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東堂の恋わずらい編
第23話 天使からの贈り物
しおりを挟む「トードォ、よかったな。除隊を撤回できて」
トルイストが安堵したように言うと、頬を膨らませた東堂は上官を睨んだ。
「なんすか!この振りまわされ感」
「いやいや、元を正せば悪いのはお前だ。確かに魔力器官は成長した。かなり魔力量も増えている。だが、結果としてお前はこの国からでなければならなくなる。もう少し考えたほうがよかったな」
「ーーなんで出なきゃならないんですか」
東堂はむくれる。
「ーー向こうが諦めていないからだ」
「何をっす?」
「ーーおまえの部屋、個人部屋になったぞ。行ってみろ」
「えっ?相部屋埋まったんですか?」
「違う意味で埋まった」
「?」
その謎は、すぐに解けることになったーー。
「な、なんじゃこりゃーーー!!!」
東堂の部屋はプレゼントの箱で埋め尽くされていた。
色とりどりの箱の中から、ひとつ開けてみる。タイトな黒のドレスがでてきた。
「えっ?」
「ーーアスラーン王太子殿下からだ。中はすべておまえに合うと国中が探した、、、ドレス、らしいーー」
トルイストが耐えきれずに吹きだす。
「ど、ドレスーー」
「あ、あぁ、、、、」
肩が小刻みに揺れている。
「な、何でなんだよぉぉぉ!返品してください!」
「自分でやれ」
「嫌だぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
「ーーアスラーン殿は本気みたいだな」
アダマスがため息をついた。
「ここまで大々的になってしまうと、トードォには普通の縁談話はこなくなる」
「可哀想にーー、父上が余計な事をリルハン陛下に教えるからーー」
珍しくクリステイルが足を組んでソファーに座っている。王の執務室なので行儀が悪くても、他の目がないからだろう。
「しかし、そんなにご執心だとはーー、何か深い理由があるのでは?」
姫が産まれて幸せいっぱいの王弟アスターが首を捻った。
「うーん。昔、あの子が怪我で亡くなりかけてから、リルハンも過保護になったな……」
「それほどの怪我ですかーー。ですが、そのとき、教皇は呼ばれていませんよね?」
「あっちの神官で何とかなったんだろ」
「はあ……」
兄上はいい加減だな、とアスターが目を細める。
「ーーそれはたぶんあれなんだよー」
と、アレクセイとともにラルジュナが部屋に入ってきた。
「おお、アレクセイ。トードォはどうだ?」
「プレゼントを前に泣いています」
「だろうなーー」
アダマスが我慢できずに吹きだす。
「あれとは?」
兄を気にせずアスターが話を進めた。ラルジュナは、意味ありげに口を開く。
「ーーこれは絶対に秘密にしといてね。バレたら消されるよ」
「ーーそ、そんな!」
アダマスが怯えるのを見て全員がしらけた眼差しを王に投げる。
「あのねーー」
「ーーそうか、それでトードゥならと、リルハン陛下は思われたのかーー」
「アリョーシャのパパが詳しく説明しちゃったからねー。世界聖女連盟で、アスラーンがトードォ君を気に入ったみたいだしー」
「気に入る?」
そんなときあったかなー?
アダマスとクリステイルが当時を思い返すが、思い当たる場面がない。
「あっ。世界聖女連盟、8月にするって言ってるけど、ルートどうなのー?」
アレクセイが頷いた。
「大丈夫だ。魔蝕も今年は少ないので、本人も退屈している」
「そう。平和で何よりだねー」
「ーーリルハン陛下も光明を得たような話だったのでしょうね。身体が相手に合わせて変わる、とはーー」
自分の子がそうならそれは必死になるな、とアスターがつぶやく。
「ーーヒョウマは向こうでもある事だから、普通のひとでも大丈夫って言ってるんだけど、やっぱり問題はあるそうなんだ。そう思うと、トードォ君が無難だよねー」
本人に、王太子妃になる気がさらさらないのだがーー。
アレクセイが美しい眉根を寄せた。
「ーートードゥはアスラーンの事を……」
「ああ、好きは好きだね。確実にーー」
でなければ、悩む事はない。
「ならば、、、」
「トードォ君は自分の子が欲しくないんだよ」
友の言葉に目を見張る。
「そうかーー」
「そう思うと、親って身勝手だよね」
「そうだな」
アレクセイが意味ありげな視線を父に向けた。
「つくった事にも気づかなかったって、超最低だよね」
「ああ」
「ママが亡くなってなかったら、アリョーシャどうなってたの?」
「そうだな。やはり、男娼か……」
アレクセイが言うと、アダマスは泣きそうな顔になる。
「それは確実に客の殺し合いが起きてたね」
大笑いしながら、ラルジュナが入り口に歩いていく。アレクセイも頭を軽く下げて、友に続いた。
「ーー絶対怒ってるな……」
「父上が悪いんでしょ?母上から逃げたいからって妓館に通い詰めて」
クリステイルが盛大なため息をつく。
「しかし、相変わらずヒョウマ殿は知識が豊富ですね」
「ーーおまえが結婚していれば……」
「聖女様と結婚しろと言われたり、ヒョウマ殿と結婚しろと言われたり、私も忙しい身ですね」
いい加減にしてくれ、と王太子は嘆いた。
それにしても、
「ーーいいな」
ラルジュナ様もアスラーン様も兄上と仲良しでうらやましいーー、とブラコンは思うのだ。
「全部見たー?」
魔法騎士団男子兵舎で片付け中の東堂の元に、きらきら王子様が応援にきた。
「ーー見るわけないでしょーー」
ぐだくだ泣きながらプレゼントの箱を邪魔にならないように廊下に出す。
「美花に転移してもらおうーー」
「えーー!中も見ず!?」
「ーーいらないっす、ドレスなんか……」
なんでそんなに驚いているのやら。
「ーーアジャハン国の民がキミに贈ったものなのに?」
「え?」
「ほら、見なよ。このラッピングなんかすごく丁寧にやってる。こういうのはねーー」
ラルジュナが赤い包み紙が巻かれた箱を開くと、中からは手紙と黒のワンピース、白いエプロンがでてくる。
『トードォさん。
これならきっとにおいます。おうたいしさまとしわあせになってください。うぇるすこじいんいちどお』
「これってーー」
「あいつの孤児院の子供達からだね」
「うぇるすーー」
「アスラーン・ウェルス・フィーリウス・ソーリス・ヴィーナ・ロディ・カリテ・タニグク・アジャハン、あいつの本名」
ーーなげぇ。
「殿下達そんなに長くないのに」
「ーー正式な名には時空竜の女神様の御名が入るため、言えないのだ」
「そうですかーー」
王族は大変なんだな。
「旦那になるんだから、覚えときなよ」
「ひどいーーー!見捨てないでください!俺は大隊長になるんだぁ!」
ラルジュナの動きがとまる。
何かを思案するように視線を上に向け、目を閉じた後、真正面から東堂を見た。
「ーーなら、なればいいんだよね?」
「アジャハンのじゃないです!」
「つまりは、結婚してもこっちにいたいわけだよね?」
「???」
何か、話が進んでいないか?
「よし!こうしよう。トードォ君、キミはこれから、この服を着てアスラーンの世話をするんだ」
「はい?」
「いい返事だね」
この服を贈った子供達も喜ぶだろう。
「違うっすーー!」
「もちろん、魔法騎士団の訓練もこなしながら。行ったり来たりになるだろうけど、転移魔法のコントロールにもなる。イメージしなくても行きたい場所に行けるようになると、上級者だよ」
「はあ……」
「ふたりの気持ちを確かめるんだ」
「ええっ!?」
何よ、そのロマンチックな感じはーー。
乙女東堂が悲鳴をあげる。
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