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第8話 ワカメと豆腐
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「お母さん、わがままでねー。職員さんに愛想つかされてるの」
「ーーそうなんだ」
明兎は悲しそうに返事をした。
「せっかくいいところに入れてもらってんのにー、友達の義両親なんか羨ましがってるよ」
「うんー」
「葉鳥のお兄ちゃんのスパダリが入れてくれたんだってー、って言ったら、うちの息子もスパダリに見初められないかしら、って言われたって」
友達もね、あんたの息子じゃ無理だよ、って突っ込んだって、面白いでしょー、と葉鳥は大声で笑った。明兎は苦笑をもらしながら話を聞いている。
自分の妹なのに、葉鳥はとても美人だ。義弟になる快青も何年たってもベタ惚れだという。
今日は休みだからと、子守りに来てくれている。彼はファミレスのキッズコーナーで、明兎には姪にあたるみつばの面倒を見ている。
「もう。身体も悪いんだから、おとなしくして欲しいわよね」
葉鳥が頬を膨らませた。
「ーーごめんね、葉鳥。僕が面倒をみなきゃならないのに……」
「お兄ちゃんと絶縁したのはお母さんでしょ?あんだけあたし達放ったらかしにして、男と別れたらすり寄ってきて、まともな仕事もできないのに、なんでお兄ちゃんや立夏さんにあそこまで言えたのか、あたしは謎だわ」
立夏さんなんて誠実すぎるし、お兄ちゃん大好きだし、言うことないのにーー。
葉鳥はたまにしか会わない立夏の姿を思い出してにやける。
「いいわー。最高のお兄様よねー。この間みつばの誕生日に、ブランドの服とドレスもらったのよ」
「ええ?僕のより高いんじゃ?」
3000円のキャラクターのおもちゃだったがー。
「お兄ちゃんと桁が違ったわ」
うふふっ、と葉鳥は笑う。明兎は頭を押さえた。
「ーーお母さんも家電とかもらってるよ」
明兎は目を見開いた。
「当然だって思ってるの、あの人。自分の息子の人生狂わせたんだから、やってもらって当然なんだって」
葉鳥がストローでジュースを飲んだ。
「ああは、なりたくないわね。同じ血が流れてるのも迷惑」
明兎は項垂れた。
「お兄ちゃん、お母さんのことは忘れてもいいんだよ。どうせお兄ちゃんやあたしより、総馬のほうが好きなんだから」
10離れた弟の総馬は父親が違う。しかも、同性を伴侶にしている明兎のことを毛嫌いしているため、会うことはない。
「家族みんな仲良くって、やっぱりお母さんが大事よね」
みつばが歩いてきて葉鳥に抱きついた。
「パパねー、ウーちゅうぶ見てる~」
かわいらしい言い方に明兎は笑った。
「ねっ、かわいいでしょ?お兄ちゃんの姪っ子。来年お腹の子が生まれたら、立夏さんいないときは手伝いに来てね」
「うん。わかった。身体に気をつけてね」
快青くんがバツが悪そうな顔で席に座る。
「もう!」
「ごめんー」
両手を合わせて彼は謝った。
家に帰ると着信に気づいた。30分前、立夏からだ。
出るかわからないがかけ直す。
『アキト』
「ごめん!気づかなくて」
『何をしていたんだ?』
「うん。葉鳥と会ってた。みつばに誕生日プレゼント贈ってくれたんだってね。ありがとう」
『喜んでもらえたか、それはよかった』
心なしか声が柔らかくなった。
「お母さん、具合は良くないらしいんだけど、それよりも職員さんにわがままばかり言ってるんだって。本当に申し訳ないよ……」
明兎が言うと電話の向こうが静かになった。
「立夏?」
『ーーそうか、施設に合っていないのかもしれないから、今度見に行くか』
「そんな!ごめん!お母さんのわがままだから!」
申し訳なさに明兎は恐縮した。
『明日の午前中、1時間ぐらいなら』
「え?」
足音が聞こえ振り向くと立夏が立っていた。風呂もすませたのか部屋着を着ている。
明兎が抱きつくと、立夏は明兎を強く受けとめキスを交わす。
「なんで?」
「また通知を見ていないんだな。昨日の夜、飛行機に乗ったと連絡しただろ」
そうだったかなー。明兎はスマホを確認するが、連絡がない。
「ないよ」
「うん?」
立夏がスマホをいじる。眉をしかめた。
「送信ミスだな」
ふふっ、と明兎が笑う。
「今日は何の味噌汁がいいかなー」
「豆腐がいい」
立夏の言葉に明兎は頷いた。
「買い物行ってくる」
「ついていこう」
「ーーバイクで行くから……」
「車のほうが早い」
「家で待ってて!」
「早く来い」
明兎は押し切られ赤いランボルギーニの助手席に乗せられた。
「助手席はアキトの席なんだから、乗らないとこいつがかわいそうだろ?」
明兎は真っ赤になりながら助手席に座る。助手席が右側だから、自分が運転してるみたいに見られないだろうか。しかも、視線が低い。
立夏が始動ボタンを押す。ウワーンと快音がなる。
ああー、今日もすごい音だー。恥ずかしい。
これがカッコいいなんて、唯一ここだけは立夏と合わない、明兎は思う。
「イタリアのほうが走れるから、今度行くときは父の、true beast、を借りよう」
「ビースト?」
「ウラカンSTO、真の野獣だ。まあ、オレのほうが本物の野獣だけどな」
ドキッとする目で見つめられる。
もう、心臓に悪い。
見つめ返すとキスをされる。車庫のシャッターが開いてるから、散歩してる人見てるんだけどーー。明兎は赤面してシートに沈んだ。
スーパーで買い物をして駐車場に戻ると、立夏の車の両隣だけ空いていた。他はびっしりと車が停まっているのに。
「高級車あるあるだね」
「誰もいちゃもんなんかつけないけどな」
2人は笑った。
「はい、豆腐とワカメのシンプルな味噌汁だよ」
「ありがと」
置かれたお椀を持ち上げる。
「ーー普通に美味いな、安心する味だ……。飲んだらベッドに行くぞ」
「う、うん」
大好きーー、明兎は赤くなった。
「ーーそうなんだ」
明兎は悲しそうに返事をした。
「せっかくいいところに入れてもらってんのにー、友達の義両親なんか羨ましがってるよ」
「うんー」
「葉鳥のお兄ちゃんのスパダリが入れてくれたんだってー、って言ったら、うちの息子もスパダリに見初められないかしら、って言われたって」
友達もね、あんたの息子じゃ無理だよ、って突っ込んだって、面白いでしょー、と葉鳥は大声で笑った。明兎は苦笑をもらしながら話を聞いている。
自分の妹なのに、葉鳥はとても美人だ。義弟になる快青も何年たってもベタ惚れだという。
今日は休みだからと、子守りに来てくれている。彼はファミレスのキッズコーナーで、明兎には姪にあたるみつばの面倒を見ている。
「もう。身体も悪いんだから、おとなしくして欲しいわよね」
葉鳥が頬を膨らませた。
「ーーごめんね、葉鳥。僕が面倒をみなきゃならないのに……」
「お兄ちゃんと絶縁したのはお母さんでしょ?あんだけあたし達放ったらかしにして、男と別れたらすり寄ってきて、まともな仕事もできないのに、なんでお兄ちゃんや立夏さんにあそこまで言えたのか、あたしは謎だわ」
立夏さんなんて誠実すぎるし、お兄ちゃん大好きだし、言うことないのにーー。
葉鳥はたまにしか会わない立夏の姿を思い出してにやける。
「いいわー。最高のお兄様よねー。この間みつばの誕生日に、ブランドの服とドレスもらったのよ」
「ええ?僕のより高いんじゃ?」
3000円のキャラクターのおもちゃだったがー。
「お兄ちゃんと桁が違ったわ」
うふふっ、と葉鳥は笑う。明兎は頭を押さえた。
「ーーお母さんも家電とかもらってるよ」
明兎は目を見開いた。
「当然だって思ってるの、あの人。自分の息子の人生狂わせたんだから、やってもらって当然なんだって」
葉鳥がストローでジュースを飲んだ。
「ああは、なりたくないわね。同じ血が流れてるのも迷惑」
明兎は項垂れた。
「お兄ちゃん、お母さんのことは忘れてもいいんだよ。どうせお兄ちゃんやあたしより、総馬のほうが好きなんだから」
10離れた弟の総馬は父親が違う。しかも、同性を伴侶にしている明兎のことを毛嫌いしているため、会うことはない。
「家族みんな仲良くって、やっぱりお母さんが大事よね」
みつばが歩いてきて葉鳥に抱きついた。
「パパねー、ウーちゅうぶ見てる~」
かわいらしい言い方に明兎は笑った。
「ねっ、かわいいでしょ?お兄ちゃんの姪っ子。来年お腹の子が生まれたら、立夏さんいないときは手伝いに来てね」
「うん。わかった。身体に気をつけてね」
快青くんがバツが悪そうな顔で席に座る。
「もう!」
「ごめんー」
両手を合わせて彼は謝った。
家に帰ると着信に気づいた。30分前、立夏からだ。
出るかわからないがかけ直す。
『アキト』
「ごめん!気づかなくて」
『何をしていたんだ?』
「うん。葉鳥と会ってた。みつばに誕生日プレゼント贈ってくれたんだってね。ありがとう」
『喜んでもらえたか、それはよかった』
心なしか声が柔らかくなった。
「お母さん、具合は良くないらしいんだけど、それよりも職員さんにわがままばかり言ってるんだって。本当に申し訳ないよ……」
明兎が言うと電話の向こうが静かになった。
「立夏?」
『ーーそうか、施設に合っていないのかもしれないから、今度見に行くか』
「そんな!ごめん!お母さんのわがままだから!」
申し訳なさに明兎は恐縮した。
『明日の午前中、1時間ぐらいなら』
「え?」
足音が聞こえ振り向くと立夏が立っていた。風呂もすませたのか部屋着を着ている。
明兎が抱きつくと、立夏は明兎を強く受けとめキスを交わす。
「なんで?」
「また通知を見ていないんだな。昨日の夜、飛行機に乗ったと連絡しただろ」
そうだったかなー。明兎はスマホを確認するが、連絡がない。
「ないよ」
「うん?」
立夏がスマホをいじる。眉をしかめた。
「送信ミスだな」
ふふっ、と明兎が笑う。
「今日は何の味噌汁がいいかなー」
「豆腐がいい」
立夏の言葉に明兎は頷いた。
「買い物行ってくる」
「ついていこう」
「ーーバイクで行くから……」
「車のほうが早い」
「家で待ってて!」
「早く来い」
明兎は押し切られ赤いランボルギーニの助手席に乗せられた。
「助手席はアキトの席なんだから、乗らないとこいつがかわいそうだろ?」
明兎は真っ赤になりながら助手席に座る。助手席が右側だから、自分が運転してるみたいに見られないだろうか。しかも、視線が低い。
立夏が始動ボタンを押す。ウワーンと快音がなる。
ああー、今日もすごい音だー。恥ずかしい。
これがカッコいいなんて、唯一ここだけは立夏と合わない、明兎は思う。
「イタリアのほうが走れるから、今度行くときは父の、true beast、を借りよう」
「ビースト?」
「ウラカンSTO、真の野獣だ。まあ、オレのほうが本物の野獣だけどな」
ドキッとする目で見つめられる。
もう、心臓に悪い。
見つめ返すとキスをされる。車庫のシャッターが開いてるから、散歩してる人見てるんだけどーー。明兎は赤面してシートに沈んだ。
スーパーで買い物をして駐車場に戻ると、立夏の車の両隣だけ空いていた。他はびっしりと車が停まっているのに。
「高級車あるあるだね」
「誰もいちゃもんなんかつけないけどな」
2人は笑った。
「はい、豆腐とワカメのシンプルな味噌汁だよ」
「ありがと」
置かれたお椀を持ち上げる。
「ーー普通に美味いな、安心する味だ……。飲んだらベッドに行くぞ」
「う、うん」
大好きーー、明兎は赤くなった。
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