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東堂の恋わずらい編
第22話 アジャハン国動く
しおりを挟む『自分は確かにアスラーン王太子と恋仲ではあったが、王太子の妃というプレッシャー、さらには男児を産むことを義務づけられた事から精神的苦痛を感じ、今回の話を受けられなかった。』
、という東堂からの書簡に目を通し、アジャハン国王は納得し賠償金問題を取り下げた。
「ーーはっきり言い過ぎたね」
しまったな、とリルハンはつぶやいた。
「でも、これで彼の気持ちはよくわかった。アスラーンに好意はあるが、一緒になる事に不安を感じているのだね……」
そりゃあそうだろーー。
極秘事項を告げられた大公領主達は誰もが頷いた。
だが、アスラーンに後継がない場合、自分の息子を彼の妹姫に嫁がせ、後継ぎを作らなければならないのは大公領主達だ。何としても東堂に子供を産んでもらいたい、彼らの心はいまひとつになろうとしている。
ダイナ(プルウィア領大公領主)が他の5人を意味ありげに見る。ヴァッキ(ハリマ領大公領主)、ブーリ(ジャンラ領大公領主)、ナブラ(ダッカマ領大公領主)、リアー(ララバ領大公領主)アーダ(マカ二領大公領主)、竜騎士達の父親は皆大きく首を縦に振り、何とかしよう、という顔をした。
「そうは言っても、きっぱり断られた訳だしーー」
リルハンが退席した後、大公領主達はひそひそと話をはじめた。
「子供だけって、後はお飾りですかね」
「飾りになるか?」
くすくすとアーダが笑う。
「せめてアスラーン様があれでなければーー、」
難しい顔で、ヴァッキが口を滑らせるのをブーリがとめる。
「駄目ですよ、それは言っては……」
「でもな、どこかの姫を嫁がせたところでーー」
御子に何かあっては、女側の責任になるだろうーー。
会議は行き詰まる。
この問題になると、話に終着点がないのだ。
もはや、東堂が王太子妃になるしか、アジャハン国の明日はないーー。
誰もがそう考えた。
「ーードレス、似合うと思うか?」
「無理だろうなーー」
「アスラーン様、元気をだしてください」
フストンが主を慰めようと外に連れ出そうとするが、アスラーンは私室から出ようとしなかった。とはいっても仕事はするのだから、さすがはアスラーンである。
「トードォ、照れるのも大概にしろと言ってやりたいな」
「前向きすぎて吐き気がします」
窓の外には水色の月が静かに輝く。美しい角度で見えるように、ラルジュナが設計した窓だ。あれは、いくつの誕生日祝いだったのかーー。
「さあ、次はいつ会えるか」
「別れたんでしょ?」
馬鹿にした目でフストンがアスラーンを見た。
「ふふっ。おまえはまだ運命の恋を知らんな」
フストンが吹きだした。
「さっ、フストン。私が何も食べていないと噂を流してもらおうか」
「まだそんな事するんですか?」
いい加減にーー。
「皆、悪魔の城の襲来後は暇すぎるのだろう。ゴシップぐらい与えてやらんとな」
「はあー、なるほど」
考えてますねー、とフストンが書類を持って部屋を出ていく。
「フストン様、王太子殿下の具合は?」
侍女長のヤンが駆け寄ってくる。アスラーンのナニーでもあった、聡明で美しい婦人だ。
「ーー食欲がありませんね」
性欲はありますがーー。
「まあ!本当にお可哀想にーー、何とかならないのかしら!」
「トードォ殿は男らしいですからね、ドレスが似合うか心配してるんですよ」
「あらまぁ!」
ヤン侍女長が目を見開いた。
「そ、そんな事、わたくし達国民は気にもしませんのにーー」
「本人は気になるでしょう」
あの骨格じゃ無理だろうな。聖女様やヒョウマ殿とはわけが違うーー。
フストンは笑いをこらえる。
ヤン侍女長にはそれがアスラーンの身を案じるが故の泣くのを我慢する姿に見え、心の臓を掴まれた。
「ーーわたくし達がなんとかしなくては!」
トードォ殿に、似合うドレスをーーーー!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
少しですが、お気に入りが増えたり(きゃあ😆)、減ったり(ぎゃあ😭)している作品ですが、目にとめていただき、ほんとうにありがとうございます😊
お気に入り登録していただいた方、ちょっとでも笑っていただけたら嬉しいです。逆に外された方にはお礼が伝えられないので申し訳ないなー、といつも思うのですが、いままでありがとうございました😊また、読んでいただけるようにがんばりま~す😭
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