ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第11話 除隊命令

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 次の日、東堂を待っていたのは、将軍達の厳しい顔だ。ある程度の覚悟はしていた為、驚きはしなかった。


「ーー陛下が、除隊せよ、との仰せだ」
 苦しげに士長アンダーソニーが告げた。団将ヤヘルは頭をかきむしり、軍将ルッタマイヤが涙ぐんでいた。

「ーーご迷惑を、かけましたーー」
「トードォ、なぜいい加減な付き合い方をした?」
 ヤヘルに問い詰められ、東堂は首を振る。

「すんません。俺の甘えですーー」
「残念すぎるわ。何とかならないのですか!」
 先の長い青年をこんな事で、とルッタマイヤが悔しそうに言う。

「いままで、お世話になりました!ご恩は一生忘れません!」
 顔を見ないように頭を下げる。
「失礼します!!!」




 振り向くな。




 振り返るな!





 泣くな!





 全部自分がやった結果だ!



 昨日のうちにまとめた荷物を持って、東堂は兵舎を出た。見送りはするな、と言われているのか誰も顔を見せなかった。


 それでいい。


 俺は納得しないままの道なんか行かない。
  




 国から出ていくようにとまでは言われていないが、東堂はここから離れたかった。すっかり馴染みになった風景が、きらきらと眩しく見え、後ろ髪を引いてくる。

 いつの間にかこの国は、自分の故郷になっていたのだな、と東堂は感じた。だが、そこから出るのも一興だ。きっと面白いに違いないーー。




 王都の結界前まで行くと、自分を待つようにトルイストが立っていた。
「ーー師団長……」
「トードォ」

「すんません!」
「すまない!」
 ふたりは同時に頭を下げた。東堂は慌ててトルイストに頭をあげるように言う。

「いや、なんで師団長が謝るんですか!」
「私達もおまえがそんないい加減な奴だとは思っていない」
 自分を見る真摯な目が、思いやりにあふれていた。

「……」
「権力から守ってやれなかった。本当にすまない!」

 東堂は顔をくしゃくしゃにしながら笑う。
「ありがとうございます……。すげーうれしいです!俺は師団長に育ててもらえて、めっちゃよかったっすーー」
「そうか。私も、おまえがいて、よかったーー」
 涙を流すトルイストを見て、東堂の目からもとまっていたはずの涙がこぼれていく。

 ーーいろいろあった……。楽しかったなぁーー。



「東堂ー!」
 自分を呼ぶ声に顔をあげる。
 友達が立っていた。自分にはできない決断をした友達だ。

「兵馬……」
「行くよー!」
 
「ーーーー」
 東堂は頷いた。

「俺、行きます。ーー見送り、すんません!」
「ーーああ!」
 最後は笑顔を見せてくれたトルイストに、大きく敬礼する。


 感謝は言い尽くせねえ。あんた達がいたから、俺はこの世界を楽しむ事ができた。


 さよならだ、魔法騎士団!!!






「どこ行くんだよ……」
 アジャハンには行けないはずだ。
「とりあえず、海国オランジーの別荘」
 笑いながら兵馬が答えた。

「超セレブじゃん」
 買ってもらったのかよ。
 ほんと、世界の違いに嫌になってくる。

「僕の購入した別荘で~す」
「うそっ!」

 そうだった。
 隣りの友達は他人に頼らなくても自分で稼げる奴だった。向こうでも部費が足らない部活の相談に、よくのってたよなーー。
 ふふっ、と東堂は笑う。

「海が見えるから、東堂にはちょうどいいよ」
「なんでだよ」
「ほら、失恋すると海が見たくなるんでしょ?」
「ーーならねえよ」

 くすりっ、と兵馬が笑う。
 
「次の事、考えてるんでしょ?」
「ああ、早く竜殺しになりてー」
 すげー賞金稼ぎになってやる!

「パラダイス島周辺にも竜殺しが多いんだよ。ジュナが連れてってくれるって」
「ラルさん、ーーあのひとと仲が悪くなってねえ?」
「大丈夫だよ。どんな状況でも気にしないひとだから」
 褒めてるのかけなしているのかわかんねえなーー。


「よし!気合いいれんぞ!」
「どれぐらい斬れば竜殺しを名乗れるの?」
「マスタークラスを5匹倒せれば、目の中に何か浮くらしい」
「へぇー、そんなのあるんだ」
「見せてもらえよ」
 ラルさんなら絶対にあるだろう。
「ジュナは星の目っていって、近くで見るときらきらと光が見えるんだよ。ユーリも同じ目をしてるんだ」
 頬を赤くした兵馬が嬉しそうに話す。


 めっちゃ好きやんこいつ。めっちゃ惚れてるやん。


「ーーあっそ」

「東堂ーー」
「何だよ」
「ーー何でもないよ」
 兵馬が言えなかった言葉は、東堂には何となくわかった。

「そんなんじゃねえよ……」


 まっ、元気だそーー。








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