ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第17話 琉生斗もやらかす

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「何だこりゃ?」
 東堂は目を瞬いた。

 琉生斗が来ることは予想ができたが、美花と町子までいる。

「もう!あんたったら、不誠実なんだから!みんな呆れてたわよ!」
「えーー?」
「そうよ~、東堂くん。真剣なひとを弄ぶなんて最低よ~!」
「うそだーーー!」
 違うー!と東堂は叫んだ。

「あのなー、付き合ってたっつうかなー。町子には言っただろ?魔力器官の成長を促してもらうってヤツ」
「あ~、言ってたわね~~」
「でっ、最初はそれ目的で行ってるうちに仲良くはなった。だが、結婚なんてするほどの仲ではない」


「えっ?アスラーン様の天幕でヤりまくってたって聞いたわよ」
 東堂は吹いた。
「ーーなんじゃそらぁ!」
「アジャハンの兵士のひとがみんな言ってたわよ~。寵愛がすごいわ~って」
「みんなスパダリゲットおめでとうよね!しかも、東堂の場合相手のお父さんがウェルカム状態なんてーー。あー、うらやましい……」
 美花のテンションが下がる。
「大丈夫~?美花ちゃん、がんばったもんね~!」
「そうよー、かなり心は折れたけどね」
「うるせーよ。ゴリラども」
「何ですって!」
 美花と町子が逃げる東堂を追いかけていく。

「ーーおい。遊びに来たのか?」
「はっ!違います!」
「ドラゴン斬りを間近で見てみたいです~!」
 ラルジュナの降臨に美花と町子が姿勢を正した。それを見て東堂は首を傾げる。
「何かあったのか?」

「ついてこい」
「はい!」
「お願いします~!」
 鬼軍曹についていく新兵のふたりを見て、東堂は不思議そうな顔を隠しきれない。

「ーーだから何があったんだ?」
 東堂は知らない。ふたりが味わった地獄の特訓の日々をーー。










「ーーみんないいなぁ」
 美花達を見ながら兵馬はため息をついた。
「ん?戦闘要員なのがか?」
「………」

 ずばり、そうだよーー。

 琉生斗が励ますように肩を叩いてくる。
「気にするなよ。おまえの価値は脳筋じゃねえだろ」
「ーー最強の存在に言われてもね」
 

 兵馬はユーリを抱っこしながら歩く。
 ヤーシャル島のあちこちでは、椰子の木に似た植物が並んでいて、南国のような景色が広がる。
 
 自分って何なんだろーー。
 弱いのは相変わらずだし、聖魔法器官をどうしていくかと言われてもわからないし、結局のところ攻撃魔法は使えないしーー。
 ほんと、戻ってきた意味がないなぁーー。




「なあ、兵馬ーー」
「何?」
 振り返ると、親友が何かを心配するような表情をしていた。聞きたいのに、聞いてはいけない、そんな顔だ。

「あのさーー、嫌なら答えんなよ」
「ーーうん……」
 ふぅー、と琉生斗が息を吐く。困ったように眉を寄せ、横にした目が不安そうに揺れる。
「おまえさ」
「うん?」

 何かをはっきりさせたいーー、思い切った顔を親友がした。

「ーーーー兄貴に、何かされなかったか?」













「ーー琉生亜さんに?」
 兵馬の目がキョトンとなった。思ってもみない名前がでた顔だ。
「ああ」
「何のこと?」
「えっ?」
 琉生斗は目を見開いた。

 視線の先にある親友があまりにもいつも通りだったため、肩透かしをくらったような気分だ。

「あっ、ーー何もないならいいんだよ」



 兄の話は嘘だったのか?じゃあ、彩奈おばさんはなぜあんな事を言ったんだーー?



「そう?お金はたくさん貰っちゃったけどね。手術費用ができて助かったよ」
「そっか……。おまえも大変だったな」
「そうでもないよ。向こうの勉強ができてよかったよ。カラマーゾフの兄弟も最後まで読めたしね」

「ーーどこがよかった?」
 
 まぅまぅ、とユーリが口をパクパクさせる。その茶が混じったオレンジ色の髪を、愛おしそうに撫でながら兵馬が言う。

「Если Бога нет, все позволено」

「おっ、さすがだな。『神がいなければすべてが許される』」
「ーーこの世界だと神様だらけだけど、神様がずっと見てても悪い事をするひとっているよね」
「まあな。気にならないんだろうな」
「天罰があるのかないのかーー。悪いひとはないと思ってるんだろうね、だって自分が生きてるんだから。神様って常に悪いひとを排除してるわけじゃないーー」
「何処かでは絶対に裁かれるさ」
「悠長な話だね」
 悲しそうに兵馬が眉を寄せる。


「ーーなぁ。兄貴はおまえに何をしたんだよ」
「………まだその話?」
 呆れた口調で言葉が返ってくる。
「何か隠してるだろ?」
「だから、何を?」


「兄貴、おまえの事好きだったんだろ?」


 顔色は変わらず兵馬が答えた。
「ーー断ったよ」
「いや、それはそうだろうけど……」
「君のお兄さんがまさか僕なんて好きと思わなくてずっと傷つけてました、なんて聞きたいわけじゃないだろ?」
「それはそうだよ!おれはただ、おまえが兄貴に何かひどい事をされてないか心配してるだけでーー」
 うっ、と琉生斗は口を閉じた。


 遅かったかもしれない。

 琉生斗の視線をおって兵馬が後ろを向く。


「あっ……」

 その人を見た兵馬はどんな顔をしたのかーー。


 ラルジュナが立っていた。

 いつからいたのだろう、気配も存在も感じられなかったがーー。



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