181 / 236
東堂の恋わずらい編
第15話 グラビテーション
しおりを挟む「あげてもいいけど、それでおさまるかな?」
贈与する理由が意味不明だねー、とラルジュナが髪をすく。
「アスラーンが本気なら次の手を打つだろう」
無利子で貸すほうがいいか、とアレクセイも頷いた。
このクソブルジョア王子ども!と、心の中で悪態をつきながら東堂は尋ねる。
「ーー結婚したところで、子供ができなかったら俺はどうなるんですか……」
項垂れて顔があげられない。20歳の若者の心を折るのにここまで効果的な事はない。
「そうだよねー。心から願わないとって、子供目当てなら無理だよねー」
夫婦関係を破滅させる思想でしかない。
「時空竜の女神様のご判断がどうなのかだな」
女神様は人間の常識とはかけ離れている面がおありだから、とアレクセイが続ける。
「ーー殿下ぁ。ルートに基準を聞いてもらってくださいよ」
「それは構わないが、子供目当てでも心から願えば大丈夫な場合、おまえはどうするのだ?」
「産んじゃったら、もう離してくれないよー」
バンバン産ませるんじゃない?
「ひ、ひどい!俺は子供を産む道具じゃないのに……」
東堂の意見はもっともなことだ。
「せ、せめて魔法騎士団には所属しときたい!」
「う~ん。アジャハンの魔法騎士団なら可能かなー」
「それは嫌だぁ!!!俺はもう竜殺しになって、懸賞金で稼いでやる!」
決意にラルジュナが笑った。
「うんー、がんばろうー!」
特訓に戻った東堂を見ながらアレクセイが口を開く。
「アスラーンは本気だと思うか?」
「そんなのわかるわけないよー。けど、ボクひとつの結論はでてる」
「なんだ?」
「引き合っちゃったら、ダメなんだと思う」
真顔になった友の顔を見て目を細める。
「引き合うーー」
「もう離れられない、って感覚なのかな。キミも感じてるんじゃない?」
その言葉に深く同意するように頷いた。
「ーーそうだな。はじめてルートを見たときの衝撃は忘れられない……」
こんなにも惹きつけられるものがこの世に存在するのか、と驚いたものだーー。それは色褪せるどころか気持ちが増す一方でーー。
「ボクは最初なかった。気になったのは確かだけど。でも、ある時期から、もう離せないと思うようになった。たぶん、ヒョウマがボクの方を向くようになったからだ」
「ーー目には見えない何かがあると?」
「だって、ファウラ君て色恋にハマるタイプじゃないでしょ?」
アレクセイは、確かに、と言った。自分が知るファウラは、冷静沈着を絵に描いたような人物で、女性を巡って殴り合いの喧嘩(※大隊長の恋)をするような男ではなかったはずだ。
「おまけに魔導室室長のティンさん、マチコと結婚するんだって?」
「ああーー。父も、自分もワンチャンある、と訳が分からない事を言い出している」
「坊っちゃん陛下の話はどうでもいいけど。アスラーンがそうなってるなら、トードォだって嫌じゃないんだよ」
「ーーそうか」
「ただ、ネックは子供と王太子妃なんだよね」
「それはそうだろう」
いままで6人の中で、そういうポジションには一番遠いとされていた彼なのにーー。
「う~ん。聖女の友人って、地位的にはどのぐらいなのー?」
「爵位なら伯爵を与えると父が言っていた」
「えっ!いいじゃんー。もう、結婚させちゃうー?」
「…………」
「しかし、まあ、彼が王太子妃って、見るだけで面白いよねー」
ひどい事をいっているが、大抵はそう思うかもしれない。
「リルハンパパも強引だけど、心配性なのはアスラーンが子供の頃、身体が弱かったからだと思うー」
「ほぅ」
「大怪我したときは死ぬかもしれないって、国が揺れに揺れたらしいよー」
「だろうな」
過保護になってしまうのはわかるがーー。
「その為に大公領主の息子がいるんだから、血が途絶える事はないんだろうけどーー」
他人事みたいに思っちゃダメだねー、とラルジュナが反省するように言った。
「そうだな。私もクリスやセージに感謝をしないといけないな」
長男としての責任を負わなくてもいいのは、彼らのおかげでもある。
「だね。ボクもシャラの言う事ちょっとは聞いてあげようー。ーーそれにしても、リルハンパパは何でこのタイミングで動いたのかなー」
「このタイミング?」
眉根を寄せたアレクセイにラルジュナが言った。
「だって、聖女召喚って3年も前になるよねー?」
「ああ。互いに歳をとったな」
「うん、話聞いてね。リルハンパパが異世界人の話を詳しく知っていたのなら、動くのが遅いよ。ユーリを見て確信したとしても、女子が3人もいたのに何もしていない」
アレクセイは、なるほど、と頷く。
「そうだなー。最近思い出したのかーー」
「どうなんだろー。何にせよ、パパにバレたくはないなー」
息子の身をラルジュナは案じる。
「ラルさぁんーー!1匹斬れましたぁぁ~~~!」
東堂が泣きながら走って来た。
「1匹!?ノルマは1日5匹だろ!さっさと行ってこい!!!」
「ーーラルジュナ……」
「ふふっ、ユーリ。パパ楽しそうだね」
休息所の窓から外を覗いて兵馬は笑う。
「ぱぅあぅ」
「散歩に行きたいの?」
ユーリの用意をしながら、少しため息をつく。
「ぁうー」
「ああ、大丈夫だよ。何でもない……」
兵馬には気がかりな事がある。
元の世界にいたときの事で、ラルジュナに言えなかったでき事がひとつだけあるのだ。
ーー言ったところでどうにもならないし、何とも思わないとは思うけど……。
自分の中にある、後ろめたさ。
ただ、それだけ。
言ってもいいのだが、自分から言う事でもないし。言う機会がなければ黙っていればいいだけなのだがーー。
「嫌だな、隠し事って……」
46
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる