アレが欲しいだけですの。 ー愛人から旦那様を寝取る目的はひとつですー

濃子

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第8話 非情なる現実

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 8ヶ月で生まれたサキナの子供は、奇跡的に身体に異常はなく元気に産まれてくれた。額には3つの花びらのアザ花をつけてーー。




 わかってはいたことだが、祖父ナディアは非情だった。
「3ヶ月経ったからおまえはエドアルドのところに戻りなさい。テレゼは置いて」
 その言葉にサキナは目の前が真っ暗になった。
「ーー嫌です。テレゼは連れて帰ります」
「大公領で育てる」
「お祖父様!」
「おまえのおはらもそうした、他の者もだ。子供が欲しければまた産め」
 どれだけ頼んでもナディアは意見を変えなかった。
 
 わかっていたのに、テレゼと別れるのがこんなにもつらいーー。
 たまに帰ってくるぐらいでは、自分のことなどすぐに忘れてしまうだろう。いや、3ヶ月で離されるのだ、親と思うわけがない。
 銀色の髪と銀色の目をもつ我が子は、最近表情が豊かになってきた。小さく産まれたのに、一生懸命育ってくれた。
「ううっ」
 最後の晩、サキナは泣き続けた。テレゼを抱きしめ声が枯れても泣き続けた。


「お兄様、領地帰られるんでしょ?」
 マキラに尋ねられる。
 サキナは小さく頷いた。
「アザ花種を産んだから、お祖父様の期待も跳ね上がるよね。いいなあー」
「ーー本当にいいと思う?」
 サキナの言葉にマキラはとまる。
「何思い上がってるの?お兄様。子供産むしか脳がないくせに。お兄様なんか、一生お祖父様の道具でしょ?」
 悪意あるマキラの顔に、サキナは目を細めた。

 エドアルドから、階段が滑りやすいように加工されていた、と聞いたときは信じられなかったが、彼ははじめからマキラの悪意を敏感に感じ取っていたらしい。
 腐ってもカリスマ軍人、もうちょっとしっかり止めろよ、という気分だがーー。

 彼にテレゼとは暮らせないことを告げると、覚悟はあったのかテレゼに頬を寄せたまま黙ってしまった。

 しばらくしてから「そうかーー、さみしいな」、ともらされ、サキナはまた泣いてしまった。あろうことか泣いているサキナをエドアルドは抱きしめた。
 おい!、と突っ込む元気もサキナにはなかった。
 だが、真剣な顔で「またつくろう」と言われたときは、はたこうかと思ったのだがー。


 久しぶりにエドアルドの領地に足を踏み入れた。
「こっちだ」
 エドアルドが本邸を指差すのを無視して、サキナは離れに向かった。
「おい!こっちだ!」
「ーー腐ったミルクはいりません」
 サキナは冷たく言った。エドアルドは、うっ、と言葉に詰まった。
「なら、離れの合い鍵を寄こせ」

 うっわー、夜くるきだよ。

 サキナは頭を抱えたい気持ちだ。こっちが赤子を無理やり取り上げられて悲しんでいるのに、この男はー。

 やることしか頭にないのかーい!

 サキナは目を吊り上げた。
「傷心の伴侶をいたわれないのですか?しばらくほっておいてください!」
 離れに走り去った。
「ちょっと待て!」
 なぜかすぐにつかまる。
 あれ?全力で走ったはずなのに、なんで?
 
 あっ、サキナは運動神経悪いんだわ。

 咲夜は疲れた顔をエドアルドに見せる。
「まだ愛人と仲直りしてないんですか?」
 エドアルドは答えなかった。
「23時だ、待っていろ」
 
 えーん!えーん!もう、最低だよ!




 これはもう、さっさと妊娠してやろう。テレゼのような可愛い天使なら何人でも産んでやろうじゃない。

 サキナは燃えた。

 ただ、問題は今回エドアルドに砦の勤務はない。何と終わったばかりらしい。これにはサキナは頭を抱える。

 最低でも2ヶ月、耐えねばならない。いや、町に出てノエルのような容姿の男をさがして、あてがってやろうか。
 それは名案だ。明日、町に行ってみよう。
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