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第51話 帰り道で
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「さっきはごめんね。巻き込む形になっちゃって」
駅へ向かう道すがら、申し訳なさそうに言う佐伯先輩に、私はぶんぶんと首を振った。
「いえいえ! そもそも私が勝手にお邪魔した感じですし……」
実は佐伯先輩の教室を訪れたのはともちゃんにけしかけられたからなのだけど、佐伯先輩も特に不思議がっていないのでそれは言わないでおく。
「でも、富永さんのおかげで演目が決まったわけだし。ありがとう。お手柄だよ」
「いえそんな、全然です」
佐伯先輩の笑顔に私は恐縮する。
佐伯先輩のクラスは仲も良さそうだったし、ということは団結力もあるはずだ。
早かれ遅かれ演目はちゃんと決まったんじゃないかと思う。
「それより佐伯先輩、脚本書くことになったんですよね?」
佐伯先輩が書いた脚本で劇が上演されるなんて、楽しみなことこの上ない。
けれど佐伯先輩は困ったように笑った。
「うん。……って、荷が重すぎない?」
確かに、演劇部でもない限り脚本を書いたことのある高校生なんてほとんどいないだろうけど。
「佐伯先輩だったら大丈夫だと思います! っていうか……」
「っていうか?」
続きを言うかどうか迷って言いよどんだものの、佐伯先輩に促されて私は再び口を開く。
「クラスの人も言ってたみたいに、佐伯先輩しかいないんじゃないかと」
もちろん、他の人には書けないという意味ではないけれど。
さっき教室にいた二十人くらいが、言ってみれば文化祭に積極的な面々なのだろうし、そこにちゃんといた佐伯先輩が脚本執筆を担うのはごく自然なことのように思える。
けれど佐伯先輩は「そうかなあ……」と不安そうに首を傾げた。
「じゃあ、キャストの方が良かったんですか? それこそ牛若丸とか」
答えはわかったうえで聞くと、佐伯先輩はやっぱり「ううん、全く」と笑った。
「じゃあちょうどよかったじゃないですか」
さすがに、脚本係とキャストを兼任させることはないと思う。
「うーん、そう言われるとそうなのかなあ……」
佐伯先輩がここまで歯切れが悪いのは珍しい。
なんだか、今日だけで新鮮な佐伯先輩の姿をやたらと目にしている気がする──いや、嬉しいのだけど。
「私で良ければ手伝いますから!」
実際に力になれるかは別問題だとは思いながらも言うと、佐伯先輩は即座に首を振った。
「いや、そういうわけにはいかないよ」
そんなに頼りないだろうかと落ち込みそうになったのを、佐伯先輩の「だって」という声が遮る。
「見に来てくれるでしょ? だったらお楽しみにしておかないと」
「……!」
その気遣いは嬉しかった。でも同時に、やっぱり部外者なんだなって思わずにはいられない。
学年が違うっていうのはそういうことだと、わかっていたつもりだったけど。
「……それはそうと、佐伯先輩のクラスってなんっていうか……すごく仲良しですよね」
私はなんだか複雑な気持ちになってしまい、そっと話題を変えた。
「うん、僕もそれは本当に思う。クラスで希望者で集まって遊びに行ったりしてるし。来月のお祭りも……」
そこで佐伯先輩は少し考えるように口をつぐむ。
どうしたのだろうと不思議に思ったところで目が合った。
「……富永さん、実は来月の中旬にお祭りがあるんだけど、よかったら行ってみない?」
「お祭り、ですか?」
予想外の提案に、私は目を瞬く。
「うん。正式には観月祭」
九月のお祭りということで、私の頭の中で「かんげつさい」が「観月祭」に変換された。
「お月見のお祭りってことですか?」
「うん。中秋の名月を眺めつつ収穫を祝うお祭りなんだって」
佐伯先輩の説明に、私は「へえ……」と声を漏らした。
神社とかでやる、わりとかっちりした感じのお祭りなのかもしれない。
「出店もたくさん並ぶし、花火大会もあるんだけど、どうかな?」
「えっ」
想像していたのとは違う──気軽に遊びに行けそうな大きなお祭りだ。否が応でも胸が高鳴る。
花火大会があるくらいの大きなお祭りなんて何年ぶりだろう。
「行きます!」
勢い込んで言うと、佐伯先輩は「よかった」と微笑んだ。
「あ、それとその前にちょっと寄りたい場所があるんだけど、いいかな?」
それは私も一緒に、ということなのだろうか。それともその後で待ち合わせということなのだろうか。
一瞬判断に迷ったものの、すぐにそんなことはどっちだったっていいのだと気づく。
私が「もちろんです」とうなずくと、佐伯先輩はなぜかほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ十五日の夕方四時に駅で待ち合わせにしよう」
「はい! 楽しみにしてます」
佐伯先輩とお祭りデートだ。さて、何を着ていこう。
駅へ向かう道すがら、申し訳なさそうに言う佐伯先輩に、私はぶんぶんと首を振った。
「いえいえ! そもそも私が勝手にお邪魔した感じですし……」
実は佐伯先輩の教室を訪れたのはともちゃんにけしかけられたからなのだけど、佐伯先輩も特に不思議がっていないのでそれは言わないでおく。
「でも、富永さんのおかげで演目が決まったわけだし。ありがとう。お手柄だよ」
「いえそんな、全然です」
佐伯先輩の笑顔に私は恐縮する。
佐伯先輩のクラスは仲も良さそうだったし、ということは団結力もあるはずだ。
早かれ遅かれ演目はちゃんと決まったんじゃないかと思う。
「それより佐伯先輩、脚本書くことになったんですよね?」
佐伯先輩が書いた脚本で劇が上演されるなんて、楽しみなことこの上ない。
けれど佐伯先輩は困ったように笑った。
「うん。……って、荷が重すぎない?」
確かに、演劇部でもない限り脚本を書いたことのある高校生なんてほとんどいないだろうけど。
「佐伯先輩だったら大丈夫だと思います! っていうか……」
「っていうか?」
続きを言うかどうか迷って言いよどんだものの、佐伯先輩に促されて私は再び口を開く。
「クラスの人も言ってたみたいに、佐伯先輩しかいないんじゃないかと」
もちろん、他の人には書けないという意味ではないけれど。
さっき教室にいた二十人くらいが、言ってみれば文化祭に積極的な面々なのだろうし、そこにちゃんといた佐伯先輩が脚本執筆を担うのはごく自然なことのように思える。
けれど佐伯先輩は「そうかなあ……」と不安そうに首を傾げた。
「じゃあ、キャストの方が良かったんですか? それこそ牛若丸とか」
答えはわかったうえで聞くと、佐伯先輩はやっぱり「ううん、全く」と笑った。
「じゃあちょうどよかったじゃないですか」
さすがに、脚本係とキャストを兼任させることはないと思う。
「うーん、そう言われるとそうなのかなあ……」
佐伯先輩がここまで歯切れが悪いのは珍しい。
なんだか、今日だけで新鮮な佐伯先輩の姿をやたらと目にしている気がする──いや、嬉しいのだけど。
「私で良ければ手伝いますから!」
実際に力になれるかは別問題だとは思いながらも言うと、佐伯先輩は即座に首を振った。
「いや、そういうわけにはいかないよ」
そんなに頼りないだろうかと落ち込みそうになったのを、佐伯先輩の「だって」という声が遮る。
「見に来てくれるでしょ? だったらお楽しみにしておかないと」
「……!」
その気遣いは嬉しかった。でも同時に、やっぱり部外者なんだなって思わずにはいられない。
学年が違うっていうのはそういうことだと、わかっていたつもりだったけど。
「……それはそうと、佐伯先輩のクラスってなんっていうか……すごく仲良しですよね」
私はなんだか複雑な気持ちになってしまい、そっと話題を変えた。
「うん、僕もそれは本当に思う。クラスで希望者で集まって遊びに行ったりしてるし。来月のお祭りも……」
そこで佐伯先輩は少し考えるように口をつぐむ。
どうしたのだろうと不思議に思ったところで目が合った。
「……富永さん、実は来月の中旬にお祭りがあるんだけど、よかったら行ってみない?」
「お祭り、ですか?」
予想外の提案に、私は目を瞬く。
「うん。正式には観月祭」
九月のお祭りということで、私の頭の中で「かんげつさい」が「観月祭」に変換された。
「お月見のお祭りってことですか?」
「うん。中秋の名月を眺めつつ収穫を祝うお祭りなんだって」
佐伯先輩の説明に、私は「へえ……」と声を漏らした。
神社とかでやる、わりとかっちりした感じのお祭りなのかもしれない。
「出店もたくさん並ぶし、花火大会もあるんだけど、どうかな?」
「えっ」
想像していたのとは違う──気軽に遊びに行けそうな大きなお祭りだ。否が応でも胸が高鳴る。
花火大会があるくらいの大きなお祭りなんて何年ぶりだろう。
「行きます!」
勢い込んで言うと、佐伯先輩は「よかった」と微笑んだ。
「あ、それとその前にちょっと寄りたい場所があるんだけど、いいかな?」
それは私も一緒に、ということなのだろうか。それともその後で待ち合わせということなのだろうか。
一瞬判断に迷ったものの、すぐにそんなことはどっちだったっていいのだと気づく。
私が「もちろんです」とうなずくと、佐伯先輩はなぜかほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ十五日の夕方四時に駅で待ち合わせにしよう」
「はい! 楽しみにしてます」
佐伯先輩とお祭りデートだ。さて、何を着ていこう。
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