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第1章
32-R トラウマ
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結局、今日は祐輝が家まで送ってくれることになった。なんだか世話になりっぱなしだ。
「園田くん……ごめんね。いろいろと」
そんな風に声をかけると、祐輝は何も言わずに玲奈をじっと見た。
それからゆっくりと口を開く。
「俺のことは全然いいんだけどさ……大丈夫なの? 生徒会長は」
一瞬言葉に詰まってしまった。
何をもって「大丈夫」と言えるのだろう。曖昧にうなずきながら玲奈は思う。
「なんか、あんまり実感ないっていうか……」
たぶん、それが一番正直なところなのだ。
自分で覚えているのは気絶するまでの出来事だけだし、首を絞められた時も、怖いという感じはしなかった。むしろ「あ、やばい」と思ったのだ。
しいて言うなら「これはまずいことになった」という焦りに近い感覚だったと思う。
と、その時だった。
「……っ!?」
自分でも一瞬、何が起きたのかわからなかった。突然、体がいうことを聞かなかくなったのだ。
「生徒会長?」
祐輝がすぐ異変に気づきこちらを振り返る。
「ごめん、なんか……」
上手く説明できない。けれど急に足が止まってしまったのだ。頭では歩き出そうとしているのに、足がついてこない。
「これは……思ったより重症なんじゃない?」
二人を追い越していく人影をちらりと見て、祐輝がつぶやく。そして玲奈の腕をつかみ、軽く引っ張った。
と、まるで金縛りが解けたかのように体が自由になる。
「私……っ」
怖くなかったなんて嘘だった。今になって体が小さく震えだす。じんわりと涙までにじんできた。
「……大丈夫。俺がいるから」
そう言って祐輝はそっと玲奈の肩を抱いた。その瞬間、とはいかないものの、だんだんと震えが治まってくる。
玲奈はきっと唇を引き結んだ。そうしていないと、今にも泣き出してしまいそうだった。
「学校、やっぱりしばらく休んだら?」
祐輝の気遣うような声が聞こえる。けれど玲奈は首を振った。
「休まない……」
誰が、いったい何の目的であんなことをしたのかはわからない。けれど状況から見て、玲奈「が」狙われたことは間違いないのだ。だからここで負けてしまっては、相手の思うつぼだと思う。
「けど……」
祐輝が何か言いかける。確かに、背後に人の気配を感じただけで足がすくんでしまうなんて異常かもしれない。家から一歩でも出てしまえば、そんな状況にはいくらでも出会いうるだろう。学校に行くとなればなおさらだ。それでも。
玲奈がそんな決意を固めたのを知ってか知らずか、祐輝は努めてさりげない声を出す。
「生徒会長はさ、もしかして」
言いながら祐輝がそっとこちらをのぞき込んできた。今はもう、少しのドキドキも感じない。おそらく玲奈の心理状態がそれどころではないのだ。
「……実は犯人に心当たりでもあったりするんじゃないの?」
どことなく水を向けるような言い方だった。なんだろう、何かが引っかかっている気がする。
(……あ、そういえば)
気を失う直前、確かに声を聞いたのだった。距離感からして、玲奈の首を絞めた張本人の声を。
そう、「だから忠告したのに」と言っていた。ということは、少なくとも面識がある人間ということになるのではないだろうか。
けれど、それだけで絞り込むのはさすがに無理だ。
「いや……ないと思う」
無意識に断言を避けてしまった。祐輝は何かを感じただろうか。けれど祐輝はちらりとこちらを見たものの、何も追及してはこなかった。
「それじゃ、無理しないように」
祐輝がそう言って足を止める。いつのまにか、玲奈の家のすぐそばにたどり着いていたのだった。
「あ、うん。……ほんといろいろありがとう」
玲奈が言うと、祐輝は片手を上げて、来た道を引き返していった。
(……?)
なんとなくその後ろ姿に、玲奈は違和感を覚える。けれどそれが何なのかはわからない。
祐輝が角を回り、完全に視界から消えたのを確認して、玲奈は玄関のドアを閉める。
「──あ」
その瞬間に思い出した。
(自転車……!)
祐輝は自転車通学だった。今朝だって、雨も降っていなかったしきっと自転車で登校したはずだ。ということは──。
(私のために……?)
万が一下校中に何かあったとき、隣にいても自転車を引いていたらどうしても反応が遅れてしまう。祐輝はそこまで考えて、学校の駐輪場に置いてきたのだろう。
(どこまで優秀なのあの子は)
感心を通り越して尊敬の域だと思う。
とはいえそれはそのまま、先輩としての自分のふがいなさにつながってしまうのだけれど。玲奈は小さくため息をついた。
「園田くん……ごめんね。いろいろと」
そんな風に声をかけると、祐輝は何も言わずに玲奈をじっと見た。
それからゆっくりと口を開く。
「俺のことは全然いいんだけどさ……大丈夫なの? 生徒会長は」
一瞬言葉に詰まってしまった。
何をもって「大丈夫」と言えるのだろう。曖昧にうなずきながら玲奈は思う。
「なんか、あんまり実感ないっていうか……」
たぶん、それが一番正直なところなのだ。
自分で覚えているのは気絶するまでの出来事だけだし、首を絞められた時も、怖いという感じはしなかった。むしろ「あ、やばい」と思ったのだ。
しいて言うなら「これはまずいことになった」という焦りに近い感覚だったと思う。
と、その時だった。
「……っ!?」
自分でも一瞬、何が起きたのかわからなかった。突然、体がいうことを聞かなかくなったのだ。
「生徒会長?」
祐輝がすぐ異変に気づきこちらを振り返る。
「ごめん、なんか……」
上手く説明できない。けれど急に足が止まってしまったのだ。頭では歩き出そうとしているのに、足がついてこない。
「これは……思ったより重症なんじゃない?」
二人を追い越していく人影をちらりと見て、祐輝がつぶやく。そして玲奈の腕をつかみ、軽く引っ張った。
と、まるで金縛りが解けたかのように体が自由になる。
「私……っ」
怖くなかったなんて嘘だった。今になって体が小さく震えだす。じんわりと涙までにじんできた。
「……大丈夫。俺がいるから」
そう言って祐輝はそっと玲奈の肩を抱いた。その瞬間、とはいかないものの、だんだんと震えが治まってくる。
玲奈はきっと唇を引き結んだ。そうしていないと、今にも泣き出してしまいそうだった。
「学校、やっぱりしばらく休んだら?」
祐輝の気遣うような声が聞こえる。けれど玲奈は首を振った。
「休まない……」
誰が、いったい何の目的であんなことをしたのかはわからない。けれど状況から見て、玲奈「が」狙われたことは間違いないのだ。だからここで負けてしまっては、相手の思うつぼだと思う。
「けど……」
祐輝が何か言いかける。確かに、背後に人の気配を感じただけで足がすくんでしまうなんて異常かもしれない。家から一歩でも出てしまえば、そんな状況にはいくらでも出会いうるだろう。学校に行くとなればなおさらだ。それでも。
玲奈がそんな決意を固めたのを知ってか知らずか、祐輝は努めてさりげない声を出す。
「生徒会長はさ、もしかして」
言いながら祐輝がそっとこちらをのぞき込んできた。今はもう、少しのドキドキも感じない。おそらく玲奈の心理状態がそれどころではないのだ。
「……実は犯人に心当たりでもあったりするんじゃないの?」
どことなく水を向けるような言い方だった。なんだろう、何かが引っかかっている気がする。
(……あ、そういえば)
気を失う直前、確かに声を聞いたのだった。距離感からして、玲奈の首を絞めた張本人の声を。
そう、「だから忠告したのに」と言っていた。ということは、少なくとも面識がある人間ということになるのではないだろうか。
けれど、それだけで絞り込むのはさすがに無理だ。
「いや……ないと思う」
無意識に断言を避けてしまった。祐輝は何かを感じただろうか。けれど祐輝はちらりとこちらを見たものの、何も追及してはこなかった。
「それじゃ、無理しないように」
祐輝がそう言って足を止める。いつのまにか、玲奈の家のすぐそばにたどり着いていたのだった。
「あ、うん。……ほんといろいろありがとう」
玲奈が言うと、祐輝は片手を上げて、来た道を引き返していった。
(……?)
なんとなくその後ろ姿に、玲奈は違和感を覚える。けれどそれが何なのかはわからない。
祐輝が角を回り、完全に視界から消えたのを確認して、玲奈は玄関のドアを閉める。
「──あ」
その瞬間に思い出した。
(自転車……!)
祐輝は自転車通学だった。今朝だって、雨も降っていなかったしきっと自転車で登校したはずだ。ということは──。
(私のために……?)
万が一下校中に何かあったとき、隣にいても自転車を引いていたらどうしても反応が遅れてしまう。祐輝はそこまで考えて、学校の駐輪場に置いてきたのだろう。
(どこまで優秀なのあの子は)
感心を通り越して尊敬の域だと思う。
とはいえそれはそのまま、先輩としての自分のふがいなさにつながってしまうのだけれど。玲奈は小さくため息をついた。
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