この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

文字の大きさ
上 下
7 / 52

第7話 チーム分け

しおりを挟む
「──体育祭、ですか?」

 私は隣を歩く佐伯先輩に聞き返す。閉室後、一緒に昇降口へ向かっている時だった。

「うん。うちの学校、体育祭は五月にやるんだよ。暑くなる前にって」

 曖昧に相槌を打ちながら思い返してみる。
 そういえば、春は体育祭、秋は文化祭ときっちりすみ分けができているという話を、入学直後のホームルームで聞いた気がしてきた。とはいうものの、それほど真剣に注意を払ってはいなかったというのが本当のところだったりする。
 読書好きのご多分に漏れず、私は運動全般があまり得意じゃない。ゆえに、体育祭にもあまり関心がないのだった。

「それで。僕のクラスと富永さんのクラス、同じチームに振り分けられてたよ」

 佐伯先輩はそう言って微笑んだ。

「同じチーム?」

 意味がよくわからず、私は首を傾げる。
 そんな私の反応を見て、佐伯先輩は一瞬動きを止めたものの、すぐにわかりやすく説明してくれた。

「うちの学校、学年ごとに十クラス、合計で三十クラスあるよね。それで、その三十クラスを縦割りして五チーム対抗で競い合うんだよ。各学年の二クラスずつが同じチームになる感じ」

 佐伯先輩の説明をもとに、チームの構成を頭の中で想像する。要は完全な縦割りクラス対抗ではなく、全校を五チームに分割したうえでの対抗戦になるということらしい。……でも、佐伯先輩はどうしてわざわざそんな話を?

「同じチームだと、何かいいことがあるんですか?」

 学年も性別も違うし、同じ種目に出ることはできないだろう。
 私が本気で首を傾げているのを見て、佐伯先輩は目を瞬いた。それから、思い出したように吹き出す。

「いや、特にないけど」

 そして笑いながらこちらを見た。

「……ないけど、ちょっと嬉しいなって」

「……!」

 私は思わず固まってしまった。──「嬉しい」?
 まさか、佐伯先輩にそんな風に思ってもらえるなんて思ってもみなかった。どうしよう、嬉しいを通り越して恐縮だった。それでも、何か言わなければと言葉を探す。

「あっ、てことは、先輩のこと心置きなく応援できるってことですよね!」

 勢い込んで言うと、佐伯先輩は苦笑した。

「まあ、僕は出ないんだけどね」

(そうだった……)

 私は内心頭を抱える。佐伯先輩は、激しい運動はできないという話だったのだ。忘れていたわけではないはずなのに。……私ってどうしてこうなんだろう。

「でも、僕は富永さんを心置きなく応援できるよ?」

 佐伯先輩が優しく言った。きっと先輩は、私の考えていることもわかったうえでフォローしてくれているに違いない。

「私も出たくないです……」

 ため息交じりに言うと、佐伯先輩は声を上げて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...