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第5話 回想

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「──塚本くんって、なんで実行委員になったの?」

 年度が新しくなって間もない頃の、合唱祭実行委員顔合わせの日。
 話が一段落したところで、私は偶然近くに座っていた塚本くんに、何の気なしにそう訊いたのだ。

 すると塚本くんはなぜか少し照れたように首をかしげた。

「えっと、去年の合唱祭が楽しかったから、ですかね……」
「えっ純粋すぎてまぶしい……」

 やや大げさだったことは認めるけれど、それは紛れもない本心だった。
 が、私の心には一つ心配が浮かぶ。

「でも、二年生は基本裏方になるから、一般生徒みたいには合唱祭を満喫できないかもしれないよ?」

 実行委員として立ち働くということは、合唱そのものに向けておける集中や労力が単純に目減りするということなのだ。

「? どういうことですか?」

 不思議そうに目を瞬く塚本くんに、私は「たとえば」と説明を始めた。

「私の例で言えば、去年は舞台裏のタイムキーパーだったんだけど、肝心のステージはほとんど聴けずじまいだったのよ」

 舞台の進行具合を確認しながら、舞台袖とリハーサル室の間を文字通り駆けずり回っていたのだ。
 なんとも残念なことに、三年生のハイレベルな合唱に聴き惚れる余裕なんて微塵もなかった。

 そう言うと、塚本くんはなぜかおかしそうに笑った。

「じゃあなんで木崎先輩は……今年も実行委員になったんですか?」
「え」

 そんなこと、今まで考えたこともなかった。改めて振り返ってみる。

「私はね……そう、あそこにいる牧野輝って子に去年無理矢理引っ張り込まれて、今年も半ば惰性で来ちゃったっていうのが一番近い気がする」

 合唱祭に夢を持っている若者──って言っても一歳しか違わないけど──に返す言葉としてはあまりにお粗末だけれど、事実なのだからしょうがない。
 件の輝は、窓際で別の後輩を相手に先輩風を吹かせていた。

(……って!)

 今更ながら、やる気不十分な先輩として実行委員のマイナス面を力説してしまったことに気づく。
 どうしよう、これで塚本くんが「じゃあやっぱり一般生徒として参加することにします」なんて委員を辞めてしまったら──…。
 慌ててフォローの言葉を探し始める私の焦りを知ってか知らずか、塚本くんはクスリと笑った。

「うちの生徒なら誰もが見られる景色は去年見ましたし。今年は委員じゃないと見られない景色を見てみたいって思って」

(お、大人だ……)

 塚本くんは実行委員になるのが初めての二年生で、一方私は実行委員も二度目になる先輩だというのに、まったくこの差は何なのだろうと悲しくなってくる。
 でもそれは見方を変えれば、頼りがいのある優秀な後輩が入ってくれたということなのだった──のだけれど。

 塚本くんが「委員じゃないと見られない景色」を目にできるはずだった今年の合唱祭こそが、中止を言い渡されてしまったのだ。
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