ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
180 / 235
東堂の恋わずらい編

第14話 Bも捨てがたいーー

しおりを挟む
 一方、東堂はヤーシャル島で竜殺しの特訓真っ最中だった。そして、現在、いままでのどの場面よりも死ぬかもしれないと思っている。



 ガンッ!


「おまえ、やる気あんのかーー」
 長い足で東堂は胸を押さえ込まれた。
「あ、あります!」

「ひとの話聞く耳あんのか?突っ込む前にドラゴンと目を合わすんだよ!何回言えばわかんだよ!?」
「すんません!」

「すみませんだよ、バカ!」
 ラルジュナに蹴られ、東堂は転がりながらドラゴンの前に放りだされる。
 青いドラゴンが欠伸をし、東堂など気にする様子もない。

「そんなんだから舐められるんだろ」
「は、はいーー」

 ーーキャラ変わりすぎだろ。何だよこのひと。

 その様子を遠くで見ているのは兵馬とユーリだ。兵馬は鼻血でも吹きそうなぐらい、うっとりとした顔になっている。

 ーーこれが、兵馬のツボか。優等生はヤンキーが好きだよな。

「向こうも目を見りゃ強さがわかんだから、こっちも気合いで負けんじゃねえよ」
 ヤンキー風な王子だな、と東堂は感じた。育ちが良すぎて完全には無理なのだろう。

「うすっ!」
 ドラゴンの目をしっかりと真正面から睨みつける。ドラゴンがピクリと目を動かす。

 そのまま、長い間睨み合う。

 ドラゴンが前足をあげた。

 ーー来るか!

 東堂が刃が厚い豪剣を持ち上げる。聖剣がどれだけ軽いか、たるんでいたことを自覚させられる重さだ。

 ーー普段は重い剣で訓練するべきだよな。

 アレクセイもそうだと聞いていたのにーー、自分の甘さが嫌になる。


「あれ?」

 ドラゴンは優雅に歩いて行ってしまった。

「あらー」
る価値もねえみたいだな」
 吐き捨てるように言い、ラルジュナが兵馬の元へと飛んで行った。


 深く呼吸をし、気持ちを切り替える。
「よしっ!次行こう!」











「ヒョウマー、暑くないー?」
「全然だよ。あっ、殿下、お疲れ様」
「ああーー。どうだ?」
 ユーリに虫避けクリームを塗っていた兵馬が、アレクセイに気づいた。
「あぅ、あぅ~」
 外にいるだけでごきげんなユーリだ。

「アスラーンがずいぶん甘やかしたねー。聖剣使わせてたんだよー」
「それは、斬れないな」
「だめなの?」

「斬れるようになるまでは普通の剣で斬る。聖剣に頼ると斬り方が覚えられない」
「聖剣の力で斬れちゃうからか」
「そうー。物わかりが悪いから蹴っ飛ばしてきちゃったー♡」
「ラルジュナBでか」
「ふふふっ、懐かしいー」

「ん?もしかして血液型の話?」
 兵馬が目を丸くする。

「そうそうー。二重人格だって言われてねー、ラルジュナAとラルジュナBってあだ名がついたんだよー」
「えっー!ジュナABなの?僕もだよ」
「ホントー!って前に身体調べたときにわかってるけどねー」
 

「へぇー、相性いいんすね」
 靴紐が切れて戻ってきた東堂が、アレクセイを見て頭をかいた。

「相性?」
「血液型占いだよ。殿下ってO型でしょ?ルートがA型だから相性ばっちりだね!」
「ーーそうか」
 微笑むアレクセイは本当に嬉しそうだ。

 O型ーー?、と首を傾げて東堂がアレクセイを見る。自分が知ってるO型とはかけ離れているようなーー(じゃあ何だと言われると困るけど)。

「占いになるんだねー」
「誕生日関係が多いっすよ。星座とか動物とかーー」
「面白そうだねー。姉さんに教えてあげようー。トードォ君は何型なの?」
「あぁ、俺はO型っすーー」
 その言葉に兵馬が軽く眉をあげた。
「ーーふにゃー」
 ふにゃふにゃ動きながらユーリがもがいている。
「ユーリ、お腹空いたの?」
「ぷうー」
 かわいいおならだった。





 

 兵馬が休息所(ラルジュナがつくった)にユーリを寝かしに行くと、東堂は火を起こした。焚き火の前で3人のぐだくだな話がはじまる。

「ーー俺はどうしたらよかったんすか?結婚ってしなきゃダメなんすかね」
「トードォ君としては結婚なしで付き合いたかったのー?」
「急に結婚って言われても。そんな関係だったっけ?って感じっす」
「あっさりしてるねー。リルハンパパも必死なんだよー」
 異世界人との間なら、男子が生まれやすいなんて聞くとねー。

「ーーユーリを見て、いける、って思っちゃったんだなー。これはもう、アスラーンにユーリを預けてたボクが悪いから、トードォ君にはできる限り協力するねー」
「すんません」
 東堂の目が潤む。

「はぁ。でも、俺ちょっといいなあ、ってぐらいっすよー。そんな気持ちで身体が変わるんすかねー?しかも、別れたら向こうは子供の記憶失くすって。どうなるんですか?」
 アレクセイとラルジュナは目を合わせた。

「ーー絶対にないなー」
「ああーー」
「へっ?」
「ううん。こっちの話」


 自分達は絶対にないーー。


「そりゃあ、殿下とラルさんは一途っぽいけど、あのひとなんか他に興味ができればそっちに行くでしょ。わざわざ俺を巻き込まなくても、10人ぐらいと結婚すりゃいいのにー」
 焚き火の火を見ていると心が落ち着いてくる。なんでだろう。


 ーーそういえば、親父とキャンプに行くとき、必ず杉田のおじさんを誘ってたっけ。親父、案外純愛なひとなんだな。おっさんでも長く続くひとは続くのかもな。
 
 ーー果たして、自分はどうなんだ? 


「例えば婚約した場合、俺はどうなるんです?」
「軍にはいられない」
「婚約でも!?」
「そりゃ、未来の王太子妃様だからねー。お后教育ってヤツを叩き込まれるんだよー」
「じゃあ、やっぱりあの場は断るしかないじゃないっすか!」
「ああいう場合は、善処します、って言うんだよ」
「無理っしょ!」
「無理でも断定は避けるの。ーー賠償金きたの?」
「ああ、ーー50億だそうだ」


 東堂は目を開いたまま気絶した。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王は約束の香りを娶る 〜偽りのアルファが俺の運命の番だった件〜

東院さち
BL
オメガであるレフィは母が亡くなった後、フロレシア国の王である義父の命令で神殿に住むことになった。可愛がってくれた義兄エルネストと引き離されて寂しく思いながらも、『迎えに行く』と言ってくれたエルネストの言葉を信じて待っていた。 義父が亡くなったと報されて、その後でやってきた遣いはエルネストの迎えでなく、レフィと亡くなった母を憎む侯爵の手先だった。怪我を負わされ視力を失ったレフィはオークションにかけられる。 オークションで売られてしまったのか、連れてこられた場所でレフィはアルファであるローレルの番にさせられてしまった。身体はアルファであるローレルを受け入れても心は千々に乱れる。そんなレフィにローレルは優しく愛を注ぎ続けるが……。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-

悠里
BL
モテモテの親友の、愛の告白を断り切れずに、OKしてしまった。 だって、親友の事は大好きだったから。 でもオレ、ほんとは男と恋人なんて嫌。 嫌なんだけど……溺愛されてると……? 第12回BL大賞にエントリーしています。 楽しんで頂けて、応援頂けたら嬉しいです…✨

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

処理中です...