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第1章
24-R リアル・着せ替え人形
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着いたのは茜の家だった。曰く、単身者向けの小ぶりなマンションの一室らしい。ワンルームなのだろう、壁側にキッチンがあり、反対側の壁に沿ってベッドが置かれていた。
茜はベッドのそばのラグの上に荷物を投げ出すと、そのすぐ横のドアを開け中へと入っていった。どうやら、ウォークインクローゼットになっているらしい。
なんとなく所在なくて、玲奈は祐輝に話しかける。
「買い物に行くんじゃなかったの?」
祐輝は一瞬きょとんとした顔をしたものの、すぐに「ああ」と納得した。
「あか姉のクローゼットはほぼ店だから大丈夫」
きっと今、玲奈の目は点になっていると思う。意味が分からない。
「え、それってどういう」
玲奈がうろたえていると茜が戻ってきた。
「準備できたわ! えーと、何ちゃんだっけ。ごめん名前聞くの忘れてた」
茜が首を傾げたので、玲奈は慌てて頭を下げる。
「佐々木玲奈です! すみません、名乗りもせずに……」
恐縮する玲奈とは対照的に、茜は笑って手を振った。
「いいのいいの! それよりこっち来て!」
手招きされ、玲奈は茜のいるウォークインクローゼットへ向かう。
「あ、女子のお着替えあるから祐輝は立ち入り禁止ね」
半ば強制的に連行しておいて「立ち入り禁止」というのはさすがに……と思うものの、口を挟める立場ではないので黙っておく。
が、次の瞬間そんな些細なあれこれは玲奈の頭から吹っ飛んでしまった。
「う、わあ……!」
茜が玲奈を呼んだ先は、決してウォークインクローゼットなどではなかった。
いや、見渡す限り服なのでクローゼットであることは間違いないのだけれど、広さが違う。ここは本来「部屋」であるに違いない。つまり、この家はワンルームではなく1LDKなのだ。
「どう? すごい量でしょ」
いつの間にか祐輝との会話を終えたらしい茜が戻ってきた。
「これ、全部茜さんの服なんですか?」
玲奈の言葉に茜はうなずく。
「私、もともとファッションが大好きでね。それでアパレルなんかに就職しちゃったんだけど」
そう言って部屋の中を移動し、何着か手にとっては、手前の唯一空っぽのラックにかけていく。
「ほら、アパレル店員って動くマネキンみたいなとこあるじゃない? だからお店の商品買って着て宣伝しながら仕事しなきゃいけなくて」
なるほど。言われてみれば確かに、「スタッフ着用中」という札がついている商品を見たことがある気がする。
「それで売り切れたらもうその場で違う服買って着ないといけないのよ。人気商品だったらすぐなくなっちゃうし、中にはほんと数回しか着てない服もあって」
聞きながら、恐ろしい話だなと玲奈は思う。
年単位で続けたらとんでもない数になりそうだ。というか、十分とんでもない数になっている気がする。一部屋をまるまるクローゼットにしてしまうくらいなのだから。
「一応社割で買ってるからフリマとかリサイクルショップにも出せないし。かといって状態もいいのに捨てるなんて忍びないし。友達にあげるにしても、みんな好みってもんがあるじゃない?」
結果、こうなってしまったということらしい。なんだか大変な世界だ。
「玲奈ちゃんMサイズで大丈夫よね?」
茜が振り返りながら言う。玲奈が「はい」とうなずくと、茜は何着か手渡してきた。
「まずはこれ着てみて。あっ、制服かけるのはそこのハンガー使ってくれていいから」
渡されたのは、シンプルな淡いベージュのシフォンブラウスと、裾に控えめな装飾が入ったコーラルピンクのフレアスカートだった。
こうして、茜と玲奈の「リアル・着せ替え人形」タイムが始まったのだ。
茜はベッドのそばのラグの上に荷物を投げ出すと、そのすぐ横のドアを開け中へと入っていった。どうやら、ウォークインクローゼットになっているらしい。
なんとなく所在なくて、玲奈は祐輝に話しかける。
「買い物に行くんじゃなかったの?」
祐輝は一瞬きょとんとした顔をしたものの、すぐに「ああ」と納得した。
「あか姉のクローゼットはほぼ店だから大丈夫」
きっと今、玲奈の目は点になっていると思う。意味が分からない。
「え、それってどういう」
玲奈がうろたえていると茜が戻ってきた。
「準備できたわ! えーと、何ちゃんだっけ。ごめん名前聞くの忘れてた」
茜が首を傾げたので、玲奈は慌てて頭を下げる。
「佐々木玲奈です! すみません、名乗りもせずに……」
恐縮する玲奈とは対照的に、茜は笑って手を振った。
「いいのいいの! それよりこっち来て!」
手招きされ、玲奈は茜のいるウォークインクローゼットへ向かう。
「あ、女子のお着替えあるから祐輝は立ち入り禁止ね」
半ば強制的に連行しておいて「立ち入り禁止」というのはさすがに……と思うものの、口を挟める立場ではないので黙っておく。
が、次の瞬間そんな些細なあれこれは玲奈の頭から吹っ飛んでしまった。
「う、わあ……!」
茜が玲奈を呼んだ先は、決してウォークインクローゼットなどではなかった。
いや、見渡す限り服なのでクローゼットであることは間違いないのだけれど、広さが違う。ここは本来「部屋」であるに違いない。つまり、この家はワンルームではなく1LDKなのだ。
「どう? すごい量でしょ」
いつの間にか祐輝との会話を終えたらしい茜が戻ってきた。
「これ、全部茜さんの服なんですか?」
玲奈の言葉に茜はうなずく。
「私、もともとファッションが大好きでね。それでアパレルなんかに就職しちゃったんだけど」
そう言って部屋の中を移動し、何着か手にとっては、手前の唯一空っぽのラックにかけていく。
「ほら、アパレル店員って動くマネキンみたいなとこあるじゃない? だからお店の商品買って着て宣伝しながら仕事しなきゃいけなくて」
なるほど。言われてみれば確かに、「スタッフ着用中」という札がついている商品を見たことがある気がする。
「それで売り切れたらもうその場で違う服買って着ないといけないのよ。人気商品だったらすぐなくなっちゃうし、中にはほんと数回しか着てない服もあって」
聞きながら、恐ろしい話だなと玲奈は思う。
年単位で続けたらとんでもない数になりそうだ。というか、十分とんでもない数になっている気がする。一部屋をまるまるクローゼットにしてしまうくらいなのだから。
「一応社割で買ってるからフリマとかリサイクルショップにも出せないし。かといって状態もいいのに捨てるなんて忍びないし。友達にあげるにしても、みんな好みってもんがあるじゃない?」
結果、こうなってしまったということらしい。なんだか大変な世界だ。
「玲奈ちゃんMサイズで大丈夫よね?」
茜が振り返りながら言う。玲奈が「はい」とうなずくと、茜は何着か手渡してきた。
「まずはこれ着てみて。あっ、制服かけるのはそこのハンガー使ってくれていいから」
渡されたのは、シンプルな淡いベージュのシフォンブラウスと、裾に控えめな装飾が入ったコーラルピンクのフレアスカートだった。
こうして、茜と玲奈の「リアル・着せ替え人形」タイムが始まったのだ。
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