手のひらのひだまり

蒼村 咲

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第1章

30-Y 懺悔

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養護教諭の坂出先生に玲奈を任せ、祐輝は田代と一緒に廊下に出た。
医務室の中では、まだ三浦先生と坂出先生、それに玲奈の担任だという清水先生が話し合いをしている。

隣のカウンセリング室で待っているようにと言われたので、祐輝はそのままカウンセリング室の扉を開けた。
と、中にいた三人の男子生徒が一斉に振り向く。洋介、岸、山岡だ。その表情は一様に青ざめている。
祐輝と田代が部屋の中央へと進むと、みんな自然と近くに集まってきた。

「三人とも、巻き込んで悪かった。ごめん」

田代にしても岸にしても山岡にしても、偶然教室に残っていただけだ。
他愛なくトランプで遊んでいたところをこんな事件に巻き込まれ、きっと参っているに違いない。
けれど三人に祐輝を責める気持ちはないようだった。は「いや……」、「しょうがないし……」、「びっくりはしたけど……」などと口々に呟いている。

「……園田くんじゃない。僕のせいだ……」

洋介が弱々しい声を上げた。うつむく洋介に、四人は顔を見合わせる。

「そういえば奥野、なんで生徒会長が危ないってわかった?」

祐輝は洋介の顔をのぞき込んで尋ねた。洋介に顔を上げる様子はない。

「わかったんじゃない……僕があの人を売ったんだ」

思わず耳を疑う──「売った」?

四人が見守る中、洋介は制服のポケットを探った。
出てきたのはくしゃっと畳まれた一枚の紙だ。みんなに見えるよう、無言で広げていく。

《生徒会長の佐々木玲奈をボックス街に連れてくることができれば靴は返してやる》

「おい、これって……」

岸の声に洋介はうなずいた。

「自分の靴箱開けたら、靴がなくてこれが置いてあった」

なるほど、だからあの時洋介は両手に外靴なんか持っていたのか、と祐輝は人知れず納得する。
しかしこれは厄介だ──周到に準備された襲撃の可能性が高い。

「それで、生徒会長を連れて行ったから靴は取り戻せたんだな。その時相手の顔とか見たか?」

祐輝の問いに、洋介は表情に絶望をにじませながら首を振る。

「あそこには誰もいなくて。物音がして振り向いたら僕の靴が落ちてたんだ。僕はそれを拾って逃げ出したんだよ。あの人を見捨てて」

見れば洋介の顔は後悔に歪んでいた。
確かに男としては褒められた行動ではないかもしれないが、洋介一人ではどうすることもできなかっただろう。
ましてや、相手がどんな奴かも、何人いるかもわからない状況だったのだ。洋介を責めることはできない。

「……それじゃ、靴盗られた以外お前は何もされてないんだな?」

何か考え込みながらそう尋ねたのは山岡だった。洋介はコクリとうなずく。
と、祐輝の頭にもひらめくものがあった。たぶん、山岡が確認しようとしているのはあのことだ。

「逃げた後、追いかけられたりもか? 待ち伏せされたりとか」

祐輝の言葉に山岡がぱっと顔を上げる。やっぱり、同じことを考えているらしい。洋介は首を振った。

「とにかく誰か呼ばなきゃと思って、直接教室に。最初に浮かんだのが園田くん──たちだったから。今日もトランプしてたの見てたし」

ボックス街からだと、職員室より一年の教室の方が近い。
誰にも会わずに、足止めも食らわずに走ってきたのだとしたら、その移動にはせいぜい数分しかかかっていないだろう。

「それで、今度は俺たちが走って向かった──ってことは」

祐輝の言葉に山岡もうなずく。

「なんなんだよ。何かわかってるならはっきり……」

田代がじれったそうに声を上げた。それを山岡が手で制する。

「時間だよ時間。奥野がボックス街から教室に来て、その後俺らがボックス街まで走っただろ。多めに見積もったって十分もかからない。つまり……」

山岡はそこでいったん口をつぐんだ。一番直接的な部分を言うか迷っているのだ。
ここまで言ったのだから、もう伝わっているかもしれないが。

「……どう考えても、強姦するには時間が足りない」

何人かがたじろぐ気配があった。少し生々しすぎる語を使ってしまったかもしれないと祐輝は反省する。

「襲われたわけじゃないってこと? 何があったんだ? 目的は?」

岸の言葉に祐輝は首を振る。
誰がやったのかがわかっていない以上、ここでいくら考えていても答えは出ない。

「現時点ではなんとも。ただ確かなのは、無差別に女子生徒が狙われたわけじゃなく、最初から生徒会長だけがターゲットだったってことだ」

祐輝が言うと、洋介がうなずいた。そういえば、と田代が思いついたように口を開く。

「あれって園田のブレザーだったよな? なんか意味あってかけてた?」

田代は祐輝のブレザーをかぶせたままの状態で、玲奈をここまで運んでくれた。
意味もわからないままにそうしていたらしい。
祐輝はちらりと全員の顔を見渡した。

「……脱がされかけてた、みたいな感じ」

祐輝の言葉にまた彼らが息をのんだところで、カウンセリング室に三浦先生が入ってきた。

「先生、生徒会長は?」

はじかれたように尋ねる祐輝を、三浦先生がなだめる。

「けがはないし、意識もそのうち戻るだろうって話だ」

外傷はないということでひとまず安心する。
もちろんそれで何かが解決するわけではないが、けがを負わされているよりはずっとましだ。

「それじゃ、状況を説明してくれるか」

三浦先生の言葉に、五人は顔を見合わせうなずきあう。隠したところで事態が好転するとは思えない。
祐輝と洋介が中心になって説明することにした。
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