2 / 26
まだ、今じゃない
第2話 選択と別れ
しおりを挟む
この件に関する女友達の反応はわかりやすかった。
ほぼ全員が「ありえない!」と口──スマホに届いたメッセージである以上「指」と言うべきか──をそろえたのだ。
私が取るべき行動についても、別れるの自体を拒否するか、あるいは今別れてよりは戻さないか、そのどちらかだという。
もし第三者だったとしたら、私だってそう言うと思う。
けれど、当事者としてはそう簡単に片付かない。
だって、確かにこの扱いはどうかとも思うけれど、やっぱり悠一には幸せになってほしいと思う気持ちが、私の中にはあるのだ。
それが愛情なのか、それとも単なる情なのかは別として。
いつかに読んだ本いわく、人が幸せになるためには、男は自分が一番に愛する人と、女は自分を一番に愛してくれる人と、一緒にならないといけないんだそうだ。
裏を返せば、男の場合は相手が自分を一番に愛していなくても、女の場合は自分が相手を一番に愛していなくても、ということなのだけれど。
(だとしたら、今は最高で二番目だもんな……)
私はちらりとスマホに視線を向けた。
悠一からの連絡は、ない。
人間の頭の中とか、そこで渦巻く思考というのは、寝ている間に整理されたりするものなのだろうか。
というのも、一晩寝て起きてみたらある程度結論が出ていたからだ。
(ま、別れるしかないよね)
この結論は驚くほどすんなりと私の中に入ってきて、早くも不動の地位を確立したように思える。
それを裏付ける理屈だって、いくらでも浮かびそうなくらいに。
たとえば今、私が悠一と別れるのを拒否したとしたら、悠一は香織への告白を諦めるだろう──言ったことは守る、一応はそういうやつだから。
でも悠一は、今後も香織への想いをくすぶらせ続けることになる。
人間、手に入ったかもしれないものに対しては、いつまでも執着したりするから。
その結果、悠一は私を恨むとまではいかなくても、少なくとも私の「別れない」という返事を恨めしく思うはずだ。
そんな感情のひずみは今後ずっと、二人の関係に暗い影を落とし続けるに違いない。
私は「香織」のことを何も知らない。本当に、何も。
今まで悠一は私に、幼なじみの話なんて一度もしなかったのだ。
だから悠一の告白がどう転ぶかなんてわからない。
もし悠一がフラれて私のもとに戻ってくるとしたら?
私たちはそれまでと何も変わらず、また付き合い続けるのだろうか。
私も悠一も、そんなことができるほど器用だろうか。
あるいは、晴れて二人──悠一と香織──が付き合うことになったら?
私はまぎれもない「捨てられた身」になるわけで。
なんだか、どういう結末だとしても、ハッピーエンドとは程遠いものになりそうだと思う。
やっぱり、女友達の言うように「すっぱり別れてこれっきり」が一番なんだろうか。
「……って!」
ここまで考えたところで、私だけがひとりこんなふうに根を詰めているのがばかばかしくなってきた。
そう、思い悩むべきは突然こんな別れ話を切り出した悠一であって、私ではないと思う。
ふと窓の外へと目を向ける。いい天気だった。
(日も射してるし、ちょっと出かけてみようかな)
私は軽く化粧を施し、バッグに財布とスマホだけ入れて部屋を出る。
その間もスマホには無関係な通知が届くばかりで、依然として悠一からの言葉が届くことはなかった。
ほぼ全員が「ありえない!」と口──スマホに届いたメッセージである以上「指」と言うべきか──をそろえたのだ。
私が取るべき行動についても、別れるの自体を拒否するか、あるいは今別れてよりは戻さないか、そのどちらかだという。
もし第三者だったとしたら、私だってそう言うと思う。
けれど、当事者としてはそう簡単に片付かない。
だって、確かにこの扱いはどうかとも思うけれど、やっぱり悠一には幸せになってほしいと思う気持ちが、私の中にはあるのだ。
それが愛情なのか、それとも単なる情なのかは別として。
いつかに読んだ本いわく、人が幸せになるためには、男は自分が一番に愛する人と、女は自分を一番に愛してくれる人と、一緒にならないといけないんだそうだ。
裏を返せば、男の場合は相手が自分を一番に愛していなくても、女の場合は自分が相手を一番に愛していなくても、ということなのだけれど。
(だとしたら、今は最高で二番目だもんな……)
私はちらりとスマホに視線を向けた。
悠一からの連絡は、ない。
人間の頭の中とか、そこで渦巻く思考というのは、寝ている間に整理されたりするものなのだろうか。
というのも、一晩寝て起きてみたらある程度結論が出ていたからだ。
(ま、別れるしかないよね)
この結論は驚くほどすんなりと私の中に入ってきて、早くも不動の地位を確立したように思える。
それを裏付ける理屈だって、いくらでも浮かびそうなくらいに。
たとえば今、私が悠一と別れるのを拒否したとしたら、悠一は香織への告白を諦めるだろう──言ったことは守る、一応はそういうやつだから。
でも悠一は、今後も香織への想いをくすぶらせ続けることになる。
人間、手に入ったかもしれないものに対しては、いつまでも執着したりするから。
その結果、悠一は私を恨むとまではいかなくても、少なくとも私の「別れない」という返事を恨めしく思うはずだ。
そんな感情のひずみは今後ずっと、二人の関係に暗い影を落とし続けるに違いない。
私は「香織」のことを何も知らない。本当に、何も。
今まで悠一は私に、幼なじみの話なんて一度もしなかったのだ。
だから悠一の告白がどう転ぶかなんてわからない。
もし悠一がフラれて私のもとに戻ってくるとしたら?
私たちはそれまでと何も変わらず、また付き合い続けるのだろうか。
私も悠一も、そんなことができるほど器用だろうか。
あるいは、晴れて二人──悠一と香織──が付き合うことになったら?
私はまぎれもない「捨てられた身」になるわけで。
なんだか、どういう結末だとしても、ハッピーエンドとは程遠いものになりそうだと思う。
やっぱり、女友達の言うように「すっぱり別れてこれっきり」が一番なんだろうか。
「……って!」
ここまで考えたところで、私だけがひとりこんなふうに根を詰めているのがばかばかしくなってきた。
そう、思い悩むべきは突然こんな別れ話を切り出した悠一であって、私ではないと思う。
ふと窓の外へと目を向ける。いい天気だった。
(日も射してるし、ちょっと出かけてみようかな)
私は軽く化粧を施し、バッグに財布とスマホだけ入れて部屋を出る。
その間もスマホには無関係な通知が届くばかりで、依然として悠一からの言葉が届くことはなかった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
風来坊エルフの旅路~あの約束を果たす為に~
さいとう みさき
ファンタジー
ある時彼女はタンポポの綿毛が飛んでいるのを見て、その昔の約束を思い出す。
時間には余裕のあるエルフの彼女はサーナ。
およそ四百歳になるエルフだ。
二百年ぶりに外の世界に旅立つ彼女を待ち受けるのは、時の流れに変わった世界だった。
彼女は寄り道をしながら、当時との違いを感じながら道行く風来坊。
そして彼女はその昔の記憶を頼りに目的の地へと旅するのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる