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東堂の恋わずらい編
第15話 グラビテーション
しおりを挟む「あげてもいいけど、それでおさまるかな?」
贈与する理由が意味不明だねー、とラルジュナが髪をすく。
「アスラーンが本気なら次の手を打つだろう」
無利子で貸すほうがいいか、とアレクセイも頷いた。
このクソブルジョア王子ども!と、心の中で悪態をつきながら東堂は尋ねる。
「ーー結婚したところで、子供ができなかったら俺はどうなるんですか……」
項垂れて顔があげられない。20歳の若者の心を折るのにここまで効果的な事はない。
「そうだよねー。心から願わないとって、子供目当てなら無理だよねー」
夫婦関係を破滅させる思想でしかない。
「時空竜の女神様のご判断がどうなのかだな」
女神様は人間の常識とはかけ離れている面がおありだから、とアレクセイが続ける。
「ーー殿下ぁ。ルートに基準を聞いてもらってくださいよ」
「それは構わないが、子供目当てでも心から願えば大丈夫な場合、おまえはどうするのだ?」
「産んじゃったら、もう離してくれないよー」
バンバン産ませるんじゃない?
「ひ、ひどい!俺は子供を産む道具じゃないのに……」
東堂の意見はもっともなことだ。
「せ、せめて魔法騎士団には所属しときたい!」
「う~ん。アジャハンの魔法騎士団なら可能かなー」
「それは嫌だぁ!!!俺はもう竜殺しになって、懸賞金で稼いでやる!」
決意にラルジュナが笑った。
「うんー、がんばろうー!」
特訓に戻った東堂を見ながらアレクセイが口を開く。
「アスラーンは本気だと思うか?」
「そんなのわかるわけないよー。けど、ボクひとつの結論はでてる」
「なんだ?」
「引き合っちゃったら、ダメなんだと思う」
真顔になった友の顔を見て目を細める。
「引き合うーー」
「もう離れられない、って感覚なのかな。キミも感じてるんじゃない?」
その言葉に深く同意するように頷いた。
「ーーそうだな。はじめてルートを見たときの衝撃は忘れられない……」
こんなにも惹きつけられるものがこの世に存在するのか、と驚いたものだーー。それは色褪せるどころか気持ちが増す一方でーー。
「ボクは最初なかった。気になったのは確かだけど。でも、ある時期から、もう離せないと思うようになった。たぶん、ヒョウマがボクの方を向くようになったからだ」
「ーー目には見えない何かがあると?」
「だって、ファウラ君て色恋にハマるタイプじゃないでしょ?」
アレクセイは、確かに、と言った。自分が知るファウラは、冷静沈着を絵に描いたような人物で、女性を巡って殴り合いの喧嘩(※大隊長の恋)をするような男ではなかったはずだ。
「おまけに魔導室室長のティンさん、マチコと結婚するんだって?」
「ああーー。父も、自分もワンチャンある、と訳が分からない事を言い出している」
「坊っちゃん陛下の話はどうでもいいけど。アスラーンがそうなってるなら、トードォだって嫌じゃないんだよ」
「ーーそうか」
「ただ、ネックは子供と王太子妃なんだよね」
「それはそうだろう」
いままで6人の中で、そういうポジションには一番遠いとされていた彼なのにーー。
「う~ん。聖女の友人って、地位的にはどのぐらいなのー?」
「爵位なら伯爵を与えると父が言っていた」
「えっ!いいじゃんー。もう、結婚させちゃうー?」
「…………」
「しかし、まあ、彼が王太子妃って、見るだけで面白いよねー」
ひどい事をいっているが、大抵はそう思うかもしれない。
「リルハンパパも強引だけど、心配性なのはアスラーンが子供の頃、身体が弱かったからだと思うー」
「ほぅ」
「大怪我したときは死ぬかもしれないって、国が揺れに揺れたらしいよー」
「だろうな」
過保護になってしまうのはわかるがーー。
「その為に大公領主の息子がいるんだから、血が途絶える事はないんだろうけどーー」
他人事みたいに思っちゃダメだねー、とラルジュナが反省するように言った。
「そうだな。私もクリスやセージに感謝をしないといけないな」
長男としての責任を負わなくてもいいのは、彼らのおかげでもある。
「だね。ボクもシャラの言う事ちょっとは聞いてあげようー。ーーそれにしても、リルハンパパは何でこのタイミングで動いたのかなー」
「このタイミング?」
眉根を寄せたアレクセイにラルジュナが言った。
「だって、聖女召喚って3年も前になるよねー?」
「ああ。互いに歳をとったな」
「うん、話聞いてね。リルハンパパが異世界人の話を詳しく知っていたのなら、動くのが遅いよ。ユーリを見て確信したとしても、女子が3人もいたのに何もしていない」
アレクセイは、なるほど、と頷く。
「そうだなー。最近思い出したのかーー」
「どうなんだろー。何にせよ、パパにバレたくはないなー」
息子の身をラルジュナは案じる。
「ラルさぁんーー!1匹斬れましたぁぁ~~~!」
東堂が泣きながら走って来た。
「1匹!?ノルマは1日5匹だろ!さっさと行ってこい!!!」
「ーーラルジュナ……」
「ふふっ、ユーリ。パパ楽しそうだね」
休息所の窓から外を覗いて兵馬は笑う。
「ぱぅあぅ」
「散歩に行きたいの?」
ユーリの用意をしながら、少しため息をつく。
「ぁうー」
「ああ、大丈夫だよ。何でもない……」
兵馬には気がかりな事がある。
元の世界にいたときの事で、ラルジュナに言えなかったでき事がひとつだけあるのだ。
ーー言ったところでどうにもならないし、何とも思わないとは思うけど……。
自分の中にある、後ろめたさ。
ただ、それだけ。
言ってもいいのだが、自分から言う事でもないし。言う機会がなければ黙っていればいいだけなのだがーー。
「嫌だな、隠し事って……」
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