は最高で二番目だもんな……)
私はちらりとスマホに視線を向けた。
悠一からの連絡は、ない。
人間の頭の中とか、そこで渦巻く思考というのは、寝ている間に整理されたりするものなのだろうか。
というのも、一晩寝て起きてみたらある程度結論が出ていたからだ。
(ま、別れるしかないよね)
この結論は驚くほどすんなりと私の中に入ってきて、早くも不動の地位を確立したように思える。
それを裏付ける理屈だって、いくらでも浮かびそうなくらいに。
たとえば今、私が悠一と別れるのを拒否したとしたら、悠一は香織への告白を諦めるだろう──言ったことは守る、一応はそういうやつだから。
でも悠一は、今後も香織への想いをくすぶらせ続けることになる。
人間、手に入ったかもしれないものに対しては、いつまでも執着したりするから。
その結果、悠一は私を恨むとまではいかなくても、少なくとも私の「別れない」という返事を恨めしく思うはずだ。
そんな感情のひずみは今後ずっと、二人の関係に暗い影を落とし続けるに違いない。
私は「香織」のことを何も知らない。本当に、何も。
今まで悠一は私に、幼なじみの話なんて一度もしなかったのだ。
だから悠一の告白がどう転ぶかなんてわからない。
もし悠一がフラれて私のもとに戻ってくるとしたら?
私たちはそれまでと何も変わらず、また付き合い続けるのだろうか。
私も悠一も、そんなことができるほど器用だろうか。
あるいは、晴れて二人──悠一と香織──が付き合うことになったら?
私はまぎれもない「捨てられた身」になるわけで。
なんだか、どういう結末だとしても、ハッピーエンドとは程遠いものになりそうだと思う。
やっぱり、女友達の言うように「すっぱり別れてこれっきり」が一番なんだろうか。
「……って!」
ここまで考えたところで、私だけがひとりこんなふうに根を詰めているのがばかばかしくなってきた。
そう、思い悩むべきは突然こんな別れ話を切り出した悠一であって、私ではないと思う。
ふと窓の外へと目を向ける。いい天気だった。
(日も射してるし、ちょっと出かけてみようかな)
私は軽く化粧を施し、バッグに財布とスマホだけ入れて部屋を出る。
その間もスマホには無関係な通知が届くばかりで、依然として悠一からの言葉が届くことはなかった。
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