ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
186 / 237
東堂の恋わずらい編

第20話 東堂は帰れない

しおりを挟む
 


 ……。


 …………。




「ヒョウマ……」
 名を呼ばれても、兵馬は目を閉じたまま何も言わなかった。どこの記憶を読まれたかはわからないが、そこは見られたはずだ。


 ーー琉生亜とキスした事がバレた。避けようとしたら避けれた、って怒られたらどうしようーー。


 嫌われるのが怖くて、顔を見ることができない。


「ヒョウマ……」
 唇に彼の唇を感じた。
 いつもと変わらない優しいキス。自分の心をとらえて離さないラルジュナのキスだ。




「ーージュナ、ごめんね……」
 おずおずと目を開けると、美しい星のような瞳が間近にあった。
「何がーー?」
「い、言えなくて……」
「うん。そうだね、隠し事はよくない」
「あー、うん……」
 怒ってはなさそうなので安堵する。

「ヒョウマ……」
「うん?」
「ーー何でもないよ」
 大好きなひとが、少し照れたような表情を見せた。

「?」
「とりあえず、服は脱がすね」
「なんで?」
「浮気された可哀想なボクを、ちゃんと慰めて欲しいな」


 やっぱり浮気認定かーー。不可抗力だったんだけどーー。自分が逆の立場でも、嫌だもんねーー。



「あっ、ーーうん。えっと、怒ってるよね?」
「怒ってるよ」
 ーー自分に。



「そうだよね……」
「許してあげるから、いう事は聞いてね♡」
「うん、何でもするからーー」
「それ、言っちゃったね」
 にこり、とラルジュナが笑顔を見せる。
「?」

 言葉通りの事が行われるとは、兵馬はこのときわかっていなかったーー。
















「あほだな」
「本当にーー」
「ルート君て兵馬君がからむとやらかすわよね~」
 3人から責められ、琉生斗はさらに落ち込んだ。

「ーーマジで何かあったんなら、よけいに聞かれたくねえはずだ。そいつの弟だろ、おまえ」
 焚き火の火を見ながら東堂がため息をつく。皆、焚き火を囲んで呆れた表情だ。

 アレクセイが、なぜすぐ焚き火を囲むのか、不思議そうな顔をしている。

「前に兵馬、兄貴に誘われたって言ってたけど、あいつ自分に興味がないヤツは誘わなかったはずだ」(※ティンのダンジョン)
「うっそー!あんなんでも恋愛感情があったのね」
 美花もびっくりだ。
「兵馬君だけ戻っちゃったから、お兄さんも運命を感じちゃったのかも~」
 町子がマシュマロを取り出し串に刺した。琉生斗と美花が目を輝かせる。

「あー、しくじったぁ!どうなったんだろ!」
「ーー大丈夫だろ」
「おまえに何がわかんだよ」
 ポツリと言った東堂に、琉生斗は噛み付く。
「追求はするだろうが、別れ話とかはないな」
「だといいけど」


「ーーそんなことより、今日そこに帰る俺のメンタルの心配をしてくれよ」
「…………」
「…………」
「…………」
 
 沈黙する3人の横で、アレクセイが口を開いた。
「ラルジュナなら大丈夫だとは思うが……、心配ならここの休息所で泊まるか?」
 ドラゴン避けの魔法もかかっている、とラルジュナがつくった休息所を指すと東堂が手を叩いた。
「あっ、イイっすね!そうしよう!」
「それは楽しそうだな」
 自由な身がうらやましい琉生斗だ。
「焼けたわよ~」
 表面の焦げたマシュマロを渡されて、琉生斗と美花は大喜びだ。
「よっしゃぁ!」
「きゃあ!うれしい!」
「ーーマジいらね」
 東堂は鼻で笑う。

「トードゥ、ドラゴンが近い」
「はい!行きます!」
 マシュマロなんか食べている場合ではないのだ。
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

処理中です...