ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第14話 Bも捨てがたいーー

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 一方、東堂はヤーシャル島で竜殺しの特訓真っ最中だった。そして、現在、いままでのどの場面よりも死ぬかもしれないと思っている。



 ガンッ!


「おまえ、やる気あんのかーー」
 長い足で東堂は胸を押さえ込まれた。
「あ、あります!」

「ひとの話聞く耳あんのか?突っ込む前にドラゴンと目を合わすんだよ!何回言えばわかんだよ!?」
「すんません!」

「すみませんだよ、バカ!」
 ラルジュナに蹴られ、東堂は転がりながらドラゴンの前に放りだされる。
 青いドラゴンが欠伸をし、東堂など気にする様子もない。

「そんなんだから舐められるんだろ」
「は、はいーー」

 ーーキャラ変わりすぎだろ。何だよこのひと。

 その様子を遠くで見ているのは兵馬とユーリだ。兵馬は鼻血でも吹きそうなぐらい、うっとりとした顔になっている。

 ーーこれが、兵馬のツボか。優等生はヤンキーが好きだよな。

「向こうも目を見りゃ強さがわかんだから、こっちも気合いで負けんじゃねえよ」
 ヤンキー風な王子だな、と東堂は感じた。育ちが良すぎて完全には無理なのだろう。

「うすっ!」
 ドラゴンの目をしっかりと真正面から睨みつける。ドラゴンがピクリと目を動かす。

 そのまま、長い間睨み合う。

 ドラゴンが前足をあげた。

 ーー来るか!

 東堂が刃が厚い豪剣を持ち上げる。聖剣がどれだけ軽いか、たるんでいたことを自覚させられる重さだ。

 ーー普段は重い剣で訓練するべきだよな。

 アレクセイもそうだと聞いていたのにーー、自分の甘さが嫌になる。


「あれ?」

 ドラゴンは優雅に歩いて行ってしまった。

「あらー」
る価値もねえみたいだな」
 吐き捨てるように言い、ラルジュナが兵馬の元へと飛んで行った。


 深く呼吸をし、気持ちを切り替える。
「よしっ!次行こう!」











「ヒョウマー、暑くないー?」
「全然だよ。あっ、殿下、お疲れ様」
「ああーー。どうだ?」
 ユーリに虫避けクリームを塗っていた兵馬が、アレクセイに気づいた。
「あぅ、あぅ~」
 外にいるだけでごきげんなユーリだ。

「アスラーンがずいぶん甘やかしたねー。聖剣使わせてたんだよー」
「それは、斬れないな」
「だめなの?」

「斬れるようになるまでは普通の剣で斬る。聖剣に頼ると斬り方が覚えられない」
「聖剣の力で斬れちゃうからか」
「そうー。物わかりが悪いから蹴っ飛ばしてきちゃったー♡」
「ラルジュナBでか」
「ふふふっ、懐かしいー」

「ん?もしかして血液型の話?」
 兵馬が目を丸くする。

「そうそうー。二重人格だって言われてねー、ラルジュナAとラルジュナBってあだ名がついたんだよー」
「えっー!ジュナABなの?僕もだよ」
「ホントー!って前に身体調べたときにわかってるけどねー」
 

「へぇー、相性いいんすね」
 靴紐が切れて戻ってきた東堂が、アレクセイを見て頭をかいた。

「相性?」
「血液型占いだよ。殿下ってO型でしょ?ルートがA型だから相性ばっちりだね!」
「ーーそうか」
 微笑むアレクセイは本当に嬉しそうだ。

 O型ーー?、と首を傾げて東堂がアレクセイを見る。自分が知ってるO型とはかけ離れているようなーー(じゃあ何だと言われると困るけど)。

「占いになるんだねー」
「誕生日関係が多いっすよ。星座とか動物とかーー」
「面白そうだねー。姉さんに教えてあげようー。トードォ君は何型なの?」
「あぁ、俺はO型っすーー」
 その言葉に兵馬が軽く眉をあげた。
「ーーふにゃー」
 ふにゃふにゃ動きながらユーリがもがいている。
「ユーリ、お腹空いたの?」
「ぷうー」
 かわいいおならだった。





 

 兵馬が休息所(ラルジュナがつくった)にユーリを寝かしに行くと、東堂は火を起こした。焚き火の前で3人のぐだくだな話がはじまる。

「ーー俺はどうしたらよかったんすか?結婚ってしなきゃダメなんすかね」
「トードォ君としては結婚なしで付き合いたかったのー?」
「急に結婚って言われても。そんな関係だったっけ?って感じっす」
「あっさりしてるねー。リルハンパパも必死なんだよー」
 異世界人との間なら、男子が生まれやすいなんて聞くとねー。

「ーーユーリを見て、いける、って思っちゃったんだなー。これはもう、アスラーンにユーリを預けてたボクが悪いから、トードォ君にはできる限り協力するねー」
「すんません」
 東堂の目が潤む。

「はぁ。でも、俺ちょっといいなあ、ってぐらいっすよー。そんな気持ちで身体が変わるんすかねー?しかも、別れたら向こうは子供の記憶失くすって。どうなるんですか?」
 アレクセイとラルジュナは目を合わせた。

「ーー絶対にないなー」
「ああーー」
「へっ?」
「ううん。こっちの話」


 自分達は絶対にないーー。


「そりゃあ、殿下とラルさんは一途っぽいけど、あのひとなんか他に興味ができればそっちに行くでしょ。わざわざ俺を巻き込まなくても、10人ぐらいと結婚すりゃいいのにー」
 焚き火の火を見ていると心が落ち着いてくる。なんでだろう。


 ーーそういえば、親父とキャンプに行くとき、必ず杉田のおじさんを誘ってたっけ。親父、案外純愛なひとなんだな。おっさんでも長く続くひとは続くのかもな。
 
 ーー果たして、自分はどうなんだ? 


「例えば婚約した場合、俺はどうなるんです?」
「軍にはいられない」
「婚約でも!?」
「そりゃ、未来の王太子妃様だからねー。お后教育ってヤツを叩き込まれるんだよー」
「じゃあ、やっぱりあの場は断るしかないじゃないっすか!」
「ああいう場合は、善処します、って言うんだよ」
「無理っしょ!」
「無理でも断定は避けるの。ーー賠償金きたの?」
「ああ、ーー50億だそうだ」


 東堂は目を開いたまま気絶した。

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