185 / 237
東堂の恋わずらい編
第19話 兵馬の記憶
しおりを挟む……。
…………。
『ーーおい。兵馬、俺と付き合え』
その日、彩奈の家に入ってくるなり琉生亜が言った。元の世界に戻って2カ月ほどたった頃だ。
『え?どこに?』
また、書類を書かされるのかーー。加賀家には弁護士がいるはずなのに。
『決まってんだろ?ベッドだ』
兵馬は吹きだした。
前は壁ドンだったなーー。大笑いしてしまったけどーー。
『またその冗談?無理無理、あなたのベッドなんか汚そうだよ』
『新調してやる』
『結構ですーー。母さんとがんばってくださいー』
肩を急につかまれ、驚いて琉生亜の顔を見る。
近いーー。
兵馬は目を見張った。
彼がキスをしてきたのだ。
驚き、慌てて身体を突き飛ばす。だが、琉生亜の身体はびくともしない。押し倒されそうになり、肩を叩き続け思いっ切り唇を噛んだ。
噛みちぎってやる、ぐらいの気持ちがあった。
『ーーいってえな』
痛みに身体が離れ、兵馬は後ろに逃げる。
『何するんだよ!』
『セックスだよ』
唇を舐めると、またのしかかろうとしてくる。
『母さんが帰ってくるよ!』
『アヤナはわかってる』
『最低!』
『何とでも言え……』
『無理!やられるぐらいなら死ぬからね!』
テレビ台の上にあったシャープペンを取り、突き刺すように見せた。
『たいした出血にはならねえから、ほっとく』
兵馬は壁際に追い込まれ、服に手をかけられる。
『ーーずっとおまえが好きだった』
『はい?』
目が点だ。
思考がパニックを起こす。
ずっと?
いや、好きだという人間の両親と、なんで身体の関係になるわけ?
????????ーーーー、!?
『無理無理無理無理!意味不明意味不明意味不明ぃーー!何なのそのイケメンなら何でも許される思考!痛すぎだって!』
『ーーそういうところ、グッとくる』
あほだ、このひと。
『申し訳ないけど、僕向こうで結婚を前提にお付き合いしてるひとがいますので』
指輪を見せると琉生亜が笑った。
『ーー二次元か』
『誰が妄想と婚約してるんだよ!そのひととの間に、子供ができました!』
『はあ?おまえが童貞を卒業したのか?』
琉生亜が驚愕した表情を見せた。
『ーー童貞は卒業してません。いや、できません』
『はあ?子供は?』
やっぱり妄想だろ、と馬鹿にするように言われる。
『僕が、産むほうですーー』
・
・
・
・
・
・
『ーーはっ、、、頭イカれたのか?』
引きつった琉生亜に、兵馬は言った。
『向こうでは、それが可能なの!わかったら、もう出ていって!二度と顔を見せるな!』
『ーーマジかよ』
『お腹がでてきたら写真を撮って送るよ』
『ーーんなもん加工できるわ……』
琉生亜が離れた。
『マジ最悪ーー、何そいつーー』
『知らないほうがいいよ。あなたが思いつかないような、最上級のスパダリなんでね』
『キモ。ーービーズ玉のピアスやったヤツかよ』
『あなた偽セレブだった?ルートは一発でオレンジダイヤってわかったけど?』
『あー、ムカつくけどそこがなーー』
琉生亜が舌打ちしながら離れる。警戒を緩めずに兵馬は睨み続けた。
『ーー1回ぐらい抱かせてくれ』
懇願するような琉生亜の目だ。
『ジュナを裏切るぐらいなら舌かんで死ぬよ』
相手の名前を聞いて、琉生亜の目が細められる。
『あっ、そうーー』
ため息をついて琉生亜が踵を返した。
『ーーマジだったんだけどな……』
いつも自信に満ちたひとの弱々しい声を聞くのは、はじめてだった。だが、それも自分にはどうでもいいことでしかない。
パタンッ、と玄関のドアが閉まる音が聞こえると、兵馬は洗面所に走った。
蛇口を勢いよく開いて口を濡らし、洗面台から水がこぼれるのも気にせずにバシャバシャと洗う。
つかんだ石鹸を口に擦り付ける。
『うっ、ペッペッーーーー、うっ……』
涙があふれてくるのも無視して、兵馬は口を洗い続けた。
『………ナ…』
こらえていた言葉が漏れる。
『ーーーージュナ……、ジュナ……、会いたいよぉーー』
洗面所の床にくずれ落ち、とまらない涙を強引に拭く。
『ーーもう、会えないの……?、、っう、、ジュナ……、会いたい……』
ーーいや、きっといつかはルートが来る。必ず来るからーー。そのときまで、この子とがんばるんだーー。
お腹に触れて、兵馬は目を閉じた。
検査にも行けないから、元気かどうかもわからない彼の赤ちゃんーー。
「!」
何かがピクピクと動いている。自分が動かしているのではない。
動きはじめたのだーー。
『ーーユーリ、……』
今度は嬉しくて涙がでた。
『いつか……、ーーに会おうね……』
母親の彩奈が肩を叩くまで、兵馬はずっと泣き続けた。絶対にこの子を父親に会わせるまでは、諦めない、そう誓いながらーー。
62
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!
こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる