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東堂の恋わずらい編
第11話 除隊命令
しおりを挟む次の日、東堂を待っていたのは、将軍達の厳しい顔だ。ある程度の覚悟はしていた為、驚きはしなかった。
「ーー陛下が、除隊せよ、との仰せだ」
苦しげに士長アンダーソニーが告げた。団将ヤヘルは頭をかきむしり、軍将ルッタマイヤが涙ぐんでいた。
「ーーご迷惑を、かけましたーー」
「トードォ、なぜいい加減な付き合い方をした?」
ヤヘルに問い詰められ、東堂は首を振る。
「すんません。俺の甘えですーー」
「残念すぎるわ。何とかならないのですか!」
先の長い青年をこんな事で、とルッタマイヤが悔しそうに言う。
「いままで、お世話になりました!ご恩は一生忘れません!」
顔を見ないように頭を下げる。
「失礼します!!!」
振り向くな。
振り返るな!
泣くな!
全部自分がやった結果だ!
昨日のうちにまとめた荷物を持って、東堂は兵舎を出た。見送りはするな、と言われているのか誰も顔を見せなかった。
それでいい。
俺は納得しないままの道なんか行かない。
国から出ていくようにとまでは言われていないが、東堂はここから離れたかった。すっかり馴染みになった風景が、きらきらと眩しく見え、後ろ髪を引いてくる。
いつの間にかこの国は、自分の故郷になっていたのだな、と東堂は感じた。だが、そこから出るのも一興だ。きっと面白いに違いないーー。
王都の結界前まで行くと、自分を待つようにトルイストが立っていた。
「ーー師団長……」
「トードォ」
「すんません!」
「すまない!」
ふたりは同時に頭を下げた。東堂は慌ててトルイストに頭をあげるように言う。
「いや、なんで師団長が謝るんですか!」
「私達もおまえがそんないい加減な奴だとは思っていない」
自分を見る真摯な目が、思いやりにあふれていた。
「……」
「権力から守ってやれなかった。本当にすまない!」
東堂は顔をくしゃくしゃにしながら笑う。
「ありがとうございます……。すげーうれしいです!俺は師団長に育ててもらえて、めっちゃよかったっすーー」
「そうか。私も、おまえがいて、よかったーー」
涙を流すトルイストを見て、東堂の目からもとまっていたはずの涙がこぼれていく。
ーーいろいろあった……。楽しかったなぁーー。
「東堂ー!」
自分を呼ぶ声に顔をあげる。
友達が立っていた。自分にはできない決断をした友達だ。
「兵馬……」
「行くよー!」
「ーーーー」
東堂は頷いた。
「俺、行きます。ーー見送り、すんません!」
「ーーああ!」
最後は笑顔を見せてくれたトルイストに、大きく敬礼する。
感謝は言い尽くせねえ。あんた達がいたから、俺はこの世界を楽しむ事ができた。
さよならだ、魔法騎士団!!!
「どこ行くんだよ……」
アジャハンには行けないはずだ。
「とりあえず、海国オランジーの別荘」
笑いながら兵馬が答えた。
「超セレブじゃん」
買ってもらったのかよ。
ほんと、世界の違いに嫌になってくる。
「僕の購入した別荘で~す」
「うそっ!」
そうだった。
隣りの友達は他人に頼らなくても自分で稼げる奴だった。向こうでも部費が足らない部活の相談に、よくのってたよなーー。
ふふっ、と東堂は笑う。
「海が見えるから、東堂にはちょうどいいよ」
「なんでだよ」
「ほら、失恋すると海が見たくなるんでしょ?」
「ーーならねえよ」
くすりっ、と兵馬が笑う。
「次の事、考えてるんでしょ?」
「ああ、早く竜殺しになりてー」
すげー賞金稼ぎになってやる!
「パラダイス島周辺にも竜殺しが多いんだよ。ジュナが連れてってくれるって」
「ラルさん、ーーあのひとと仲が悪くなってねえ?」
「大丈夫だよ。どんな状況でも気にしないひとだから」
褒めてるのかけなしているのかわかんねえなーー。
「よし!気合いいれんぞ!」
「どれぐらい斬れば竜殺しを名乗れるの?」
「マスタークラスを5匹倒せれば、目の中に何か浮くらしい」
「へぇー、そんなのあるんだ」
「見せてもらえよ」
ラルさんなら絶対にあるだろう。
「ジュナは星の目っていって、近くで見るときらきらと光が見えるんだよ。ユーリも同じ目をしてるんだ」
頬を赤くした兵馬が嬉しそうに話す。
めっちゃ好きやんこいつ。めっちゃ惚れてるやん。
「ーーあっそ」
「東堂ーー」
「何だよ」
「ーー何でもないよ」
兵馬が言えなかった言葉は、東堂には何となくわかった。
「そんなんじゃねえよ……」
まっ、元気だそーー。
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