ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第15話 グラビテーション

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「あげてもいいけど、それでおさまるかな?」
 贈与する理由が意味不明だねー、とラルジュナが髪をすく。
「アスラーンが本気なら次の手を打つだろう」
 無利子で貸すほうがいいか、とアレクセイも頷いた。

 このクソブルジョア王子ども!と、心の中で悪態をつきながら東堂は尋ねる。
「ーー結婚したところで、子供ができなかったら俺はどうなるんですか……」
 項垂れて顔があげられない。20歳の若者の心を折るのにここまで効果的な事はない。

「そうだよねー。心から願わないとって、子供目当てなら無理だよねー」
 
 夫婦関係を破滅させる思想でしかない。

「時空竜の女神様のご判断がどうなのかだな」
 女神様は人間の常識とはかけ離れている面がおありだから、とアレクセイが続ける。

「ーー殿下ぁ。ルートに基準を聞いてもらってくださいよ」

「それは構わないが、子供目当てでも心から願えば大丈夫な場合、おまえはどうするのだ?」
「産んじゃったら、もう離してくれないよー」
 バンバン産ませるんじゃない?

「ひ、ひどい!俺は子供を産む道具じゃないのに……」
 東堂の意見はもっともなことだ。


「せ、せめて魔法騎士団には所属しときたい!」
「う~ん。アジャハンの魔法騎士団なら可能かなー」
「それは嫌だぁ!!!俺はもう竜殺しになって、懸賞金で稼いでやる!」
 決意にラルジュナが笑った。
「うんー、がんばろうー!」

 


 特訓に戻った東堂を見ながらアレクセイが口を開く。
「アスラーンは本気だと思うか?」
「そんなのわかるわけないよー。けど、ボクひとつの結論はでてる」
「なんだ?」
「引き合っちゃったら、ダメなんだと思う」
 真顔になった友の顔を見て目を細める。
「引き合うーー」
「もう離れられない、って感覚なのかな。キミも感じてるんじゃない?」
 その言葉に深く同意するように頷いた。

「ーーそうだな。はじめてルートを見たときの衝撃は忘れられない……」
 
 
 こんなにも惹きつけられるものがこの世に存在するのか、と驚いたものだーー。それは色褪せるどころか気持ちが増す一方でーー。


「ボクは最初なかった。気になったのは確かだけど。でも、ある時期から、もう離せないと思うようになった。たぶん、ヒョウマがボクの方を向くようになったからだ」
「ーー目には見えない何かがあると?」
「だって、ファウラ君て色恋にハマるタイプじゃないでしょ?」
 アレクセイは、確かに、と言った。自分が知るファウラは、冷静沈着を絵に描いたような人物で、女性を巡って殴り合いの喧嘩(※大隊長の恋)をするような男ではなかったはずだ。

「おまけに魔導室室長のティンさん、マチコと結婚するんだって?」
「ああーー。父も、自分もワンチャンある、と訳が分からない事を言い出している」
「坊っちゃん陛下の話はどうでもいいけど。アスラーンがそうなってるなら、トードォだって嫌じゃないんだよ」
「ーーそうか」
「ただ、ネックは子供と王太子妃なんだよね」
「それはそうだろう」
 いままで6人の中で、そういうポジションには一番遠いとされていた彼なのにーー。
 

「う~ん。聖女の友人って、地位的にはどのぐらいなのー?」
「爵位なら伯爵を与えると父が言っていた」
「えっ!いいじゃんー。もう、結婚させちゃうー?」
「…………」
「しかし、まあ、彼が王太子妃って、見るだけで面白いよねー」
 ひどい事をいっているが、大抵はそう思うかもしれない。

「リルハンパパも強引だけど、心配性なのはアスラーンが子供の頃、身体が弱かったからだと思うー」
「ほぅ」
「大怪我したときは死ぬかもしれないって、国が揺れに揺れたらしいよー」
「だろうな」
 過保護になってしまうのはわかるがーー。

「その為に大公領主の息子がいるんだから、血が途絶える事はないんだろうけどーー」
 他人事みたいに思っちゃダメだねー、とラルジュナが反省するように言った。
「そうだな。私もクリスやセージに感謝をしないといけないな」
 長男としての責任を負わなくてもいいのは、彼らのおかげでもある。
「だね。ボクもシャラの言う事ちょっとは聞いてあげようー。ーーそれにしても、リルハンパパは何でこのタイミングで動いたのかなー」
「このタイミング?」
 眉根を寄せたアレクセイにラルジュナが言った。

「だって、聖女召喚って3年も前になるよねー?」
「ああ。互いに歳をとったな」
「うん、話聞いてね。リルハンパパが異世界人の話を詳しく知っていたのなら、動くのが遅いよ。ユーリを見て確信したとしても、女子が3人もいたのに何もしていない」
 アレクセイは、なるほど、と頷く。

「そうだなー。最近思い出したのかーー」
「どうなんだろー。何にせよ、パパにバレたくはないなー」
 息子の身をラルジュナは案じる。
 

「ラルさぁんーー!1匹斬れましたぁぁ~~~!」
 東堂が泣きながら走って来た。
「1匹!?ノルマは1日5匹だろ!さっさと行ってこい!!!」
「ーーラルジュナ……」






「ふふっ、ユーリ。パパ楽しそうだね」
 休息所の窓から外を覗いて兵馬は笑う。
「ぱぅあぅ」
「散歩に行きたいの?」
 ユーリの用意をしながら、少しため息をつく。
「ぁうー」
「ああ、大丈夫だよ。何でもない……」




 兵馬には気がかりな事がある。

 元の世界にいたときの事で、ラルジュナに言えなかったでき事がひとつだけあるのだ。

 ーー言ったところでどうにもならないし、何とも思わないとは思うけど……。

 自分の中にある、後ろめたさ。
 ただ、それだけ。

 言ってもいいのだが、自分から言う事でもないし。言う機会がなければ黙っていればいいだけなのだがーー。

「嫌だな、隠し事って……」

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