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東堂の恋わずらい編
第19話 兵馬の記憶
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…………。
『ーーおい。兵馬、俺と付き合え』
その日、彩奈の家に入ってくるなり琉生亜が言った。元の世界に戻って2カ月ほどたった頃だ。
『え?どこに?』
また、書類を書かされるのかーー。加賀家には弁護士がいるはずなのに。
『決まってんだろ?ベッドだ』
兵馬は吹きだした。
前は壁ドンだったなーー。大笑いしてしまったけどーー。
『またその冗談?無理無理、あなたのベッドなんか汚そうだよ』
『新調してやる』
『結構ですーー。母さんとがんばってくださいー』
肩を急につかまれ、驚いて琉生亜の顔を見る。
近いーー。
兵馬は目を見張った。
彼がキスをしてきたのだ。
驚き、慌てて身体を突き飛ばす。だが、琉生亜の身体はびくともしない。押し倒されそうになり、肩を叩き続け思いっ切り唇を噛んだ。
噛みちぎってやる、ぐらいの気持ちがあった。
『ーーいってえな』
痛みに身体が離れ、兵馬は後ろに逃げる。
『何するんだよ!』
『セックスだよ』
唇を舐めると、またのしかかろうとしてくる。
『母さんが帰ってくるよ!』
『アヤナはわかってる』
『最低!』
『何とでも言え……』
『無理!やられるぐらいなら死ぬからね!』
テレビ台の上にあったシャープペンを取り、突き刺すように見せた。
『たいした出血にはならねえから、ほっとく』
兵馬は壁際に追い込まれ、服に手をかけられる。
『ーーずっとおまえが好きだった』
『はい?』
目が点だ。
思考がパニックを起こす。
ずっと?
いや、好きだという人間の両親と、なんで身体の関係になるわけ?
????????ーーーー、!?
『無理無理無理無理!意味不明意味不明意味不明ぃーー!何なのそのイケメンなら何でも許される思考!痛すぎだって!』
『ーーそういうところ、グッとくる』
あほだ、このひと。
『申し訳ないけど、僕向こうで結婚を前提にお付き合いしてるひとがいますので』
指輪を見せると琉生亜が笑った。
『ーー二次元か』
『誰が妄想と婚約してるんだよ!そのひととの間に、子供ができました!』
『はあ?おまえが童貞を卒業したのか?』
琉生亜が驚愕した表情を見せた。
『ーー童貞は卒業してません。いや、できません』
『はあ?子供は?』
やっぱり妄想だろ、と馬鹿にするように言われる。
『僕が、産むほうですーー』
・
・
・
・
・
・
『ーーはっ、、、頭イカれたのか?』
引きつった琉生亜に、兵馬は言った。
『向こうでは、それが可能なの!わかったら、もう出ていって!二度と顔を見せるな!』
『ーーマジかよ』
『お腹がでてきたら写真を撮って送るよ』
『ーーんなもん加工できるわ……』
琉生亜が離れた。
『マジ最悪ーー、何そいつーー』
『知らないほうがいいよ。あなたが思いつかないような、最上級のスパダリなんでね』
『キモ。ーービーズ玉のピアスやったヤツかよ』
『あなた偽セレブだった?ルートは一発でオレンジダイヤってわかったけど?』
『あー、ムカつくけどそこがなーー』
琉生亜が舌打ちしながら離れる。警戒を緩めずに兵馬は睨み続けた。
『ーー1回ぐらい抱かせてくれ』
懇願するような琉生亜の目だ。
『ジュナを裏切るぐらいなら舌かんで死ぬよ』
相手の名前を聞いて、琉生亜の目が細められる。
『あっ、そうーー』
ため息をついて琉生亜が踵を返した。
『ーーマジだったんだけどな……』
いつも自信に満ちたひとの弱々しい声を聞くのは、はじめてだった。だが、それも自分にはどうでもいいことでしかない。
パタンッ、と玄関のドアが閉まる音が聞こえると、兵馬は洗面所に走った。
蛇口を勢いよく開いて口を濡らし、洗面台から水がこぼれるのも気にせずにバシャバシャと洗う。
つかんだ石鹸を口に擦り付ける。
『うっ、ペッペッーーーー、うっ……』
涙があふれてくるのも無視して、兵馬は口を洗い続けた。
『………ナ…』
こらえていた言葉が漏れる。
『ーーーージュナ……、ジュナ……、会いたいよぉーー』
洗面所の床にくずれ落ち、とまらない涙を強引に拭く。
『ーーもう、会えないの……?、、っう、、ジュナ……、会いたい……』
ーーいや、きっといつかはルートが来る。必ず来るからーー。そのときまで、この子とがんばるんだーー。
お腹に触れて、兵馬は目を閉じた。
検査にも行けないから、元気かどうかもわからない彼の赤ちゃんーー。
「!」
何かがピクピクと動いている。自分が動かしているのではない。
動きはじめたのだーー。
『ーーユーリ、……』
今度は嬉しくて涙がでた。
『いつか……、ーーに会おうね……』
母親の彩奈が肩を叩くまで、兵馬はずっと泣き続けた。絶対にこの子を父親に会わせるまでは、諦めない、そう誓いながらーー。
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