味噌汁と2人の日々

濃子

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第16話 終わる日々 

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若い頃の立夏はよく食べた。明兎が食べないだけだ、と何回言われたかわからないが、毎日何を作ろうか、料理サイトを長い間見ていたものだ。
 いまじゃ味噌汁しか飲んでくれないなんてーー。忙しいとはいえ外食ばかりの生活もやめさせなければならない、と明兎は思った。家に1日いるときはきちんとご飯を食べてくれるのだしーー。

 そのときに、「そうか向こうで料理して食べてもらえばいいんだ」と自然に思えた。

 考えれば日本で浮気を疑っていても無駄というものだ。単身赴任させているのは自分なのだから。
「どうかしたのか?」
 あまりにぼんやりしていたせいか、立夏が顔を覗きこんでいた。
「あー、うん。イタリア行こうかな、って……」
 言ってしまって明兎は、あっ、ともらした。つい言ってしまったが、決断が遅いやつだと呆れられてはいないだろうかーー。
「んっ!」
 明兎の予想とは違い、まずは唇を塞がれた。キスは深く、ベッドの中でするようなこゆいキスだ。
「り、立夏…」
「アキト!すぐに行こう!」
「あー、でも……」
「何だ?」
「この家はどうするの?」
「フルリフォームして快青に渡す。葉鳥がここを欲しいらしい」
 明兎は目を丸くした。
「……ごめんね。兄弟みんな図々しくて……」
 葉鳥ーー、と恥ずかしい思いに明兎はかられた。快青も早く自分を追い出したかったわけか。
「家の設計図を作ろう」
「ここで?」
「あっちに決まっているだろう。実際見ないとなー、俺が住んでいるappartamentoでしばらく生活しよう」
 ご機嫌な立夏は明兎の頬にいつまでもキスをしてくる。
「う、うん。ありがとう。立夏……」
「なんだ、その顔は何か不満がありそうだな」
 立夏が目を細めて問う。
「いや、あんな陽気な国で僕がやっていけるかな、って、不安はあるよ」
「陽気じゃない奴だっているさ」
 嬉しそうに立夏は冷蔵庫からビールを出した。
「飲み過ぎちゃダメだよ」
「はいはい」

 

 そして、現在二人は急いで荷造りをしている。家電は葉鳥が見に来て、いるものいらないものとわけてくれた。いらないものはリサイクルショップか、鉄なら良い値で引き取ってくれる場所に持っていくそうだ。
「自転車とか、前にエアコン持っていったら室外機がいい値になったわよ」
 頼もしい妹だ。趣味で大型免許を取るようなバイタリティがある。
「お母さん、いまの施設気に入っているみたい。若い男の職員さんは嫌がってるけど」
 葉鳥の言葉に明兎は苦笑した。
「本当にありがとう。葉鳥。お母さんのこと頼みます」
「いえいえ、たまに会いに行くだけよ。それより、この家、リフォームまでしてもらえるんだし、お安いもんよ」
 葉鳥はウインクした。


「ねえ、お兄ちゃん。快青がよけいなこと言ったでしょ?」
 立夏が電話をしながら、「コンビニに行ってくる」と出て行き、葉鳥は明兎に話を振ってきた。
「え?あー、」
「快青がへこんでたから、お兄ちゃんなら気にしないわよ、って言ったんだけど」
 明兎は、そうだね、と相槌を打つ。

「それで浮気しないんなら、仕方ないわよね」

 葉鳥の言葉に明兎は固まった。葉鳥は自分が知っていると思っている?
「ーーえ、えっと……。結構、みんな知ってるの?」
 明兎は考えながら言葉を出した。
「ああ、っと」
 葉鳥は気まずそうに口ごもり、やがて諦めたように溜め息をついた。
「かなり前に、酔ったマリオさんが会社のパーティーでしゃべっちゃったみたいよ」
「えっ?」
「だから、古い社員は知ってるかもね。もちろん画像は誰も見たことないわよ。ただ、立夏さんが否定しなかっただけ」
「そ、そう」
 画像ーー。
「嫌な人は嫌だろうけど、あたしは何も思わないかなぁ。たまにフラれた腹いせに拡散されるとか聞くけど、えげつない話よね」
「………」
 なんとなく話の内容的にあっち系の画像なのだろうな、と明兎は推測した。
 それも、考えたくはないが、自分のなのだろうーー。 
 葉鳥は、「今度は2tトラックで来るわ」、と言って帰って行った。
「立夏がーー……、僕の……画像をもってるから……」

 別れる?

 そうなるかなー?、と明兎は首を捻った。




 遅がけに玄関のチャイムが鳴った。明兎が立ち上がろうとして立夏にとめられる。
「俺が出るから」
 インターフォンに映っている人物は、明兎の弟の総馬だ。
「立夏……」
「そこにいろ」
 強く制され明兎はその場から動けなくなった。


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