聖徒会

森山葵

文字の大きさ
上 下
2 / 12

第2話「部室使用状況」

しおりを挟む
「みんな、こんにちは。今日は友達を連れて来たんだ」

 迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。

「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」

 トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。

 いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。

「ラナ、今日はリアはいないの?」

 リッチがラナに尋ねた。

「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」

 がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。

 その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。

 とりあえず、少し緊張をほぐすか。

「孤児院の皆様に贈り物がありますの」

 オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。

「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」

 シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。

 ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。

 これは…もしかしてバレた?

 とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。



◇◇◇



 その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。

 シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。

 オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。

 それが楽しくて時間もあっという間だった。

 そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。

 身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。

「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」

 シスターが慌てて、シレネを連れて来る。

 男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。

 ロケットペンダントだ。

「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」

 その後は孤児院は大騒ぎだった。

 ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。

 ん?王道?

 最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。

 今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。

 子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。

 いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。

 そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。

 ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。

「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」

 子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。

「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」

 貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。

「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」

 戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。

「見ててくださいの」

 オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。

 水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。

「わあ、綺麗!」

 シレネが目をキラキラとさせた。

 そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。

 これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。

 美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。

「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」

 オレはシレネの手をギュッと握った。

「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」

 シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。



ーーー


 次話、第一部の最終話です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...