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第17話 終わる日々 ー最後は豚汁でー 最終話
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「何のようだ?」
玄関を開けると明兎の弟の総馬は勢いよく入ってきた。
「ヤバい!ヤバいところから金借りちまったんだよ!」
神経質そうな目をキョロキョロさせながら総馬は立夏にしがみついた。
「なあ、なんとかしてくれよ!ヤバいんだよ!」
「ーー何回目だ?」
立夏が溜め息をつくと総馬は怒鳴った。
「うるせー!オレがうまくいかないのは兄貴がゲイだからだ!おまえらがオレの人生めちゃくちゃにしたんだろ!」
総馬の主張に立夏は肩を竦めた。
「そう言われると弱いな」
「だ、だろ!」
「だが、今回で終わりだ。来年には明兎とイタリアで暮らす。二度と会うことはない。あー、お義母さんの葬式には帰ってこないとな」
「ふざけるな!一生オレの面倒を見ろ!」
「NO.あいにく好みじゃない」
「うるせー!うるせー!」
「総馬!いい加減にしてよ!」
ドアの向こうで聞いていた明兎が、たまらず飛び出してきた。
「なんで立夏が総馬の面倒を見なくちゃならないんだよ!」
「うるせー!カマ兄貴のせいで、オレがどれだけ苦しんできたと思ってんだよ!慰謝料だろ!当然の権利だ!」
「立夏にたかるのは違うだろ!」
「おまえの金なんか足りるか!」
総馬に睨まれて明兎は俯いた。
「おまえら二人の責任だ!いつまでもオレに尽くせよ!」
「うるさい!総馬!いつまでも甘ったれるなよ!」
理不尽なことしか言わない総馬に明兎はキレた。
「僕は縁を切ったのに、いつまでも立夏に付きまとってるのは総馬だろ!10歳も離れてるのに、まわりが僕の弟だってすぐに気づくの?苗字だって違うのに、絶対にそんなことないよね!」
総馬は黙った。
「自分が楽したいからって、立夏のこと利用しないでよ!」
「はあ!うるせえんだよ!はっ!おまえは幸せでいいなぁ。おまえのエロ画像で抜いてる奴が旦那で。おまえは満足だろうなぁ!」
あっ、と立夏は目を見開いた。
まずいなー、と顔をしかめながら隣を見る。
「だから?」
明兎の言葉に立夏は目を丸くした。動揺している様子は見られない。
「か、金払えよ!絶対だからな!」
総馬が怒りながら出て行く。その姿を明兎は悲しそうに見送った。
「アキト……」
「ごめんね、立夏。毎回毎回嫌になるでしょ……」
明兎は力なく立っていた。
その身体を立夏は優しく抱き寄せる。
「アキト……」
キスをしようと立夏が近づいた、そのとき。
「ーーねえ、立夏。エロ画像って何?」
問われて、ギクッと立夏は身を震わせた。
「あの、いや、そのーー」
咄嗟のことでうまい言い訳が思いつかなかった。
「アキトの、だ」
観念して立夏は溜め息をついた。
「ふーん。なんで総馬が知ってるの?」
「冴子にでも聞いたんだろ。あいつ、よく会社にも来てたからな」
頭をかくと明兎はくすっ、と笑った。
「見せてよ。それ」
言われて立夏は目が泳いだ。
「いやー」
「え?そんなにやばいやつなの?」
顔をしかめた明兎に、立夏はこわごわ尋ねた。
「消せとか言わないよな?」
「どうせ消しても、バックアップしてるんでしょ?」
「ああ。その通りだ」
「誉めてないよ」
明兎は苦笑しながら玄関の鍵を閉めた。
「やばいところって、どこから借りるんだろうー」
「普通に生活してたら引っかからないところだろ」
「立夏も悪いんだよ。すぐにお金を渡すから」
本当に僕達家族ってだめだな、と明兎は暗い顔でつぶやいた。
「オレがだめにしたんだから、責任はとるさ」
「……取らなくていいよ」
「オレは明兎の人生をすべて手に入れたんだ。まわりからいくら責められてもかまわない」
「立夏……」
驚いた表情で明兎は立夏を見つめた。
「オレがおまえにどれだけ窮屈な生活を強いているのか、まわりはわかっている。だけど、オレはそれを止めれそうにない。それでもおまえはオレといてくれるか?」
真摯に見つめると明兎の顔が赤らんでいく。
「い、いやだな。そんなこと言わないで、一緒にいさせてよ……」
僕のほうが立夏といたいんだからーー。
「アキト」
何があっても離さない、離してやるかーー、と立夏は力強く明兎の身体を抱きしめた。
「あー、これ?」
「ああ」
例の画像を見せると明兎は複雑な顔をした。裸でキスをしている写真だけならまだしも、自分達の行為の動画まである。
「寝室のグラスに付いてるカメラって、これ撮ってたの?」
やや呆れた顔で明兎は尋ねた。
「ああ」
「浮気を疑ってるんじゃなかったんだ……」
「もし、そうなら相手はいつの間にか消える」
「そんな、マフィアジョークやめなよ」
明兎は画像を見ながら少しむくれた表情になる。
「ーーどうした?」
心配になって顔を覗きこむ。
「あー、若い頃のほうが多いね」
「そうか?」
「わ、若い頃の僕のほうが好き?なのかな……」
「昔は記念日ごとに色々やったからな。縛ったのは覚えてるか?」
「筋肉痛で泣いたやつね」
真顔で明兎が言うと立夏は吹き出した。
「そうそう。それに、やっぱりはじめては何回でも見返すな」
「やめてよ……」
それはさすがに恥ずかしい。
「こんな初々しい頃はこのときだけだからな、アキトは案外zozzoniだから」
スケベな人、と言われ明兎はそっぽ向いた。
「ーーもう立夏としない」
「ごめん、ごめん。まあ、最近のは編集する間がないだけだ。明兎なら何歳でも好きに決まってるだろ」
明兎は真っ赤になって頷いた。
「あ、ありがとう……」
立夏も少し照れがうつった。
家から出る前日には、最後の味噌汁を飲んだ。
「今日は豚汁だよ」
「おっ、忙しいのに悪いな。あー、美味い、最高だ」
立夏は美味しそうに豚汁を食べた。
「イタリアに行っても味噌汁は飲みたいな」
「日本食のショップに売ってるかな」
「なけりゃ、マンマに送ってもらうさ」
ふふっ、と明兎は微笑んだ。
「あっ」
立夏のスマホに通知が入る。冴子からだ。
内容は、総馬に画像のことを話したことへの謝罪文だった。そして彼女は最後にこの文でしめた。
『40歳になっても50歳になっても抱いてくれるまで待ってます』
立夏は目を細めた。
「それは無理なお願いだな」
「どうしたの?」
「いや、アキト。ずっと一緒にいてくれよ」
「あ、うん。立夏もね」
「ああ、オレの人生はおまえのためにあるんだ」
明兎は照れたまま、寝室に走って逃げた。
「おい!今日は寝かさないぞ!」
今日、味噌汁と2人の日々は終わる。これからは毎日、2人は何を食べるのだろうかーー。
ーfinitoー
※最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
玄関を開けると明兎の弟の総馬は勢いよく入ってきた。
「ヤバい!ヤバいところから金借りちまったんだよ!」
神経質そうな目をキョロキョロさせながら総馬は立夏にしがみついた。
「なあ、なんとかしてくれよ!ヤバいんだよ!」
「ーー何回目だ?」
立夏が溜め息をつくと総馬は怒鳴った。
「うるせー!オレがうまくいかないのは兄貴がゲイだからだ!おまえらがオレの人生めちゃくちゃにしたんだろ!」
総馬の主張に立夏は肩を竦めた。
「そう言われると弱いな」
「だ、だろ!」
「だが、今回で終わりだ。来年には明兎とイタリアで暮らす。二度と会うことはない。あー、お義母さんの葬式には帰ってこないとな」
「ふざけるな!一生オレの面倒を見ろ!」
「NO.あいにく好みじゃない」
「うるせー!うるせー!」
「総馬!いい加減にしてよ!」
ドアの向こうで聞いていた明兎が、たまらず飛び出してきた。
「なんで立夏が総馬の面倒を見なくちゃならないんだよ!」
「うるせー!カマ兄貴のせいで、オレがどれだけ苦しんできたと思ってんだよ!慰謝料だろ!当然の権利だ!」
「立夏にたかるのは違うだろ!」
「おまえの金なんか足りるか!」
総馬に睨まれて明兎は俯いた。
「おまえら二人の責任だ!いつまでもオレに尽くせよ!」
「うるさい!総馬!いつまでも甘ったれるなよ!」
理不尽なことしか言わない総馬に明兎はキレた。
「僕は縁を切ったのに、いつまでも立夏に付きまとってるのは総馬だろ!10歳も離れてるのに、まわりが僕の弟だってすぐに気づくの?苗字だって違うのに、絶対にそんなことないよね!」
総馬は黙った。
「自分が楽したいからって、立夏のこと利用しないでよ!」
「はあ!うるせえんだよ!はっ!おまえは幸せでいいなぁ。おまえのエロ画像で抜いてる奴が旦那で。おまえは満足だろうなぁ!」
あっ、と立夏は目を見開いた。
まずいなー、と顔をしかめながら隣を見る。
「だから?」
明兎の言葉に立夏は目を丸くした。動揺している様子は見られない。
「か、金払えよ!絶対だからな!」
総馬が怒りながら出て行く。その姿を明兎は悲しそうに見送った。
「アキト……」
「ごめんね、立夏。毎回毎回嫌になるでしょ……」
明兎は力なく立っていた。
その身体を立夏は優しく抱き寄せる。
「アキト……」
キスをしようと立夏が近づいた、そのとき。
「ーーねえ、立夏。エロ画像って何?」
問われて、ギクッと立夏は身を震わせた。
「あの、いや、そのーー」
咄嗟のことでうまい言い訳が思いつかなかった。
「アキトの、だ」
観念して立夏は溜め息をついた。
「ふーん。なんで総馬が知ってるの?」
「冴子にでも聞いたんだろ。あいつ、よく会社にも来てたからな」
頭をかくと明兎はくすっ、と笑った。
「見せてよ。それ」
言われて立夏は目が泳いだ。
「いやー」
「え?そんなにやばいやつなの?」
顔をしかめた明兎に、立夏はこわごわ尋ねた。
「消せとか言わないよな?」
「どうせ消しても、バックアップしてるんでしょ?」
「ああ。その通りだ」
「誉めてないよ」
明兎は苦笑しながら玄関の鍵を閉めた。
「やばいところって、どこから借りるんだろうー」
「普通に生活してたら引っかからないところだろ」
「立夏も悪いんだよ。すぐにお金を渡すから」
本当に僕達家族ってだめだな、と明兎は暗い顔でつぶやいた。
「オレがだめにしたんだから、責任はとるさ」
「……取らなくていいよ」
「オレは明兎の人生をすべて手に入れたんだ。まわりからいくら責められてもかまわない」
「立夏……」
驚いた表情で明兎は立夏を見つめた。
「オレがおまえにどれだけ窮屈な生活を強いているのか、まわりはわかっている。だけど、オレはそれを止めれそうにない。それでもおまえはオレといてくれるか?」
真摯に見つめると明兎の顔が赤らんでいく。
「い、いやだな。そんなこと言わないで、一緒にいさせてよ……」
僕のほうが立夏といたいんだからーー。
「アキト」
何があっても離さない、離してやるかーー、と立夏は力強く明兎の身体を抱きしめた。
「あー、これ?」
「ああ」
例の画像を見せると明兎は複雑な顔をした。裸でキスをしている写真だけならまだしも、自分達の行為の動画まである。
「寝室のグラスに付いてるカメラって、これ撮ってたの?」
やや呆れた顔で明兎は尋ねた。
「ああ」
「浮気を疑ってるんじゃなかったんだ……」
「もし、そうなら相手はいつの間にか消える」
「そんな、マフィアジョークやめなよ」
明兎は画像を見ながら少しむくれた表情になる。
「ーーどうした?」
心配になって顔を覗きこむ。
「あー、若い頃のほうが多いね」
「そうか?」
「わ、若い頃の僕のほうが好き?なのかな……」
「昔は記念日ごとに色々やったからな。縛ったのは覚えてるか?」
「筋肉痛で泣いたやつね」
真顔で明兎が言うと立夏は吹き出した。
「そうそう。それに、やっぱりはじめては何回でも見返すな」
「やめてよ……」
それはさすがに恥ずかしい。
「こんな初々しい頃はこのときだけだからな、アキトは案外zozzoniだから」
スケベな人、と言われ明兎はそっぽ向いた。
「ーーもう立夏としない」
「ごめん、ごめん。まあ、最近のは編集する間がないだけだ。明兎なら何歳でも好きに決まってるだろ」
明兎は真っ赤になって頷いた。
「あ、ありがとう……」
立夏も少し照れがうつった。
家から出る前日には、最後の味噌汁を飲んだ。
「今日は豚汁だよ」
「おっ、忙しいのに悪いな。あー、美味い、最高だ」
立夏は美味しそうに豚汁を食べた。
「イタリアに行っても味噌汁は飲みたいな」
「日本食のショップに売ってるかな」
「なけりゃ、マンマに送ってもらうさ」
ふふっ、と明兎は微笑んだ。
「あっ」
立夏のスマホに通知が入る。冴子からだ。
内容は、総馬に画像のことを話したことへの謝罪文だった。そして彼女は最後にこの文でしめた。
『40歳になっても50歳になっても抱いてくれるまで待ってます』
立夏は目を細めた。
「それは無理なお願いだな」
「どうしたの?」
「いや、アキト。ずっと一緒にいてくれよ」
「あ、うん。立夏もね」
「ああ、オレの人生はおまえのためにあるんだ」
明兎は照れたまま、寝室に走って逃げた。
「おい!今日は寝かさないぞ!」
今日、味噌汁と2人の日々は終わる。これからは毎日、2人は何を食べるのだろうかーー。
ーfinitoー
※最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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