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第11話 できること

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 まずは前回のミーティングの内容の復習から始める。といっても、復習が必要なほどの収穫はなかったのだけれど。

「……とりあえず、合唱祭中止の理由というか原因がわからないことには、こっちとしても動きようがない」

 乾の言葉に、私は無言でうなずく。
 彼の言う通り、中止の理由がわかって初めてスタートラインなのだ。

 まずその理由は、合唱祭という行事を中止するに値するものなのか。
 もしそうなら、中止の決定を覆すために何が必要なのか。

 そしてもしその理由が中止には値しない程度のものだったとしたら、にもかかわらず中止の決定が下された理由は何か。

(ああ、もうっ……)

 考えていると頭がこんがらがりそうになる。
 それでも、今は考えるしか、知恵を絞り意見を出し合うしか、できることがないのだった。
 気が急いているのは自分でもわかっていたけれど。

「……音楽の教員が減ったとか、近所からの苦情とか、生徒審査をめぐる喧嘩とか、いろいろ可能性は考えてみましたよね」

 塚本くんが、いつになく静かな声で言った。
 私がうなずくより先に、「うん」と声がする──中村くんだ。

「で、どれも今ひとつ、合唱祭を中止にするほどの理由だとは思えないって話だった」

 中村くんの声は相変わらず淡々としている。
 でも私は、その言葉で塚本くんの瞳が揺れたのを見てしまった。

「……僕たちにはどうしようもないってことなのかもしれません。理由がわからないっていうのは、そういうことなんじゃないですか?」

 その言葉は、私たち全員に向けられたものだった。

 合唱祭実行委員という、全校生徒の中で最も合唱祭に近いところにいるはずの私たちが、中止の原因に一向にたどり着かないのだ。
 それはつまり、私たち生徒のあずかり知らぬところの、あずかり知らぬ理由なのではないかと。あるいは、最初から「理由」なんてないのではないかと。

 塚本くんがそう言おうとしていることはよくわかった。
 だからこそ、私は伝えなければいけないと思う。

「……中村くん」

 小声で呼ぶと、彼はわざわざ隣まで移動してきてくれた。

「昼休みのあの件、話そうと思うんだけど」

 私の言葉に、中村くんはうなずく。

「まあ、その方がいいでしょうね」

 突然こそこそとやり取りを始めた私たちに、あとの三人は何か言いたげな視線を向けた。
 それを感じた私は、改めて三人の方に向き直る。

「あの……これから言うことはオフレコでお願いしたいんだけど」

 三人がうなずいたので、私は隣の中村くんを見た。
 それを「お前が言え」という合図だと思ったのだろうか。中村くんが口を開く。

「合唱祭の中止は、校長か理事会の判断だと思います」

 これには私も思わずぽかんとしてしまった。

「ちょっと待てよ、いったいどこでそんな──」

「ごめん、順を追って説明する!」

 乾の疑問はもっともだったのだが、長くなりそうなので遮らせてもらう。

「実は、合唱祭中止を嘆いてたら……誰かは伏せるけどとある先生に『トップダウンとはそういうものだから仕方ない』って慰められたの」

「『トップダウン』?」

 つぶやくようなその声の主は新垣くんだった。私は軽くうなずいて続ける。

「そう。その場に偶然中村くんもいて、たぶんその発言は、合唱祭の中止がトップ──つまり「上」の指示だっていう結論に至ったの」

「現場の人間──つまり教師に上から指示を出せる人間ってなると、校長とか理事長とかかなって思ったので」

 中村くんがそう言って締めくくる。

「つまり……上からの指示には逆らえない、ってことか?」

 乾の確認に、私は「たぶん」とうなずく。

「わざわざそれを木崎さんに伝えたっていうのが気になるね」

 新垣くんがそう言って、こちらを見た。
 意味がよくわからなくて、私は「どういうこと?」と尋ねる。

「今回、先生たちは一様に──言い換えればまるで示し合わせたように、この件については口をつぐんでいる気がしない?」

 改めて言葉にされると、確かにそうだと思う。
 私自身が感じていたのはもちろん、幸穂ですら「なんとなく訊けなかった」と言っていた。

「確かに、『何も答えません』みたいな雰囲気は出てる気がしますね」

 塚本くんまでもがそう言っている。

「それってもしかしたら、『我々はこの決定には関与していない』っていう表明なんじゃないかな?」

 新垣くんの言葉にはっとする。

「じゃあ私にそれとなく教えてくれたのは……それに不満を持っていたから?」

 相変わらず、合唱祭中止の直接的な理由はわからないままだ。
 でもなんとなく、たとえほんの少しだとしても、何か真相に近づけたような気がしてならない。

 山本先生の発言──「メッセージ」を受け取ったあの時、中村くんがその意味を教えてくれた。
 そして今、新垣くんたちの力を借りて、さらに彼女の発言そのものに意味を見出した。もちろん、それはあくまで想像とか仮説の域を出ないものだけれど。

 今改めて、私たちは「チーム」なのだと実感する。「三人寄れば文殊の知恵」は伊達じゃない。

「この問題、思いのほか根が深いかもな」

 乾がぽつりとつぶやく。
 同感だった。塚本くんが言ったように、所詮生徒の集まりに過ぎない私たちには手の届かない問題なのかもしれない。
 それでもこうして集まって、あれやこれやと話し合うのは、やっぱり本当のことを知りたいからだった。そして何より、合唱祭への希望を捨てきれないから──…。

「……各自、できることをやるしかないね」

 新垣くんが静かに言った。

(……?)

 どういう意味だろう。それに、私にできることって何だろう。
 委員長である新垣くんは、自分にできることをもうわかっているのだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えながら、私は彼の端正な顔を見つめた。

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