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第5話 謎と答え
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「──昔、この大学に群を抜いて真面目な学生がいた」
彼は私の方を見ることなく話し始めた。
その視線は定まらず宙に浮いている。
「勉学の妨げになるものはすべて取り除いてしまうような、厳しい──ストイックな奴でね」
私は無言で聞き入った。
早くも彼の語りに引き込まれているのが自分でわかる。
「それなのに惚れっぽいというか、恋多き奴だった」
彼は静かに言った。
「惚れっぽいくせに、生来の生真面目さでもって、自分が誰かを想うことを許さなかったんだ」
そう言って彼は目を伏せる。どこか苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
私は黙って続きを待った。
「だから誰かに恋をするたび、その想いにふたをして、切り捨ててきた」
彼の視線は再び宙を漂っている。
私はなんとなく、入口に目を向けた──もちろん誰もいない。
「でもその甲斐あって、その学生は立派に業績を上げ、今じゃ教授だ」
その言葉に私ははっと彼を振り返る。
その横顔を見つめているうちに、頭の中で何かがつながり始めた。
「その意味で、彼のやり方は決して間違ってはいなかった」
それは、つまり──…。
「ただ、それは自分に歪みを生むやり方でもあった」
彼はここまで言って初めて私を見た。
私もまっすぐに見つめ返す。
「──君はどう思う?」
彼は静かにそう言った。
(どう思うも何も──)
私は小さく息をついた。
彼は明らかに私を一つの結論に導いていた。
「──そのお話。昔いた真面目な学生というのは……あなた自身ですよね。ミズキさん──いえ、水城先生」
彼はほう、と満足げな顔をした。
その表情を見て、私は自分の考えの正しさを悟る。
彼が名乗った「ミズキ」とは、「水城」の読み替えだ──あるいは、本当にニックネームだったのかもしれない。
目の前の彼は当時「学生」だった水城先生の姿なのだろう。
だとすれば彼自身は学生であり、本物の水城先生は学生ではなく教授なのだからイエスでありノーという答えが成り立つ。
生きている人間かという問いについても同じだ。教授である水城先生は生きている。でも目の前の彼は、何なのかはわからないけれど、少なくとも生身の人間ではない。
つじつまが合うのだ。
「──さすがは僕の見込んだ女性だ」
私は彼のつぶやきを聞き逃さなかった。
それでも、聞こえなかったふりをする。
なんとなく、彼もそう望んでいるような気がしたのだ。
「──あなたは、いったい……何なんですか」
私は静かに問いかけた。
目の前の彼は、死霊でも生霊でもない。
水城先生の過去の姿と記憶をとどめた彼はいったい──…。
「さあ……何なんだろうね」
そう言って彼は宙を見上げた。
第三書庫の無機質な照明に照らされているのに、彼の横顔は非現実的なまでに美しかった。
彼は私の方を見ることなく話し始めた。
その視線は定まらず宙に浮いている。
「勉学の妨げになるものはすべて取り除いてしまうような、厳しい──ストイックな奴でね」
私は無言で聞き入った。
早くも彼の語りに引き込まれているのが自分でわかる。
「それなのに惚れっぽいというか、恋多き奴だった」
彼は静かに言った。
「惚れっぽいくせに、生来の生真面目さでもって、自分が誰かを想うことを許さなかったんだ」
そう言って彼は目を伏せる。どこか苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
私は黙って続きを待った。
「だから誰かに恋をするたび、その想いにふたをして、切り捨ててきた」
彼の視線は再び宙を漂っている。
私はなんとなく、入口に目を向けた──もちろん誰もいない。
「でもその甲斐あって、その学生は立派に業績を上げ、今じゃ教授だ」
その言葉に私ははっと彼を振り返る。
その横顔を見つめているうちに、頭の中で何かがつながり始めた。
「その意味で、彼のやり方は決して間違ってはいなかった」
それは、つまり──…。
「ただ、それは自分に歪みを生むやり方でもあった」
彼はここまで言って初めて私を見た。
私もまっすぐに見つめ返す。
「──君はどう思う?」
彼は静かにそう言った。
(どう思うも何も──)
私は小さく息をついた。
彼は明らかに私を一つの結論に導いていた。
「──そのお話。昔いた真面目な学生というのは……あなた自身ですよね。ミズキさん──いえ、水城先生」
彼はほう、と満足げな顔をした。
その表情を見て、私は自分の考えの正しさを悟る。
彼が名乗った「ミズキ」とは、「水城」の読み替えだ──あるいは、本当にニックネームだったのかもしれない。
目の前の彼は当時「学生」だった水城先生の姿なのだろう。
だとすれば彼自身は学生であり、本物の水城先生は学生ではなく教授なのだからイエスでありノーという答えが成り立つ。
生きている人間かという問いについても同じだ。教授である水城先生は生きている。でも目の前の彼は、何なのかはわからないけれど、少なくとも生身の人間ではない。
つじつまが合うのだ。
「──さすがは僕の見込んだ女性だ」
私は彼のつぶやきを聞き逃さなかった。
それでも、聞こえなかったふりをする。
なんとなく、彼もそう望んでいるような気がしたのだ。
「──あなたは、いったい……何なんですか」
私は静かに問いかけた。
目の前の彼は、死霊でも生霊でもない。
水城先生の過去の姿と記憶をとどめた彼はいったい──…。
「さあ……何なんだろうね」
そう言って彼は宙を見上げた。
第三書庫の無機質な照明に照らされているのに、彼の横顔は非現実的なまでに美しかった。
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