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第4話 真実を求めて
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ああ宣言した以上、用もないのに第三書庫に近づくわけにはいかなかった。
けれど気になって仕方がない。
記録上、あの書庫の中にいたのは私だけということになっている。
でも実際には彼がいた。
(──彼は本当に「いた」の?)
そんなわけない、と頭を振る。
白昼夢とか幻覚とか、そういうものではないと思う──見たことがない以上、確信は持てないけれど。
私はいてもたってもいられなくなって、演習室に駆け戻った。
そして借りっぱなしになっていた第三書庫所蔵の資料を引っ掴む。
部屋にいた院生仲間にろくに挨拶もせず、私は演習室を飛び出した。
いつもの手順で入口のロックを解除する。
書庫内の照明はすべて点いていた──ということは。
ドアを閉めると、数メートル先の書架の間から彼が姿を見せた。
どこか、困ったような顔をしているように見える。
まるで私が普段とは異なる理由で来るのをわかっていたかのようだ。
私はその場で深く息を吸い込んだ。そして彼に向き直る。
「──あなたは、いったい誰なんですか」
私の言葉に、彼はふっと目を伏せた。
そして小さく息をつくような動作の後、こちらを見つめる。
その目はどこか遠くを見ているようだった。
「ミズキ──それが僕の名前だよ。君が求めている答えではないかもしれないけどね」
当然、名前を訊いたわけではなかった。
名前を知ったところで、彼の正体を知ることはできない。
それに、「ミズキ」という音だけでは苗字なのか名前なのかもわからない。
おそらく、彼はわざとわからないようにしているのだろう。
私は質問を変えることにする。
「あなた──ミズキさんは、この大学の学生ですか」
しばらく間が開いた。
空調の音がいやに大きく聞こえる。
「それは──イエスであり、ノーかな」
彼の返答に私は面食らう。
イエスであり、ノーとはどういう意味なのだろう。
この大学の学生であって学生でないなんて──あり得ない。
(──いや、もしかしたら)
私は彼をもう一度見つめ直す。
彼には何度も触れてきたし触れられてきた。
だからあり得ないと思うけれど、でも──…。
「ミズキさんは……生きている人間ですか」
聞いてはいけない質問だったのかもしれない。
彼は長い間答えなかった。
けれど急にふっと視線をそらしたかと思うと、彼は少し笑った。
「……きわどいことを聞くね」
私は少し身構えた。
彼は、もしかしたら本当に、生身の人間ではないのかもしれない──…。
「ノーと答えたいところだけど、これもまた、イエスでもあるんだ」
彼はそう言って腕を組み、背中から書架にもたれかかった。
一方で私はもう何が何だかわからなくなっていた。
(一体どういうこと……)
ここの学生であって学生でない。
生きた人間ではないけれど生きた人間でもある。
言っている意味が分からない。
でも不思議と、彼のことを怖いとは思わなかった。
それよりも、私は彼に、ここではないどこかで会ったことがある気がするのだ。
それは一体どこだろう。
「少し……昔話をしようか」
彼はそう言って私を誘った。私の混乱などお構いなしだ。
でも私は真実を知るためにここへやってきたのだ。拒む理由がない。
私はうなずき、一歩ずつ踏みしめるようにして彼のそばへと向かった。
けれど気になって仕方がない。
記録上、あの書庫の中にいたのは私だけということになっている。
でも実際には彼がいた。
(──彼は本当に「いた」の?)
そんなわけない、と頭を振る。
白昼夢とか幻覚とか、そういうものではないと思う──見たことがない以上、確信は持てないけれど。
私はいてもたってもいられなくなって、演習室に駆け戻った。
そして借りっぱなしになっていた第三書庫所蔵の資料を引っ掴む。
部屋にいた院生仲間にろくに挨拶もせず、私は演習室を飛び出した。
いつもの手順で入口のロックを解除する。
書庫内の照明はすべて点いていた──ということは。
ドアを閉めると、数メートル先の書架の間から彼が姿を見せた。
どこか、困ったような顔をしているように見える。
まるで私が普段とは異なる理由で来るのをわかっていたかのようだ。
私はその場で深く息を吸い込んだ。そして彼に向き直る。
「──あなたは、いったい誰なんですか」
私の言葉に、彼はふっと目を伏せた。
そして小さく息をつくような動作の後、こちらを見つめる。
その目はどこか遠くを見ているようだった。
「ミズキ──それが僕の名前だよ。君が求めている答えではないかもしれないけどね」
当然、名前を訊いたわけではなかった。
名前を知ったところで、彼の正体を知ることはできない。
それに、「ミズキ」という音だけでは苗字なのか名前なのかもわからない。
おそらく、彼はわざとわからないようにしているのだろう。
私は質問を変えることにする。
「あなた──ミズキさんは、この大学の学生ですか」
しばらく間が開いた。
空調の音がいやに大きく聞こえる。
「それは──イエスであり、ノーかな」
彼の返答に私は面食らう。
イエスであり、ノーとはどういう意味なのだろう。
この大学の学生であって学生でないなんて──あり得ない。
(──いや、もしかしたら)
私は彼をもう一度見つめ直す。
彼には何度も触れてきたし触れられてきた。
だからあり得ないと思うけれど、でも──…。
「ミズキさんは……生きている人間ですか」
聞いてはいけない質問だったのかもしれない。
彼は長い間答えなかった。
けれど急にふっと視線をそらしたかと思うと、彼は少し笑った。
「……きわどいことを聞くね」
私は少し身構えた。
彼は、もしかしたら本当に、生身の人間ではないのかもしれない──…。
「ノーと答えたいところだけど、これもまた、イエスでもあるんだ」
彼はそう言って腕を組み、背中から書架にもたれかかった。
一方で私はもう何が何だかわからなくなっていた。
(一体どういうこと……)
ここの学生であって学生でない。
生きた人間ではないけれど生きた人間でもある。
言っている意味が分からない。
でも不思議と、彼のことを怖いとは思わなかった。
それよりも、私は彼に、ここではないどこかで会ったことがある気がするのだ。
それは一体どこだろう。
「少し……昔話をしようか」
彼はそう言って私を誘った。私の混乱などお構いなしだ。
でも私は真実を知るためにここへやってきたのだ。拒む理由がない。
私はうなずき、一歩ずつ踏みしめるようにして彼のそばへと向かった。
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