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第7話 さつまいも
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イチョウの剪定も終わり、他の樹木もついでにやってもらう。
「これから年末まで暇がないんで、ちょうどこの時期でよかったですわ」
門倉造園の社長は腰が低く、有名な庭で修行したこともあるそうだ。
「あのー、坂下造園って知ってます?」
社長は眉をしかめた。
「あそこは代が移ってから評判が落ちましたな。なんでも客に手を出すとか…」
うちは老舗の看板がありますから、絶対にそんなことはありません、と社長は自信をもって言った。
「若い者もよくやるんですよ」
社長が太鼓判を推す若い3人が、よく動いている。庭は車が入れないから、剪定された木を担いで外に持っていくのだが動きが早い。
「いま掃除してるのが駒井、今年入ったばかりのまだ19歳なんです。その上が田村20歳、ちょっと先輩が楠元25歳、なんとか続けてくれてます」
昨今は暑さ対策が大変ですよ。社長は最新の空調服の話などしてくれるのだが、明兎にはちんぷんかんぷんだった。
「ありがとうございました」
仕事が終わると社長達は帰って行った。
「こんなお菓子でよかったのかな」
空になった皿を見て明兎は首を傾げる。人をもてなすのは難しい。
庭はきれいになったが請求金額はなかなかのものだった。明兎も仕事をがんばらなければ。
「あれ?」
庭を歩くと、石の脇に小さい鋏が置かれていた。
「忘れ物かな」
電話しておこうと鋏を取り上げる。そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
出てみると門倉造園の楠元という男だった。寡黙そうな男は、明兎に尋ねた。
「すみません、鋏を忘れてしまって……」
「これですか?」
明兎は見つけていた鋏を見せる。
「ーーそうです。ありがとうございます」
門倉は頭を下げた。だが、明兎の耳にかすかに舌打ちが聞こえた。
嫌な態度だと明兎は警戒した。門倉はつまらなさそうに、鋏を受け取り帰って行った。
まさか、あの人ー。
泥棒なのか、坂下のような人間なのか、何にせよ意図的に鋏を忘れたように見えた。今後出入りしてもらうのはやめておこう。
むやみに人を疑うのはよくないけど。用心はしなければ。
立夏が帰宅しその話をすると、彼は頷いた。
「完全に狙ったな。社長に話しておく」
「ごめん、こんなんばっかりで……」
「仕方がない、アキトは魅力的だからな」
それは違うと思うのだけど。
「僕には立夏しかいないよ」
キスをねだったのに立夏はしてくれなかった。間抜けな自分をごまかすように、明兎は元気に動こうとした。
ふいに、腕を立夏につかまれる。
「アキト、おまえはオレの何を疑っているんだ?」
強い視線にぶつかり、明兎は身を竦めた。
「この前といい今といい、何かを疑っている言い方だよな」
明兎は立夏の目を見ることができなかった。追求して事実だったら、どうしたらいいのか。
「あ、えっと…」
「何か確信があるんだろう」
尋ねられたが、明兎はなかなか疑いを口にだせなかった。
黙っていても駄目なのにーー。
こういうとき立夏はひたすら待つ。答えが出るまで動かない。そうすると明兎は根負けするからだ。
告白もそうだ。
ひたすら押した。頷くまで逃さなかった。セックスだってそう。卒業祝いに抱かせてくれ、と宣言しておいて、当日は自分の家に連れて帰り、それから何日も家に帰さなかった。それで明兎の母親には関係がバレたのだが。
「あ、たいしたことじゃなくて……」
明兎が俯いたまま話しだす。
「イタリアから帰ってくると、立夏の、しゃ、シャツが知らない匂いがする、からーー」
立夏は正直、ふーん、と言いたかったのだが、明兎の真剣に悩んでいる様子に溜め息をついた。
「イタリアの女性は、パルファンだからな」
明兎は顔をあげ目を丸くして立夏を見た。
「オレもだが、うちの社の女性もだいぶきついぞ。あっちは朝シャワーで香水、夜は香水シャワーのみだからな。同じ室内にいたら混ざるんじゃないか?」
「………」
「オレの臭さじゃないのか?」
違うような気はするけどーー、立夏にはたしかに元々の匂いはあるが明兎が好きな匂いだ。
「どうせ、あれじゃないのか?」
「あれ?」
「おっさん臭だよ。やっぱり夜入らないと臭いのかもな。日本にいるときは臭わないだろう?」
明兎は頷いた。立夏が、やれやれ、という顔をした。
「まあ、アキトが気になるようじゃ、肉も減らさないとな」
潔く後ろ暗さもない姿に、明兎は顔を赤らめた。
「オレが愛しているのも一緒にいたいのもアキトだけだ。おまえが一生一緒にいると誓ったのもオレだけだろ」
誓いのキスのように立夏は明兎に優しいキスをした。
「う、うん。ありがとう、立夏ー」
まったく、疑われるほうもつらいんだがな、立夏は思う。
「今日はさつまいもを入れてみたんだ」
「さつまいもなら豚汁がいい」
立夏は味噌汁を飲んで、笑う。
悪くはないな。
「そう?なら次帰ってきたら作るね」
明兎の笑顔に、立夏はくるものを感じた。
本当にオレのアキトはかわいいヤツだなーー。
「これから年末まで暇がないんで、ちょうどこの時期でよかったですわ」
門倉造園の社長は腰が低く、有名な庭で修行したこともあるそうだ。
「あのー、坂下造園って知ってます?」
社長は眉をしかめた。
「あそこは代が移ってから評判が落ちましたな。なんでも客に手を出すとか…」
うちは老舗の看板がありますから、絶対にそんなことはありません、と社長は自信をもって言った。
「若い者もよくやるんですよ」
社長が太鼓判を推す若い3人が、よく動いている。庭は車が入れないから、剪定された木を担いで外に持っていくのだが動きが早い。
「いま掃除してるのが駒井、今年入ったばかりのまだ19歳なんです。その上が田村20歳、ちょっと先輩が楠元25歳、なんとか続けてくれてます」
昨今は暑さ対策が大変ですよ。社長は最新の空調服の話などしてくれるのだが、明兎にはちんぷんかんぷんだった。
「ありがとうございました」
仕事が終わると社長達は帰って行った。
「こんなお菓子でよかったのかな」
空になった皿を見て明兎は首を傾げる。人をもてなすのは難しい。
庭はきれいになったが請求金額はなかなかのものだった。明兎も仕事をがんばらなければ。
「あれ?」
庭を歩くと、石の脇に小さい鋏が置かれていた。
「忘れ物かな」
電話しておこうと鋏を取り上げる。そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
出てみると門倉造園の楠元という男だった。寡黙そうな男は、明兎に尋ねた。
「すみません、鋏を忘れてしまって……」
「これですか?」
明兎は見つけていた鋏を見せる。
「ーーそうです。ありがとうございます」
門倉は頭を下げた。だが、明兎の耳にかすかに舌打ちが聞こえた。
嫌な態度だと明兎は警戒した。門倉はつまらなさそうに、鋏を受け取り帰って行った。
まさか、あの人ー。
泥棒なのか、坂下のような人間なのか、何にせよ意図的に鋏を忘れたように見えた。今後出入りしてもらうのはやめておこう。
むやみに人を疑うのはよくないけど。用心はしなければ。
立夏が帰宅しその話をすると、彼は頷いた。
「完全に狙ったな。社長に話しておく」
「ごめん、こんなんばっかりで……」
「仕方がない、アキトは魅力的だからな」
それは違うと思うのだけど。
「僕には立夏しかいないよ」
キスをねだったのに立夏はしてくれなかった。間抜けな自分をごまかすように、明兎は元気に動こうとした。
ふいに、腕を立夏につかまれる。
「アキト、おまえはオレの何を疑っているんだ?」
強い視線にぶつかり、明兎は身を竦めた。
「この前といい今といい、何かを疑っている言い方だよな」
明兎は立夏の目を見ることができなかった。追求して事実だったら、どうしたらいいのか。
「あ、えっと…」
「何か確信があるんだろう」
尋ねられたが、明兎はなかなか疑いを口にだせなかった。
黙っていても駄目なのにーー。
こういうとき立夏はひたすら待つ。答えが出るまで動かない。そうすると明兎は根負けするからだ。
告白もそうだ。
ひたすら押した。頷くまで逃さなかった。セックスだってそう。卒業祝いに抱かせてくれ、と宣言しておいて、当日は自分の家に連れて帰り、それから何日も家に帰さなかった。それで明兎の母親には関係がバレたのだが。
「あ、たいしたことじゃなくて……」
明兎が俯いたまま話しだす。
「イタリアから帰ってくると、立夏の、しゃ、シャツが知らない匂いがする、からーー」
立夏は正直、ふーん、と言いたかったのだが、明兎の真剣に悩んでいる様子に溜め息をついた。
「イタリアの女性は、パルファンだからな」
明兎は顔をあげ目を丸くして立夏を見た。
「オレもだが、うちの社の女性もだいぶきついぞ。あっちは朝シャワーで香水、夜は香水シャワーのみだからな。同じ室内にいたら混ざるんじゃないか?」
「………」
「オレの臭さじゃないのか?」
違うような気はするけどーー、立夏にはたしかに元々の匂いはあるが明兎が好きな匂いだ。
「どうせ、あれじゃないのか?」
「あれ?」
「おっさん臭だよ。やっぱり夜入らないと臭いのかもな。日本にいるときは臭わないだろう?」
明兎は頷いた。立夏が、やれやれ、という顔をした。
「まあ、アキトが気になるようじゃ、肉も減らさないとな」
潔く後ろ暗さもない姿に、明兎は顔を赤らめた。
「オレが愛しているのも一緒にいたいのもアキトだけだ。おまえが一生一緒にいると誓ったのもオレだけだろ」
誓いのキスのように立夏は明兎に優しいキスをした。
「う、うん。ありがとう、立夏ー」
まったく、疑われるほうもつらいんだがな、立夏は思う。
「今日はさつまいもを入れてみたんだ」
「さつまいもなら豚汁がいい」
立夏は味噌汁を飲んで、笑う。
悪くはないな。
「そう?なら次帰ってきたら作るね」
明兎の笑顔に、立夏はくるものを感じた。
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