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第1章
9-Y 生徒会室の噂話
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「──そういえば会長、なんか雰囲気変わったよね」
生徒会執行部で副会長を務める西村由紀子がふと思い出したように言った。
会長──つまり玲奈は資料を受け取りに職員室へ行ってしまったため、ここ生徒会室にはいない。
「そう? 前からあんな感じじゃない?」
いかにも気のない感じで答えたのは同じく副会長の小森修平だ。
プリントを束ね一部ずつ綴じるというこの単純作業に飽きてしまっているのだろう。
ほら、今またあくびをかみ殺した。
「あんたは会長のいったいどこを見て変わってないなんて言えるのよ」
由紀子が呆れかえる。
そりゃそうだろう。誰が見てもあっと驚く、というような変化ではないものの、それでも劇的に変わったのは事実のはずだ。
「まあ、良い方への変化ですしいいんじゃないですか」
少し笑いながら口を挟んだのは、書記の須藤愛だ。
由紀子の方に顔を向けながらも、手元ではそのまま作業を続けている。器用なタイプらしい。
「愛ちゃんは気にならないの? 会長の変貌のわけ」
由紀子が愛の方に身を乗り出しながら尋ねた。
こちらは当然ながら手が止まっている。
「なりませんね」
愛は作業を続けたまま、にべもなく言い放つ。
「なんでうちの執行部はこうも他人に興味がない人間ばっかり集まるかなあ……」
由紀子が唇を尖らせている。
たぶん、他人にやたらと興味を持つタイプは、執行部の仕事なんてやる暇がないだろう。
と、また別の方から声がする。
「西村先輩は何か心当たりでもあるんですか?」
会計の柴田圭だった。
口ぶりからして、彼も実際のところは特に興味があるわけでもないのだろう。
けれど由紀子は我が意を得たりと目を輝かせた。
「数週間という短期間でのあの変わりようよ? 間違いないわ。恋よ!」
なんとなく、微妙な空気が生徒会室に流れる。
言われてみれば、玲奈には好きな人でもいるのだろうか。
普段の様子から察するに、彼氏はいない──いたこともないというのが正確なところだとは思うが。
「会長が変わったのは一年生くん! 君が来てからなのよ!」
いきなり会話に引きずり込まれてしまった。
祐輝は内心ため息をつく。執行部の新入部員の中で、一年男子は祐輝一人だから言い逃れようもない。
「先輩、園田くんです。そろそろ名前覚えてあげてください」
今度は圭が呆れかえっている。
祐輝の名前一つ覚えられないのだから、由紀子だってそれほど他人に興味がないのではないのか。
「そう、園田くん。会長は君のこと好きなんじゃないの?」
由紀子のこの発言で一段と視線が集まった。
これはいったい何に対する好奇心なのだろうと思いながら、祐輝は少し考え込むふりをする。
「違うと思いますけど」
そう言った途端、背後で生徒会室の扉が開いた。
末席に祐輝は立ち上がり、玲奈が運んできた資料を受け取る。と、ふと遊び心がよぎった。
「……ところで生徒会長、好きな人います?」
一応、執行部の他のメンバーがいるところでは敬語を使うことにしている。注意されるのも面倒だからだ。
由紀子がぎょっとしたのが視界の端に見えた。
「いないけど。なんで?」
玲奈はわけがわからない、というように目を瞬いている。
ちらりと振り返ると由紀子と目が合った。
「これだからイケメンは……!」
何か聞こえた気がするけれど、聞かなかったことにしておこう。
生徒会執行部で副会長を務める西村由紀子がふと思い出したように言った。
会長──つまり玲奈は資料を受け取りに職員室へ行ってしまったため、ここ生徒会室にはいない。
「そう? 前からあんな感じじゃない?」
いかにも気のない感じで答えたのは同じく副会長の小森修平だ。
プリントを束ね一部ずつ綴じるというこの単純作業に飽きてしまっているのだろう。
ほら、今またあくびをかみ殺した。
「あんたは会長のいったいどこを見て変わってないなんて言えるのよ」
由紀子が呆れかえる。
そりゃそうだろう。誰が見てもあっと驚く、というような変化ではないものの、それでも劇的に変わったのは事実のはずだ。
「まあ、良い方への変化ですしいいんじゃないですか」
少し笑いながら口を挟んだのは、書記の須藤愛だ。
由紀子の方に顔を向けながらも、手元ではそのまま作業を続けている。器用なタイプらしい。
「愛ちゃんは気にならないの? 会長の変貌のわけ」
由紀子が愛の方に身を乗り出しながら尋ねた。
こちらは当然ながら手が止まっている。
「なりませんね」
愛は作業を続けたまま、にべもなく言い放つ。
「なんでうちの執行部はこうも他人に興味がない人間ばっかり集まるかなあ……」
由紀子が唇を尖らせている。
たぶん、他人にやたらと興味を持つタイプは、執行部の仕事なんてやる暇がないだろう。
と、また別の方から声がする。
「西村先輩は何か心当たりでもあるんですか?」
会計の柴田圭だった。
口ぶりからして、彼も実際のところは特に興味があるわけでもないのだろう。
けれど由紀子は我が意を得たりと目を輝かせた。
「数週間という短期間でのあの変わりようよ? 間違いないわ。恋よ!」
なんとなく、微妙な空気が生徒会室に流れる。
言われてみれば、玲奈には好きな人でもいるのだろうか。
普段の様子から察するに、彼氏はいない──いたこともないというのが正確なところだとは思うが。
「会長が変わったのは一年生くん! 君が来てからなのよ!」
いきなり会話に引きずり込まれてしまった。
祐輝は内心ため息をつく。執行部の新入部員の中で、一年男子は祐輝一人だから言い逃れようもない。
「先輩、園田くんです。そろそろ名前覚えてあげてください」
今度は圭が呆れかえっている。
祐輝の名前一つ覚えられないのだから、由紀子だってそれほど他人に興味がないのではないのか。
「そう、園田くん。会長は君のこと好きなんじゃないの?」
由紀子のこの発言で一段と視線が集まった。
これはいったい何に対する好奇心なのだろうと思いながら、祐輝は少し考え込むふりをする。
「違うと思いますけど」
そう言った途端、背後で生徒会室の扉が開いた。
末席に祐輝は立ち上がり、玲奈が運んできた資料を受け取る。と、ふと遊び心がよぎった。
「……ところで生徒会長、好きな人います?」
一応、執行部の他のメンバーがいるところでは敬語を使うことにしている。注意されるのも面倒だからだ。
由紀子がぎょっとしたのが視界の端に見えた。
「いないけど。なんで?」
玲奈はわけがわからない、というように目を瞬いている。
ちらりと振り返ると由紀子と目が合った。
「これだからイケメンは……!」
何か聞こえた気がするけれど、聞かなかったことにしておこう。
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