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第13話 しょせん顔か。☆

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「サキナ様、お久しぶりです」
「久しぶりエアロ。テレゼをありがとう」
「とんでもない!新たな大公の華になりそうな美しい赤ちゃんですよ」
 昔から知る執事見習いのエアロとムシュカ。赤子の世話も彼らの仕事になるのか。
 たしかに身元や教育がしっかりしていない者に、赤子の世話は任せられないわねーー。
「ねえ、エアロ。セリは帰ってきたりする?」
 サキナは大好きな従兄弟のことを尋ねた。エアロは真面目そうな顔をしかめ、小さく首を振った。
「いえ、一度も……。我々も案じております」
「そう……。手紙を書いても返事をくれないんだ」
「あー」
 2人は顔を見合わせた。
「噂では、御子ができないので、気に病んでおられるそうで……」
「よく知ってるわね」
「マキラ様が、言いふらしていました」

 あんのあほ、個人情報はべらべらしゃべるな。

「そう……。会いに行こうかな」
「え?そのお身体で?」
「せめて、安定期に入ってからでいいのでは?書簡を送りますから」
「そうだね。ありがとうー」
「ーー何だかサキナ様は変わられましたね…」
「え!」
「いや、たくましくなられました」
「以前は本当に、大公の華と言われるにふさわしい可憐な雰囲気でしたが、いまはお腹様としての強さを感じますね」
「え?そうかなー」
 すまん、別人なのよーー。
 誰にも言える話ではないないけれども、サキナとしてしか生きていけなくなったから、生きているだけだ。
「セリのところに行くときはテレゼを置いていくので、すみませんがよろしくお願いします」
 サキナは頭を下げた。エアロとムシュカは、「喜んで!」「まかせてください!」と笑顔で言ってくれた。
 テレゼよ、世話をしない母(あっ、お腹様はらさまか)でごめんねーー。


 数週間後、迷惑な旦那がサキナを尋ねてきた。
「何です?」
 夕食後、テレゼの寝返りを楽しんでいたサキナは、急な訪問に目をつりあがらせた。
「私が悪かった。別れるなんて言うな」
 何だろう。台詞はかっこいいのにムカつくだけだ。
「で、愛人のお金問題はどうなりました?」
「次に来たら裁判になると言えば来なくなった」
「あらー、あの子もアホですね。裁判って領地の裁判は旦那様が執り行なうんじゃありませんか?」
 領内で起きた犯罪の裁判は領主の仕事のはずだ。裁判に必要な公文書の作成は司祭。
 そこに気づかないとはーー。
「何と言いますか、他にもっと賢い子いたでしょうに」
「いや、顔が好みで」
「なら、なぜ私が嫁いだときに、ほっといたのですか?私はノエルより容姿に自信がありますよ」
 きつく言ってやるとエドアルドは困ったように下を向いた。
「ーー私は元々大公派ではない」
 ああ、そうか。サキナは思い出した。
 エドアルドはラース大公のライバルだったヘブリース大公派の人間だ。ヘブリース大公家は後継者不足で取り潰しになり、そこもラース大公の領地になった。  
そのとき、ヘブリース大公の家来たちもラース大公の懐に入ることになったのだ。
「領地もそのままで、ありがたいことなのだがーー」
「そうですか。祖父への反抗でしたか……」

 だからなんじゃい。奥さんほっといて愛人と楽しむ理由にはならんわ。サキナはこちとら死んでんじゃい。

「で、エドアルド様は何しにこちらへ?」
「それは、おまえが心配でーー」
「どうしてです?」
「おまえの弟は?」
「ああ。寄宿舎へやられたそうです。今度は邪魔が入らず一安心ですよ」
 テレゼがすやすやと眠りだした。
 あらま、何というできた子!
 親友の家に招かれたとき、赤ちゃんを抱きながらクマを盛大に作ったよっこちゃんに、「寝てる?」、と聞いたところ、「座りながら寝てて旦那に起こされる」、とか言ってたから子育てって過酷なのね、って思ってたけど。
 ちょうどあの赤ちゃんも6ヶ月で、結婚式は出席できるよーって言ってくれてたのに。よっこちゃん、元気にしてるかしら。出産祝いして家に呼んでくれたのあんただけよ。後の友達はなぜか既読スルーよ、あたしって友達いなかったんだわ。
 考えても仕方ないかー。

 サキナは気持ちを切り替えて、テレゼをベビーベッドに寝かせた。落下防止の柵を立てて、テレゼの頭を数回撫でた。
「ーーいい光景だな」
「そうですかー……。ん?何ですー」
 エドアルドがサキナを抱きしめ服を脱がしていく。
「負担はかけない……」
 そういう問題ではない。
 払おうとした手を掴まれ、指を絡められる。
「やめてください」
 きっぱりと言ったがエドアルドはとまらなかった。
「これでは強姦です!」
「誰が犯罪者だ」
 あんただよ。
「すぐに終わるーー」
 あんたわね。

 エドアルドに伸しかかられキスをされる。
 ーーキスって顔が近くてドキドキするものだけど、ここまで何も思わない相手って逆にどうなんだろ。
 サキナの秘部をエドアルドは自分のもので強引にほぐしていく。息づかいの荒さが純粋に気持ち悪く感じる。なんでサキナはここまで我慢しなければならないのだろう。押しのけて引っ叩いたら気持ちがいいのにーー。

 それができないのはやはり、サキナの中の祖父への恐れだ。ナディアを失望させたくはないという強い思い。いや、呪縛のようなものだ。

 何度も何度も中に出され、いい加減嫌になったところで、エドアルドが身体を離した。彼は手早く服を着た。  
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