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第8話 自由
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佐伯先輩から体育祭の話を聞いてから、週末を挟んで月曜日。今日のホームルームは体育祭が議題だった。
運動能力はひいき目に見ても中の下、体育の時間はさながら罰ゲーム。そんな私としては憂鬱な時間になりそうな気がしていたのだけど、なんとそれは全くの杞憂だったのだ。
(高校の体育祭ってなんて自由なんだろう!)
私はそんな感動をかみしめながら、教壇に立つ学級委員を見つめる。
「それでは、金曜日までに出場を希望する種目の欄に名前を書いておいてください」
うちのクラスの学級委員である塩見夏希さんは、そう言って教室後方のホワイトボードを指さした。
そうなのだ。中学の時みたいに、決められた種目に強制的に出場させられるのではなく、自分で出たい種目にエントリーできるのだ。しかも、一人が出場できる種目の数には、上限が設けられていない。
(最高のシステムじゃん……!)
つまり、足に自信のある面々が重複出場して、徒競走や対抗リレーなんかの枠を埋められるということなのだ。私のような運動音痴が泣く泣く走らされることも、その悲惨な走りにチームメイトが絶望することもない。
「──ねえねえ。一緒に玉入れだけ出ておしまいにしない?」
そんな囁き声と共に、肩がつんつんとつつかれた。
振り返らなくてもわかる──ともちゃんこと中山智美だ。入学式当日に仲良くなった友達で、意気投合というほどではないものの何かと気が合う。たとえば、彼女も私と同じく運動全般が苦手なのだ。
「それいい! そうしよう!」
私は体半分だけ振り向いて囁き返した。
玉入れというのは妙案だ。かごに入れることさえできれば豪速球を投げる必要もない。少なくとも、跳んだり走ったりすることを思えば格段にましな働きができると思う。
「私たちはさ、体育祭以外の場面で頑張ればいいと思うんだよね」
しみじみと言うともちゃんに、私はうなずく。
「きっと他に活躍の場があるよね。ともちゃんならほら、絵とか」
ともちゃんは美術部に入っているのだ。それこそ文化祭なんかでは重宝されそうな気がする。
が、私は──どうだろう? 私が活躍できそうな場面なんて、何かあるだろうか。
「……とにかく、体育祭で私たちがでしゃばるべきじゃないってことだけは確実」
私の内心を知ってか知らずか、ともちゃんは明るい声でそう言った。その言葉に異存はない。
私たちは力強くうなずきあい、チャイムが鳴ると同時に「玉入れ」の欄に名前を書き込みに行ったのだった。
運動能力はひいき目に見ても中の下、体育の時間はさながら罰ゲーム。そんな私としては憂鬱な時間になりそうな気がしていたのだけど、なんとそれは全くの杞憂だったのだ。
(高校の体育祭ってなんて自由なんだろう!)
私はそんな感動をかみしめながら、教壇に立つ学級委員を見つめる。
「それでは、金曜日までに出場を希望する種目の欄に名前を書いておいてください」
うちのクラスの学級委員である塩見夏希さんは、そう言って教室後方のホワイトボードを指さした。
そうなのだ。中学の時みたいに、決められた種目に強制的に出場させられるのではなく、自分で出たい種目にエントリーできるのだ。しかも、一人が出場できる種目の数には、上限が設けられていない。
(最高のシステムじゃん……!)
つまり、足に自信のある面々が重複出場して、徒競走や対抗リレーなんかの枠を埋められるということなのだ。私のような運動音痴が泣く泣く走らされることも、その悲惨な走りにチームメイトが絶望することもない。
「──ねえねえ。一緒に玉入れだけ出ておしまいにしない?」
そんな囁き声と共に、肩がつんつんとつつかれた。
振り返らなくてもわかる──ともちゃんこと中山智美だ。入学式当日に仲良くなった友達で、意気投合というほどではないものの何かと気が合う。たとえば、彼女も私と同じく運動全般が苦手なのだ。
「それいい! そうしよう!」
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私の内心を知ってか知らずか、ともちゃんは明るい声でそう言った。その言葉に異存はない。
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