手のひらのひだまり

蒼村 咲

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第1章

13-R 光と影

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新しい髪形の評判は上々だった。琴音以外にも何人かの女子たちが「似合ってる」とか「かわいい」と声をかけてくれたのだ。女子の「かわいい」には挨拶みたいなところがあるのは否定しないけれど。
髪型に限らず、ペンケースを変えたり、カバンに新しいチャームをつけたりするだけでも、女子たちは「それかわいいね」と言い交わす。
もちろん、たいていは本当に可愛いと思っているし、本人だって可愛いと思って身につけているのだけれど。
一方男子は特に何も触れてこないのが基本だ。もしかしたら、一定以上親しくなればそういう会話も生じるのかもしれないけれど、玲奈にそこまでの「男友達」はいない。

(だからこそ、園田くんの発言には心的ダメージを受けるんだよね……)

おそらく祐輝本人はそれほど考えずに発言しているのだけれど、玲奈の側にその手の経験値が足りないのだった。


「……っていうかさー、あれなんなの? 今まで外見とか全っ然無頓着だったくせに」

放課後、生徒会室に向かっている時だった。聞き覚えのある声に玲奈ははっと立ち止まる。

「あー。わざわざ受験生になってからおしゃれするのは謎だよね」

どうやら一つ下の階段で喋っているらしい。同じクラスの女子たちだ。
そういえば、今週は彼女たちが中階段の掃除当番だった気がする。

「あれじゃない? 恋みたいな!」

一人がそう言った途端、一斉にくすくす笑い──嘲笑が起こった。

「でもさー、今更恋とかやっぱ優等生はやることが違うよねー。あ、悪い意味で」

再び笑いが起きる。「悪い意味で」なんてわざわざ補足しなくたってちゃんと伝わっているだろうに、と玲奈は思う。誰の噂話をしているかは明確だった。

「ま、地味子さんが色目使ったところで無駄だろうけど」

彼女たちの間にまた笑いが起きる。
ずっと聞き耳を立てていても仕方がないので、玲奈はそっと来た道を戻った。玲奈が彼女たちの話を聞いてしまったことは知られない方がいい。
心の中で何を思おうと陰で何を言おうと表立っていがみ合っているわけじゃないのだ。その方が得策であることを、A組の女子たちはみんな分かっている。
だから、余計な波風は立てない。それが暗黙の了解だった。
少し遠回りにはなるけれど、生徒会室には北階段経由で行くことにする。

(まあ、どこかのタイミングでこうなるだろうとは思ってたしね……)

玲奈としては第一段階、つまりふたえメイクをし始めた時にそうなるのではないかと予想していたのだ。それが少し後ろにずれ込んだだけにすぎない。もちろん、決して聞いていて心地の良い内容ではないけれども。

(特に気に障ることした覚えもないんだけどなあ……)

確かに仲が良いというわけではなかったけれど、かといって彼女たちに嫌われるような心当たりはない。明確なきっかけもないのに人が人を嫌う理由なんて、きっと「なんとなく気に入らない」というような曖昧なものなのだろう。
先ほど聞いてしまった会話を頭から締め出し、玲奈は生徒会室へと急いだ。誰かを待たせているといけない。
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