味噌汁と2人の日々

濃子

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第5話 バターとコーン

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「アキト、大丈夫か?」
 どうしていいかわからないといった表情で明兎はソファに座っていた。優しく抱きしめてキスをする。
「んっ」
 明兎が自分を求めるように応じてくる。抱きしめながら立夏は言った。
「オレがいないときになぜ人を呼んだんだ?」
 それはするなと言っていたはずだ。
 立夏に睨まれて明兎は下を向いた。
「あいつに抱かれたかったのか?」
「そんなわけない!」
 立夏の言葉に明兎は必死で頭を振った。
「本当に違う!違うから!庭を見せてって言われただけでーー、ごめん、ごめんなさい……」
 明兎は何度も謝った。涙が溢れ出す。
 
 お願い、捨てないでーー……。

 泣きながら明兎は立夏にすがりついた。
「わかってる。アキト、用意をしてきて」
「う、うん」
 
 明兎が行為の用意に行くと、立夏は棚にあるウイスキーを取り出した。グラスに水と氷をいれてよく冷やしそれを捨て、また大きめの氷を入れてウイスキーを注いだ。
「昼間から酒とは、贅沢だな」
 ゆっくり飲みながら明兎を待つ。スマホを確認すると父からの着信と怒りのメールが何十件も入っていた。
 つまらなさそうにそれを閉じ、机の上に置いた。

「ごめん、遅くなってーー……」
 パジャマを着て明兎があらわれた。バスタオルだけでよかったのに、と立夏は思った。
「いいよ。時間はたっぷりあるから。夜には味噌汁を作ってくれ」
 立夏の言葉に明兎は嬉しそうに頷いた。



 明兎は冷凍してあったコーンを使って、バター入りのコーンの味噌汁を作った。
「ごめん、明日買い物に行こうと思っててー」
 こんなんしかできなかったけど、と明兎は落ち込んだ。
「いや、うまいよ」
 トウモロコシは好きだし、と立夏は続けた。

「アキトはもう少し地味な服を着て野暮ったくして欲しい」
「え?」
 どういう意味なんだろ、明兎は立夏の真意がわからず首を傾げた。
「オレがいないときはそうして。伊達メガネしてもいいから」
「わかったー」
 意味はわからないけど、明兎は頷いた。


 日本の高校へ転入して立夏は驚いたものだ。理想の女神デアが教室にいたのだから。
 俯いていつも自信なさげにしている明兎の、愛らしい容姿にすぐに立夏は虜になった。しかも、誰も彼にアタックするものがいないのだ。当時は不思議で仕方なかったのだが、敵はいないにこしたことはない。

「本当にごめんね、仕事大丈夫だった?」
 歳をとっても変わらない好みの容姿。ベッドで横になりながら、立夏は明兎の髪の毛を撫でていた。
「Ti voglio bene…」
 大好きだよ、立夏が囁く。
「あー、僕も大好き…」 
 少しずつイタリア語を勉強していると言っていたがいい傾向だ。立夏は微笑んで、それから凍るような冷たい目になった。
 明兎の顔がこわばった。
「アキト、オレを疑ってるのか?」
「え?」
「オレが浮気してるって、坂下に言ったのか?」

 心臓がどくどくする。

 明兎は声も出せずに、立夏の青い目を黙って見ていた。口の中が妙に乾く。
「疑うぐらいならなぜイタリアに来ない。オレはすぐにでも連れていきたい」
 情熱的に抱きしめられ、明兎は降るキスに目を閉じた。
「アキトこそ、こっちで浮気相手がいるんじゃないのか?だから返事ができない」
 決めつけられて明兎は首を振った。
「そんなこと絶対にない!僕には、僕には立夏しかいないー!」
 真剣に言ったが、立夏は鼻で笑った。
「どうだか。まあいい、身体に聞いたほうが早そうだ。乗って」
 明兎は頷いた。顔を真っ赤にしながら立夏の上にゆっくりとまたがる。
「アキトはいくつになってもかわいいな」
 オレの天使、と立夏は言い身を起こして彼を抱きしめ、たっぷりキスをした。
「オレ以外に足を開くんじゃないぞ」
 耳もとで囁くと、明兎はゾクゾクきたのか身を震わせた。
「う、うん。絶対しない……」
 
 僕は・・絶対しないーー、本当に今日はごめん……。
 
 明兎の言葉を聞き、立夏は少し苦い表情をした。もっとも、行為に没頭する明兎は気づかなかったのだがーー…。
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